2007年12月25日

錦の手鞠

夏の怪談の宴にて、披露させていただいたものを転載
怖い話が苦手な方は読まれません方が懸命にございます





.幼い頃の話でもしましょうか
千歳の実家は山の中の古い倭国建築の、平たく大きな家屋なのですが
毎年、この時期になると丸一日家から出てはならないと、きつく注意されていた日がございました
日取りは年によって違いまして
当時、私は言い付けられる度に「また裏山に遊びに行ける日が一日減った」と残念がっておりました

その日になると家の周囲は、しゃんしゃん鳴る大量の鈴の音で満たされました
障子ばかりか雨戸まで締め切られ、家の中は密度の高い空気となります
家中熱く蒸される筈が、何故かひんやりと冷たくて、時折どこかからか風が吹いてまいります
おかしな話にございますね、隙間などありませんのに・・・

八つの歳に、父親の目を盗んでその風を追いかけた事がございました
ええ、何時もは追いかける所か、目で追うだけで怒られますものを
風は家の奥に行くように吹いておりました
部屋をまたぎ、廊下をすすみ、階段をのぼり、また廊下を行きますと・・・
急に、突き当たりへと出ました
白かった筈の壁は茶色く染みて、角には小さな棚と花瓶がございました

こんな場所、ある筈が無い・・・と気付いたのは暫くしてから
千歳の家に階段など、ありませんでしたもの
空恐ろしさを感じて戻ろうと振り返りますと
そこには、一個の手鞠が転がっておりました
義妹が後を付いて来たのかと思い、その手鞠を拾い上げますと
それはなんとも素晴らしかったのです
色鮮やかな糸が丁寧に編まれた意匠の代物にございました
意せず見惚れておりましたが・・・ふと、思ったのです
「義妹はこんな手鞠を持っていただろうか?」と
両手の中のものが急に冷たく思えました
あんなにも鮮やかだった色彩は、ただの緑を帯びた黒になって
手鞠の核が見えるほどにボロボロになっておりました

そう、気が付けば
曲がり角には小さな人影があるのです
人影は段々とこちらに向かい、ひたひたと、ぺたぺたと
何かの冗談だと信じたくて、義妹の名を呼びましたが、返事はございません
ひたひたと、ぺたぺたと
白く痩せ細った手が、曲がり角に爪を立てて掴んで
小鳥のような、それでいて擦れた声が
「兄上」と
茜の振袖が引き摺るように姿を現し、乱れた緑がかった黒髪が、角から姿を見せ始め
地肌が見えるほどに髪は抜け落ちていて、毛根は赤く滲んでいて

そう
あれは髪の毛で作られた手鞠だったのです

・・・その後の事は、一瞬の出来事にございました
いよいよ顔が見えようかという所で、私の名を呼ぶものがいたのです
それは義妹を抱えて、慌てた様子で駆けつけた父でした
そこは何時もの家の中
黄色の壁も小さな棚も花瓶も無く、清潔で冷え切った見慣れた我が家
ようやく安心しきった千歳は泣きながら父に抱きついたものです
義妹も父の腕に強くしがみついておりました

しがみついておりましたのです

・・・見慣れた廊下には、緑がかった長い髪の毛が一本、落ちておりました・・・・・・
posted by 夏山千歳 at 00:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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