2013年05月26日

君の傍で眠らせて。

男性同士の恋愛描写があります、ご注意ください


ぐー、と伸びをする。
青年の手元のメモ帳にはびっしりと魔術論理が書き込められていた。

「なぁ、クロス、聞きたいことがあるんだ」

午前中のことを思いだす。
新緑の髪をゆらす小さな女の子に聞いた理の一部を。


..
「魔法の使い方・・・でしか?」
きょとんとした様子の少女。
それもそうだろう、部隊の中でも魔法のエキスパートとも言える存在から初歩的過ぎる事を尋ねられたのだから。
「うん、前々からお前さんのマナとオドの活用法は変わっているとは思っていたんだ。
無意識に使っているようなものだとはわかっている。
けれど、もし少しでも・・・何か『覚えて』いたら・・・教えてほしい」
ある日突然オーラムの市街地上空から空間の裂け目が『現』れて、そこから落ちてきた、目の前にいるのはそんな少女だった。
それまでの記憶の大部分を欠落していたが、生活に支障はない様子でもあった。
「はゆ・・・」
両手を組んでもじもじと俯く。
決して達者とは言えないながら言葉を捜していたらしい。
暫くそうしていたが、ようやく口を開いた。

「んと、私の外には大きな世界がありますのです。
そこにはとてもからっぽで、そこになら幾らでもあたたかいものを詰め込めるのです。
葉っぱやお花や木に触ると、やぁ、こんにちは、お近づきの印にあたたかいものを分けてあげよう、っていってもらえるのです。
だから私も、ありがとう、お裾分けですけれどクロスのあたたかいものを分けますね、って、お渡しするのです。
私はたくさんの命の橋渡しをしているです。
たくさんのあたたかいものの真ん中で、きれいにきれいに流れるようにしているのです」
「・・・外部からのマナを流動的に行使するんじゃなくて、貯蓄して行使する・・・?
それが、お前さんの素質・・・いや・・・」
十五歳という年齢に似合わないほど、たどたどしく幼い言葉から拾い上げる。
少女自身のオドのキャパシティは、特別に多くも少なくもないように見えていた。
だから不思議だった。
その範疇から外れない程度の範囲でしか少女は治癒の魔法を行使できない。
しかしそれは逆を言えば、限界まで行使したら少女自身に変化が見られるべきなのだ。
疲弊、衰弱、消耗、もしくは度を越した高揚。
そういったものが見られてしかるべきなのだ。
だが少女には、それがない。
「りゅ?ちょちく・・・?んーと、んーと・・・」
「あぁ、いや、すまない。
普段でも遠征の時でも、お前さんはあくまで貯めていたものを使っているってだけ、なんだな?」
「はい、そうなのです」

一瞬の思考を置いて、青年の背を冷たい汗が伝う。
魔法使いとは行使装置の名称だ。
けれど、あくまでそれは自らの意思で、自らを律し、行使装置になった自らを制御する事で初めて真っ当な行使ができた。
どれか一つでも欠ければ待つのは破滅への道だった。
だが、この少女の言っていることは、青年から一つの記憶を呼びおこす。


―――ならば、だから、今を永遠にしよう。


途方もない外部機関に繋がれて、あくまで本人は魔法の行使装置に成り下がる。
この事象とよく似たものを知っている。
「ティーラさんも、そう『したい』ですか?」
無邪気に首を傾げる少女を初めて恐ろしいと思った。
それは最早、自分の手に負えるレヴェルの現象では無いのではないだろうかと。

ヒントを求めていた。
互いの生がある限り恒久的な魔力の循環を可能とした回路の接続方法を探していた。
繋ぐ事自体は難しくなかった。
それは一種の契約でしかなかった。
だが問題があった。
彼のオドを自分は受け付けない、受け付けてはならない。
火の属性は焼き払う性質を持っている。
そして精霊の質は妖の質を殺す。
『精霊質の火』を持つ自分の中に供給された『妖質の火』のオドは、互いに相克しながらも最終的には自分のオドに焼き払う結末に終わった。

「・・・そう、『したい』。
でも俺は、もっと限定的な手段を求めているんだ。
何かに使用するために貯めるんじゃなくって、俺の中に置いていけないから、逃がす場所を探している」
渇いた喉がかすれた声をつむぐ。
接触による一時的な魔力供給なら、その場で受け取ったオドを逃がすことが出来る。
しかし魔力回路自体を繋ぐということは、そこに穴という欠陥があってはならないのだ。
互いのオドが正しく供給されないばかりか、その穴から必要以上の量が漏れ出る事も考えられる。
「にがす」
青年の言葉を反芻する。
暫く目を瞬かせてから、首を傾げた。

「ティーラさん、逃がしたいなら、あるじゃないですか」
「・・・・・は?」
小さな手が指す。
自分の頭部に生えた一対の翼。
一族の中でも稀に発現する、古来の血の証。
今ではマナの受信装置としてしか機能しない、ただのお飾りでしかない翼を。
「ティーラさんのお羽、あったかいけれど、それが一番あったかいのです。
そこ、ティーラさんいつも『受け取ること』にしか使ってなかったから不思議でした。
どうして『渡すこと』に使わないですか?
そっちの方がいちばん、んっと、こーりつがいいです」
マナの発現の、もう一つの使い方・・・いや、むしろ、本来的な使い方。
自分達の始祖が、ただのトリから人の形をもった鳥に成りたいと神様に願って、叶えてもらった。
そのための三つ目の翼。
「うん・・・そっか、うん」

古の大陸に活きた、とある一族の末裔は『この次元ではないマナの根源』と契約して、その身にマナの扉を得た。
その代償に輪廻転生と自我の幾らかを失った。
目の前の少女はどうしてこうなったのかは解らない。
けれど、確かに彼女は、より純粋な世界の『循環器』だった。
まるで世界のために存在しているような、あり方だった。

「なんで、そうしたいですか?」
屈託のない質問が青年に向けられる。
この少女は優しい。
けれどその優しさは、決して生命の流れに逆らわないように必死で踏ん張っている。
「・・・それが俺の誠意だと、思ったんだ」
彼の奥底で眠っていた存在を呼びおこす切欠を作ってしまった、封じていたいと願っていたものを壊してしまった。
その存在を、それでも青年に否定する事は出来なかった。
それもまた彼の一部なのだと、どうしたって愛してしまう。
だけど、だからこそ、その妖の力への抑制力が必要だと思った。
今や彼の意識の主導権はどちらにもなく、封じられていた記憶は妖質を強く伴っている、そしてコントロールする術を持っている。
つまり手段を奪うという事が目的だった。
そのために、彼のためだけに、この生を捧げたい。
捧げさせてほしい。
心を砕け散らせてしまったという責任感もある。
しかしもっと根本的な望みがある。
「マナですか?」
「うん」
彼が生きるための、最初の寄る辺になりたい。
彼が生き続けるための、最後の寄る辺になりたい。
この世界の何処にいたって、たった一つ、いつでも安心して眠れるような、そこが自分の居場所だと思ってもらえる存在になりたい。
君が安心できるための最初の一歩、君が疲れた時の最後の安住の地。
俺は、そうなりたい。
そういう価値が欲しい。
それは自分流に言うならば。

「とても自分勝手だけど、美しいと何時か胸を張って言えるようになりたい。
愛なんだ」

泣きたくなるような先の知れない恐怖もある。
しかし、胸の奥底から湧き上がる望みが、暗闇の中の希望に思えた。
だから、いつか。
posted by 夏山千歳 at 13:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 火の鳥の手紙、又は手記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック