2007年12月26日

My little snow

stardsut.JPG

■雪の華:千歳

白いドレスを漣のように翻しながら駆け寄る少女。
青年はシルクに覆われた片手を恭しく取り、その場に跪いて指先に口付けを落とした。
何処までも、何処までも、清楚で無垢で繊細な少女。
触れることにも戸惑うけれど、これは夢の宴なのだ、と自分に言い聞かせながら。
「西洋の地では、麗しの女性の事をマドモアゼルとお呼びするのでしたっけ?」
悪戯っぽく笑いながら立ち上がり手に手を重ねた。
「暫くはご一緒出来ないようで・・・。
ああ、ユキ嬢のパートナーはフィール殿にございましたか」
張り出された組み合わせを、こっそりと羽虫を介して確認する。
片目を瞑って唇を上げる。
「それではまたダンスが終わった後で」



.■プレリュード:千歳

向かう。
義父の片割れに良く似た青い髪。
体温を感じない水の色の肌。
鉱石のように照り返す大きな瞳。
世にも珍しい結晶生物の少女の元へ、迷い無く真っ直ぐ向かう。

「あなたの姫君をお早くお迎えに行ってあげて下さいな」
やんわりとした言葉に微笑みと、矢張り少しの照れを感じる。
きっと自分があの場に居続けても、それはあんまり良い事だとは思えなかったから。
送り出しやすいようにしてくれた事を温かく思いながら、一言告げてその場から離れた。

周囲の何も目に入らない。
知覚の能力を持った精霊の力も必要ない。
ただ足早に、時間を惜しむように足早に。
背中の羽を揺らしながら待ってくれているだろう少女の元へ。


■My little snow:千歳

彼の人の居場所を、間違える筈があろうものか。
巡る末に出会うのではない。
貴女に会いたくて、私は此処に来た。

「ユキ嬢」
会場の片隅に少女は居た。
暖色の灯りに馴染む事は無く、窓越しの夜闇からも浮かび上がり、この世から断絶するようにして。
その光景に息を呑んだ。
今までも一人の少女として扱いながら、小さな子供に接するような気概でいた。
だけれども、こうして身形を整えて相応の場所に立っていると。
(そうか、彼女は雪の女王の化身なんだっけ・・・)
何時か友人に聞いた話を思い出す。
(愛情の末、女王の零した涙から生まれた)
気品と、それに見合った美しさに絶句する。
少女は確かに一人の女性だった。
性別の枠を遥かに超えた純真無垢な心を内に秘める。
とても、とても美しい女性だった。

その事実に涙が零れそうになる。
(自分は何て幸いなのだろう)
この1年間、青年の我侭に少女は嫌な顔ひとつせず付き合ってくれた。
色んな国を回り、色んなものを見てきた。
時には放り出す事も。

「ユキ嬢」
愛しい人。
恋愛とも友愛とも呼べぬ、不思議な愛しさに満ちた人。
手を差し伸べて微笑みかける。
「すっかり待たせてしまいましたね」
ごめんなさい、と付け足して。
もう片手を胸元に置いて礼をしながら。

「どうぞ、最後のこの曲を、私と踊っていただけないでしょうか」

My little snowと名前を呼んで。


■貴方のためにここにいた:ユキ

望む相手を迷うはずなどない。
貴方がいなければ、この夢のような宴に存在することはなかった。

会場の片隅でひっそりと待つ。
きっと迎えに来てくれるから。
優しい声が降り注ぐ。
ほら。
ずっと一緒だった。
色んなところに連れて行ってくれた。
頭の上が特等席、色んなものを見せてくれた。
ずっと一緒にいたい人。
これからも知らないものを教えていただける?

差し出された手を取る。
感情を大きく示すことのない娘がこの上なく幸せそうに微笑みながら。
自分より幾回りも広い手を両手で取り、たどたどしくキス。
「お応えの仕方がわからなくて(’’*」

喜んで、告げた後は信を置いて身を任せるのみ。


■Smiles and Tears:千歳

手の甲に冷たい唇。
凍てつく吐息が爪先に触れて。
彼女の身体に温みは無かったが、その表情はかつて見たどの表情よりも、温かみを持っていた。
「・・・千歳は、驚いてばかりです」
膝を折って礼をする少女。
恭しく手を取り、流れ出した音楽に合わせて、まずは一歩。

私の小さな雪。
いつだって抑えきれない好奇心に輝いた目を、頭の上できらきらさせていた。
移りゆく景色を、季節を、真っ直ぐに心に刻んで。
そんな貴女を独占するつもりは毛頭無い。
二歩、三歩、四歩。
足を運ぶたびに胸元の花とドレスの裾が揺らめく。

貴女を愛する人々から、貴女を独占する気は無い。
二人だけの世界が欲しいとは思わない。

それもまた魅力的ではあるけれど。
ただ、貴女とは、貴女だけとは。
「共に」
見知らぬ土地、新たなる人々、そんな道程を。
「世界を、共にしたく思うのです」
二人だけの世界じゃなくて、世界を二人で巡りたいのだ。

ああ、この感情の名前がようやく解った。

尊い人、貴女に捧げる感情は恩愛だ。
初めて花を受け取ってくれたあの日から私は貴女の手を引いて。
特等席の頭の上で笑ってほしいと思っている。

「ほら、見てくださいましな」
気が付けば口付けを受けた窓際まで移動していた。
隅々まで照らすシャンデリアの光は此処も相変わらずで。
人影が少ない事もあり、会場全体が良く見渡せた。

・・・と思ったのだけれど。
自分の視界と彼女の視界は、相当の違いがある事を思い出し。
周囲に人が居ない事を確認してから。
少女の身体を高く抱き上げた。
「笑顔と涙で溢れておりましょう」
悪戯っぽく笑いながら、その場でくるりと一回転。
そっと降ろして再度のリズムを取り始めた。

「千歳がこの光景を美しいと思えるのは、貴女が居るからなのです」
大切にしたい人。
真綿のような人。
「貴女と共に見る風景は、千歳にとってかけがえの無いものとなるのです」
私の雪と呼んでも許されるだろうか。
網膜も鼓膜も澄んだものにしてくれる唯一無二の。

「My little snow・・・」
その響きはあまりに小さく擦れ、雑踏の中に消えていった。


■finale:ユキ 

パートナーの驚いた顔を見て、再び微笑んだ。
上手に出来ていたかしら?

ドレスが揺れる。
私はそれを感じる。
貴方が与えてくれたもの。
自分の力だけでは大きくなれず、補ってくれた。
私だけのドレスも仕立ててくれた。
とてもとても嬉しかったの。
貴方が与えてくれたものは筆舌に尽くせない。

「共に」

それじゃあ私も貴方に何かお返ししなくちゃ。
思考を巡らすがなかなか閃かない。
不意に身体が持ち上がる。
顔が近づく。
「笑顔と涙で溢れておりましょう」
本当ね。
「皆様、とてもお幸せそうね^^」
素敵な宴。
こんなにもたくさんの人の美しい思いを全て受け止め、輝かせている。

優しく抱えてくださっているから、ちっとも怖くはないけれど、ぎゅっと抱きしめた。
両親がしてくれる抱っことは違う、特別な抱擁。
束の間、お姫様。

ダンスは終焉に向かう。
柔らかい言葉が降り注ぐ。
私が、居るから。
貴方にとって、かけがえの無い。
それならば。
「それじゃあ、私、ずっと千歳様のお側にいるわ。」
穏やかな貴方の瞳の深くが翳るなら、私はほんの少しでも照らしたい。
「貴方の望む時は、いつでも」

「大好きよ」
その響きは青年の紡いだ音と溶けるように重なり、雑踏の中に消えていった。


■A wish:千歳

夜闇を舞う雪の結晶。
それは陽を浴びるだけで儚く溶けて消えてしまうけれど。
目の前の少女は違った。
何せ彼女は世にも珍しい夏の雪。
留まり続ける強さを持った、夏の雪。

貴女の信じる「ずっと」という単語に心が痛んだ。

きっと千歳は、ずっと貴女の傍には居られない。
だがその言葉を一夜の夢として忘れる事も、出来ないだろう。
貴女も私も。
「貴方の望む時は、いつでも」
涙がこぼれた。
大粒の雫が少女のドレスに吸い込まれて。
呟いた言葉に柔らかな響きが重ねられて。
青年の頬を伝うものは止まることを知らず。
心配そうに見上げる顔に、笑顔を返した

「千歳は、幸せ者にございますねぇ」
涙を拭いながら、終わりゆく音楽に耳をすませる。
夢は終焉を迎える。

純粋な心を通して見た風景は、この大陸に来る以前には考えられないものだった。
誰もが愛し、誰もが守る、透明な心。
その少女の心からの言葉。
「勿体無いくらい」
最後の弦が名残を惜しむように引かれる。
「貴女というご友人に恵まれて、本当に幸せで」
言葉が詰まる。
ステップも止まっていた。
涙だけは止まってくれなかったけれど。
「ね、次は何処に行きましょうか」

この心に染み入る雪は、温かい。
それは夏の雪。
溶けること無く人々の心を温める雪。

どうか彼女の笑顔が絶え間なくありますように。
それこそが私にとって一番の幸いだから。
posted by 夏山千歳 at 20:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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