2013年08月31日

Dandelion boy

男性同士の恋愛描写があります、ご注意ください
八珠堂威紺のPL、もも氏との競作です


イズレーン郊外の一軒家。
古い倭建築は立地の不便さからか、二人で暮らすには十分過ぎるほどの大きさがあり、結構な面積のある庭が広がっていた。
裏手には納屋と馬舎があり、美しい牝馬が繋がれている。
縁側、ガラス戸、障子、畳、文机。
この国ではありふれたもので構成された、どこか懐かしい空間。

周囲に人家はない、お隣さんに行くのだって歩いて10分はかかるだろう。
反対側に少し歩けば、広大なひまわり畑がある。
縁側に置いてあった本が風でめくれる。

and today, you

ここが僕らの暮らす家。
僕らが家族になっていく場所。


..
■第一話 市場

>ティーラ
(よく陽のさした午前中、市場の中を二人の男性が歩いている

あ、苗あった、もう花もついているんだな
どれがいいかねぇ
根が元気そうで葉に病気のない奴、だっけ?

(その一角では様々な園芸用品を取り扱っているようで、夏野菜の苗を吟味していた

トマトに、茄子に、きゅうりに・・・オクラも案外簡単だって聞くなぁ
あ、苦瓜がある、威紺、苦手じゃないか?

(切り立った崖という立地で生まれ育ったせいか、イズレーンの肥沃な大地に育つ植物の瑞々しさには、強く心打たれるようだ

(いつになくはしゃぎながら市を巡っている

向日葵と朝顔の種も買えたな、肥料はいるかな?
農具は納屋にあったし、あ、でも後何か必要なものがあったら買っていこうか
あっちにも露天が沢山ある

(手元のメモと市場の品々、時々、婚約者に顔を向けて

(花が咲くような笑顔を見せた

>威紺
(鮮やかな紅の翼持つ青年が、楽しそうに様々な苗を見比べて、選んでいる中
肩越しにそっとを覗きこみながら、長身の青年が言葉を挟んでいく)

ん・・・、そう、だなぁ・・・
トマトは葉の色が濃くて、茎がなるべく太いものね
葉と葉の間が詰まっていて、密度が濃いものがいいと思う
あと・・・、病気や害虫は葉の裏から広がるから、葉を裏返して・・・
白くなったりよれたりしてないもの、・・・かな

茄子も基本は同じだけど、葉脈がはっきりしていて、茎が紫がかっているもの、
あと産毛やトゲが白く丈夫なものね・・・
全部上から見るより、裏を見た方が正確にわかるよ
キュウリもオクラも同じような感じかな
オクラは・・・うん、簡単だし沢山穫れるし、品種も結構多いよ・・・?

(故国は、この国によく似た地質だったためか、作物も結構共通している
実家で農業も手伝ったことがあるので、その時のことを思い出しながら、
野菜苗を見定めているらしい)

もうこの季節だから、花の咲き始めてるものが、いいと思う
苦瓜・・・?
ああ、うん、だいじょうぶ。薄く切って炒めると、とても美味しいよね

(庭をどういうふうに改造するかに想いを馳せるのも確かに楽しかったが、
それより、はしゃぐ婚約者の姿が愛しくて、嬉しかった
花の種もいくつか買い、庭を作るための道具や、飾りもいくつか購入した
引いている馬に繋いで行くが、さすがに多くなってきたために、
今日は切り上げるかという相談をする)

ぁ・・・

(その時、少し気が早いながらも花火が、売られていることに気付く
小さな花火のセットを買って、上機嫌に荷物の中に押し込んだ)

・・・・・・♪

(恋人は(自分もだが)炎属性の魔法使いなので、
炎が描く色柄や模様なんかには、新鮮な感慨は抱かないかも知れない
それでも、魔力的要素は何一つ使わず火薬の加減だけで織りなす、
炎の演舞には興味を持つだろうか、と、思いながら)


■第二話 バール

>ティーラ
(じわじわと日が長くなってきた六月の始め、夕方と呼ぶにはまだ明るい時間帯

(縁側にて、何やら書類と睨めっこをしているティーラ

(ふと近づいてきた気配に気がついて顔をあげる

ん、これか?
いやな、千歳とこの辺って飲み屋とか遠いなーって話をしててね
どうやら週に1、2回くらい夜間だけ開くバーの話が出てなぁ
ちょっとその辺の予算の確認というか・・・

(その言葉通り、傍らの紙には数字やら何やらがみっしりと書き込まれている

サトライはね、飲めないからやらないって言い張っているみたいだけど、まぁそこは強制するものでもないし
つってもリンやジュールには向かない場所だからなー・・・リュウさんは喜びそうだけど
・・・お前さんは、そういうのあったら・・・来たい?

(おずおずと顔を覗きこむ、婚約者が未だ人に慣れていない事を彼なりに気遣っているようだった

俺としては・・・やっぱ、その、外飲みはそれなりに好きだけど
お前さんとの晩酌が一番だなって、あの、昔から、ずっと、思って・・・て・・・

(照れているのか視線が合わない

ま、まぁ、そういう話が出てるってだけだ
・・・そういやこないだ最後に何か買ってなかったっけ?

>威紺
(婚約者から聞いた話に、小さく首を傾げる)

バー・・・

(このような状態に『なる』前、威紺は小器用で社交的な性格をしていた
そんなものだから、外に飲みに出るのも勿論好きだったし、
バーテンダーの真似事のようなアルバイトを、していたこともある

その頃の記憶は、今となってはまるで、自分のものではないような
本や映画でも見ているかのように、脳裏に展開されるだけなのだが
それでも・・・

過去、この青年とまだ恋人ではなく、友人として過ごしていた時代
どちらかというと、不良少年寄りだった彼らはよく連れ立って、
夜の街に繰り出したりもしていた

その時のティーラの、今よりはもう少しだけ若い、上機嫌な様子を思い出す)

・・・うん、お邪魔させて、貰う
迷惑にならなければ・・・だけどね・・・
何か、手伝いでも出来たらいいんだけど、それもかえって迷惑になるかな
裏方で・・・、カクテルや軽食を作るくらいなら、多分出来る・・・

リュウははしゃぐだろうなぁ
昔っから酒豪だったし、何よりああいう華やかな場は、好きな筈だし
でも、リンやジュールを夜中に置いておく訳にもいかないだろうから、
あまり遅くまでは居られないだろうね

(ぴとっ、とくっつき)

ん・・・
おれも、ティーと二人で、飲むのが、一番・・・好き・・・
酒・・・でも、お茶でも・・・

(えへへ、と照れたように小さく笑うと、尋ねられたことに一つ頷いて、
花火の包みを持って来る)

せっかくいい縁側があるんだから、こういうので遊んでも楽しいかなって
花火・・・知ってる?
おれたちの故郷ではポピュラーな夏の風物詩だったんだけど
あ、そういえばカリンたちと花火大会は、見たことはあるんだっけ?
そこまで立派じゃないけど、庭先で出来る手持ち花火っていうか・・・

(その時に従妹が撮ったものだと、そういえば写真を見せて貰ったことが、
あった
臙脂色の甚平が、ティーラの纏う赤に似合っていた、ような覚えがある)

えと、興味、・・・ある?
あるなら今度、一緒に・・・、しよ・・・??

(小さな、手持ち花火のセットを眺めて、わくわくと頬を染める)


■第三話 朝

>ティーラ
(朝方の庭先、まだほんのりと湿った髪を指で挟んで、しゃき、しゃき、と軽い音が響く

(およそ一ヶ月が経ち、少々伸びてきた婚約者の髪の手入れをしていた

そういえば、初めて鋏を入れたのは夜だったな・・・
ベランダで月と部屋の明かりだけを頼りに、あんなに長かった髪を切ったんだな
今思い返せば・・・ちょっと無謀だったかな?
まぁ、整えるのは昼間にやったけどさ、はは

でも、そうだね
オーラムの街明りを反射するお前さんの髪と、そう、目が
とても綺麗だった

(長い前髪を一房とって、ちゅ、と小さなキスを落とす

昔のさ、いかにも適当に結んでたり、イド・・・のために切ったお前さんも魅力的だった
久しぶりに会ったら前髪も上げていて、随分と男ぶりが増したなあって、思ってた
だけど、今のお前さんが一番好きだな
俺のために変わっていってくれるお前さんが、一番好きだな・・・

はは、俺、朝っぱらから何言ってんだろうね

(少し恥ずかしそうに笑う

そうだ、こないだのバーの件な
やっぱ裏方の人手が足りないのがネックだったらしくてね
サトライは頑として出ないつってるし・・・まぁ、あの子には、昼間を任せっきりにしちゃってるから千歳も何も言わなかったけれど
だから手伝ってくれるなら助かるって千歳が言ってたし
俺も、お前さんが傍にいてくれるのが、とても嬉しい

リュウさんも、たまには羽を伸ばせたらって思うけど
でも彼女は今の『お母さん』をやっているのが、とても楽しそうに見えるからね
彼女が来たいと思った時だけでも、楽しめたらなって思うよ・・・

朝も夜も、戦場も、花火も
お前さんとの楽しみが増えていくばかりだなぁ
打ち上げ花火ってやつはネバーランド大陸にいた頃にしたことはあるけど
手持ちの花火は初めてだな
火薬で色付くんだよな、不思議だよなぁ
楽しみだな・・・きっと、とても綺麗だし、楽しいんだろう

(後頭部に口付けて

(整ったのか、鏡を持って目の前に移動する

どうだい?
気になる箇所は無いかい?
一週間もすれば、また落ち着くと思うけれど

>威紺
(しゃきん、しゃきんと、心地良い鋏の音。
そしてケープを滑って敷物の上に落ちる深緑の短い髪の毛。

腰にまで届く、長い髪を切ったのは、どのくらい前だろうか。
もうひと月近くになるのだろうか。
旅立ちと。決意と。諸々の誓いを込めて、婚約者に鋏を入れて貰った。

切った髪は和紙に包み箱にしまい婚約者が保管している。
生前より『遺髪』を作り、大切な人に託すのは、威紺の故郷に伝わる風習。
例え何が起こったとしても、そこに帰るように・・・と。

跳ね気味の丈夫な髪が整えられ。
穏やかで気弱そうな青年の表情を、多少なりとも精悍に見えるよう彩った)

うん・・・、夜、だった・・・。
ティーの、新しい服を、見せて貰った時だった、ね。
綺麗・・・? あは、・・・そう、かな??
そう。ティーに思って貰えてたなら、・・・嬉しい・・・な。

(眩しい光が差し込むが、まだ気温は涼しい、早朝の庭先。
頭皮に感じる繊細な手つきがくすぐったい)

昔・・・ああ、うん、あの頃はとにかく、束ねられりゃあ良かった、から。
イド・・・、うん・・・。懐かしいな・・・。
確かあの時は、あまりに躊躇いなく切ったから、イドに・・・心配されたんだっけ。
(苦笑しながら)

里に帰ってからは、立場・・・もあってさ・・・。
普段から、正装レベルに整えることを、要求されて・・・いたから。
髪もそうそう乱せなくて、ちょっと息苦しかったな。

だからアパートに移ってからは結構、適当に結ぶだけ・・・になってたし・・・。
・・・・・・えへへ。おれも今の自分の髪型が、一番好きだ。
ティーが・・・、整えてくれてる、から・・・。

(照れ笑いしながら、肩をすくめて)

あ、うん、・・・バー・・・
あ・・・手伝いに行って、いいの・・・かな?
邪魔にならない・・・??

(裏方とはいえ人前に出る機会は滅多にないので(部隊の遠征などは、もう一人の『威紺』が、主に引き受けているため)、少し緊張気味に呟いて)

じゃあ、おれ、・・・頑張る。
たしかそういう店で働いたことは、何回かあるはず・・・なんだ・・・。
記憶を辿れば・・・、見つかると思う・・・。

(失った訳ではないが、今となってはアルバムを辿るようにしか思い出せない、
かつての記憶に想いを馳せて)

リュウも遊びに来ると思うよ。むしろ接客の真似事とか始めるかも。
でも、うん。あの子は今がとても、幸せ・・・みたいだ・・・。

昔・・・聞いたことあるんだ。
彼女は内乱の続く国で生まれて、ものごころも付かない頃に、家族を失ったって。
それからは野良猫のように暮らすしかなくて、国を変えたいって気持ちもあったけど、
何より食事が支給されるのを狙って少年兵に志願した・・・とか。

幼い女の子には何かと不利な世界だったから、男と偽ってどうにか乗り切ったって。
・・・それでも、家族だとまで思っていた軍の腐敗を、いつか目の当たりにするようになって。

・・・・・・。
多分、今・・・あの子は『家族』を、作り直して居るんだと思う。
もう奪われないし裏切りもしない、本当に愛することが出来る、家族・・・を。
あはは、おれたちと・・・同じ、だね。

(そして、花火に話題に婚約者が乗ってきたことに、安堵の息をつく)

じゃあ近々、花火・・・しよ?
ふふ、それでもし楽しかったら今度は、大きいの買って・・・みんな、呼ぼう??
楽しみ・・・だなぁ、ティーとのたくさんの、思い出が重ねられていく。
そうしてどんどん、愛・・・も・・・、重なっていくん・・・だね。

(はにかんで笑い、そのタイミングの後頭部へのキスで、散髪の終了を知らされる。
鏡を構えるティーラに頷き、長いままの前髪の房(部分的に癖が強く、下手に切るとおさまらなくなるらしい)を、指先に絡ませる)

うん、だいじょうぶ。・・・えへへ、似合ってる・・・かな?
って愚問だよね、おれを一番よく見ていて知ってるのは、ティーなんだから・・・(^^*


■第四話 花火

>ティーラ
(庭に用意されたバケツ、縁側には封を開かれた花火

(夕暮れを過ぎて、まだ少し西の空に赤みが残る程度の時間帯、地面に風除けの板とろうそくを設置していた

よっし、こんな感じでいいのか?
料理や風呂や明り取り以外で改めて火をおこしてってのも、なんか新鮮だな
この15年以上、精霊の火って奴が身近な存在過ぎて、あんまりに当たり前で・・・自分の一部のような気がしてた
ここ暫くはずっと野営もしてなかったしなぁ

(はは、と笑って

さて、どれから始めますかね
どんなのがオススメだ?
線香花火ってのは〆なんだって、なんか前に千歳から聞いた気がする

(腰に手を当てて、花火を選ぶ婚約者を眺めている

なんだろ、年甲斐もなくすっげぇわくわくする
な、最初はお前からやって見せて
じっくり観察したい・・・色んな火を、見たい

(かまどの火、ろうそくの火、精霊の火・・・妖の火、そしてこれから見る火薬の火

(彼にとっては自分自身のアイデンティティにも等しいそれが産まれる瞬間に、胸が高鳴った

>威紺
(夏の夜の遊びとしては、比較的ポピュラーな、花火という遊び。
威紺の故郷でもそうだったのだから、文化の似ているここイズレーンでもそうなのだろう。
ティーラの見たことのある、祭りとしての大きな花火に比べると、迫力や美麗さでは劣るだろう。
けれど手持ち花火の魅力は家族や友人・恋人などの懇意で大切な相手と、
目前に展開される小さな芸術を共有出来ることだと威紺は思っている)

うん・・・準備、ありがとう。
ふふ、そうだね。線香花火は〆・・・うん(笑)。
静かで小さくてロマンティックな花火だから、恋人同士がゆったりと楽しむのにちょうどいいよ。

(くすくすと笑いながら、手持ち花火を選別)

どれも全部オススメかなぁ。
でもそうだね、火薬の妙が見たいなら、変色花火がいいかな。
正確には火薬自体じゃなくて、そこに混ぜられて居る金属粉の種類で、色が変わるんだ。

(シンプルなデザインの花火に火を付けると、そこから火花が激しく吹き出して、
黄色から桃色、青、緑と色を変えてゆく)

あはは、これだけのものなんだけどね。
でも綺麗だったでしょう。
・・・ティー。・・・だいじょうぶ・・・?
あまり目を見開いて見入ったら、煙が入って痛くなっちゃうよ??

あはは、じゃあ次は・・・。
シンプルなすすき花火もいいけど、派手に弾けるスパーク花火を、見てみようか?
本当に、花が咲いたかのように弾けて、可愛らしいよ・・・。

(いくつかの花火を婚約者に手渡し、にこにことその様子を観察する。
大人びて見せてはいるものの、根の無邪気な彼のこういう部分を独占出来るのが、
威紺にとっては何より優越感だった)

>ティーラ
・・・あぁ、いや、うん

(あまりに儚く力強い万華鏡の演舞に、すっかり見とれていたらしい

すごい・・・なぁ、俺の故郷にはこういう文化は無かった
打ち上げ花火も不思議だったけれど、そっか、化学変化で色が変わるのか
炎なんて不確定要素を計算し尽くして、こんな・・・見事なものに仕立て上げるなんて
・・・繊細だなぁ、

(陶酔するように火の消えた花火をまじまじと見つめていた

うん、要領はわかった、よし

(受け取った花火の一本へ、いそいそと、そしてこわごわとろうそくから火をもらう

(かわいらしい色紙がしゅわっと燃えて、そこから火が移り、花火が飛びだす

(うわっと小さく声を上げて肩が跳ねた、我が物顔で噴出する色彩の移り変わり

わあぁ・・・・・綺麗だ、綺麗だなぁ、威紺っ!

(興奮のあまりか羽根耳がぱたぱたと揺れる

(そうして交互交互に、時には一緒に、沢山の花火を楽しんだ

(バケツの中に燃え残った芯が重なっていく、そうして最後に残った線香花火

・・・もうこれで終わりか、なんだか早かったなぁ
まだどきどきしてる
こんな年になって、こんなに感動する事が、まだあったなんてなぁ・・・

・・・最後の〆のやり方、教えてもらえる・・・か?

(おずおずと見上げる

>威紺
(まるで子供のように、無邪気に純粋に。
花火にはしゃぐ婚約者を、目を細めて見守っていた。

炎の属性の魔力を持ち、日常的に火に近い場所にいるからこそ、
見慣れたそれの展開する新たな表情が新鮮なのだろうか。

それは、少年の頃から大人ぶって、ニヒルに振舞っていた彼の、
こういう無防備な姿を眺めることが出来る、
喜びや興奮に近いのかも知れない。

ふと気付くと、はしゃぐ背中を、抱きすくめていた。
危ないと注意する彼に構わず、その肩に顎を乗せたままで、
消費されてゆく花火を見つめる。

鮮烈に踊る火の粉と、愛しいひとの楽しげな表情、
立ち込める火薬の匂い。
またひとつ、記憶に焼き付いて消えない、大切な思い出が増えた)

・・・ティーといると。
いくつ宝箱を用意しても、足りなくなるね。

(不思議そうにしている婚約者を開放すると、
自分も花火を手に取り火を点ける。
そうして、和やかで楽しい花火大会は、線香花火を残すだけとなった)

あぁ、この線香花火、本物だなぁ。

(偽物があるのかと尋ねられ笑って首を振る)

そういうんじゃないけど、高級なものだなってこと。
さすがイズレーン、この技を持っている職人が、残っているんだな。

・・・ん、線香花火っていうのはさ、とても繊細なものなんだ。
持ち手はこよりか藁、しかもこよりは、楮で作った和紙が最高。
洋紙じゃうまく作れないというか、火の玉が落ち憎いものは、
出来ないんだ。
だからこの国みたいな文化じゃないと、材料自体が手に入りにくい。
さらにそのこよりを縒る堅さも、コツがいるんだってさ・・・。

そして松煙・・・ね。
樹脂をたっぷり含んだ松を燃やした時に出来る煤かな。
そこまでの松脂は、枝には含まれてなくて、切り株からしか採取出来ない。
今は代用品で作られてる場合が多いんだ。

だから・・・。
ああ、松煙だなぁ、これ・・・って。
(玉の部分を指でつまみながら懐かしそうに笑って)

他の花火は火薬の中の金属粉で弾けるけれど、
線香花火の火花だけは違うんだ。松煙はつまり・・・炭だからね。
線香花火は、発火材である硝石と燃焼材である硫黄、
そして松煙だけで作られている。それだけで火花を出しているんだ。

だから見た目の印象よりも、随分と手間がかかってるんだよ。

(わくわくと説明しながら線香花火を取り出し、
ティーラと向い合って座る)

・・・線香花火が恋人向きなのはね。
他の花火のように勢い良く前方向に放出されないから、
こうやって・・・、向い合ったり密着して、楽しめるってことなんだ。

小さい、小さい。静かな花火なんだけどね。
でも大菊の花みたいで綺麗な形の火花が散るんだ。

(火を付け、静かに更けてゆく、夏の夜を味わう)

こうして、楽しかった時間を思い返したり、
火の玉がどれだけ長く残っているか競ったり、・・・ふふふ。
やり方ってほどじゃないけど、こうやって楽しむものなんだよ。

(ふと上げた顔と、しばらく見つめ合って、どちらからともなく、
穏やかに微笑んだ)

■最終話 夕餉

>ティーラ
(まだ空は明るく、それでもどこか夕焼けの訪れを感じさせる白澄の空

(台所ではとんとんと包丁の軽快な音が響いていた

や、威紺、おかえり

(ざるの中には既に切りそろえられたきゅうり、表面に水の滴るミニトマト、かいわれの芽

(別の皿には茹でたもやしや、細く切られたハム、紅しょうが、きくらげが乗っていた

今日は何かわかるかー?
最近、暑くなってきただろ、だから少し夏らしいものを作ってみようかと思って
ちょっと早かったかな

(といた卵をフライパンに流し込む、こがね色の薄いたまご焼きが出来上がった

(昨日の残りの里芋の煮っ転がしと漬物を盛った皿をお盆に載せる

(よく見るとシンクの正面の窓辺には、料理本が開かれて固定されていた

(子供向けや酒のつまみ、洋食はそれなりに作ってきたが、やはり作り慣れないものに関しては不安があるらしい

タレの味付けはこんなものかね?

(スプーンにちょんとすくったタレを差し出し

おっけーなら、あとは麺を茹でりゃ完成だ
手ぇ洗ってこい、夕飯にするぞ

>威紺
(婚約者から少し遅れて帰宅すると、玄関にまで濃厚な出汁の匂いが漂ってきていた。
これは中華風の鶏出汁だろうか?
二人暮らしのこの家には、自分以外に台所を使うような人間というと、一人しかいない)

ん・・・、ティー・・・?

(婚約者の名を呼びながら、がらりと台所の、ガラス障子を開けると。
エプロンを引っ掛けた婚約者が、溶き卵を混ぜたボウルを手に、振り向いた)

あ、うん。ただいま。
・・・夕食、作ってるの? ん・・・何だろ、・・・あ、わかった。冷麺だ。

(指を立てて言ってから、ん、ととある疑問を抱き、婚約者に質問する)

そういえばティーは、冷麺って呼ぶ? 冷やし中華って呼ぶ?
っていうか、冷麺と冷やし中華って、違う料理だったっけ・・・うーん??

(首を捻りながら、出来たばかりの垂れを味見させて貰い、『うん、美味い』と微笑う。
そして言われる通りに手を洗い、居間のテーブルを片付けると、食器の用意をする)

他、手伝うこと、ないかな?
運ぶくらい・・・??

そうだ、どうせだから部屋も少しだけ、涼しげにしておこうかな。
確かここに・・・、この前買って来てた・・・。

(週末の買い出しの時に、気紛れで買った風鈴を取り出し、軒に一本吊るす)
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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