2013年04月07日

いつかの君と僕が生きていく、この地平線の上で 後編

男性同士の恋愛描写があります、ご注意ください


..
『マナ』とは世界を構成する1の元素だ。
魔力であり、物質であり、無量大数であり、清浄であり、真名であり、呪であり、つまりそれは愛である。
そして『オド』とはマナの中でも、生物の体内で生成される物質構成の魔力を指した。
オドは全生物の体内で生成されるものでありながら、たった一種類だけ、オドとは呼ばれぬマナも存在している。
世界根源の大樹と同属性である植物から生成されるマナ。
それだけは、水や空気や大地で循環されるマナと同じ、世界構成のマナに類された。

世界構成とは、世界そのものを成り立たせるための大河に等しく。
物質構成とは、世界の中に存在する物質を成り立たせるための魚だ。
そもそもオドはマナの一種であるのに、どうして別の名前を付けたのだろうか。
それは『魔法』という世界影響の術が存在するからに他ならなかった。

『器』とは、その人物のオドの最大貯蓄量を、『籠』とは、その人物が一度に行使することの出来るオドやマナの限界量を指した。
器と籠の大きさは殆どの場合は比例し、それは才能という名称でひとくくりされた。

俺の魔法はオドではなく、マナを消費する事によって世界影響させる。
オドではなく、マナから籠を掬いあげた魔力を使用して、魔法として発動させるための燃料にする。
つまり俺のオドは生まれてこのかた殆ど使用してこなかったのと同意だった。
だから彼に捧げても問題無いんじゃないかって、思ったんだ。


「お前が魔力の強い存在、そしておれと同属性であるからこそ、ぶつけてみたらどうなるんだろうって。
欲望に負けるかもしれない。
けれど少しずつ。おれの野生を呼び起こさない程度に、少しずつ・・・『お前』を供給していったら。
いつか、おれの中身を侵食していたものが、取り込んだお前の魔力と、拮抗するんじゃないかって。
その結果どうなるのかはわからない。
暴発するかもしれない、野生が抑えられなくなるかも、何の効果もないかも・・・。
わからない・・・けど・・・ってな。でも大丈夫、今はおさまってるから」
「わかった。
まずはそこに座れ」
「ええ? ・・・ああ」
「そもそもさっきもいったが、俺の魔法は外部魔力に依存しているんだ。
つまりそれは内部魔力・・・オドは殆ど使わない形になる。
だから俺のオドをお前さんに渡して、それをお前さんの代わりに、式に明け渡せば侵食が抑えられるんじゃないのかって思ったんだ。
俺たちは『素質』って籠で『マナ』って川から『魔力』をすくいあげて魔法を発現させている。
そこに自分達のオドの量は関係しない、関係しないだけで、ないわけじゃない。
無論、『籠』を酷使すればそれだけ『籠』にガタがくる。
さっき話した過敏状態だな。
大概のやつらはそこまで使わない、そこまで使えない。
でも俺は略式発動の構成を組み込んだから、みじかいスパンで魔力の消費がどうしたって他の一族よりは多くなるんだ」
「そうなのか・・・」
「不必要なオドは、身体の中に留まり、流れる。
時には使うけど、すくなくともこの地上にいる限りはめったなことじゃねぇ。
マナが断絶している場所・・・じゃないとな」

「ん、でもな。侵食するのは式じゃねぇんだ。あれはおれが自分からバーストするのを、口を開けて待ってるだけだ。
そもそも普段はこの次元にいねぇから、召喚でもしない限りあいつからは、来ねぇしな。
むしろおれを侵食する・・・のは、自分に流れる血・・・か・・・?」
「・・・鬼の?」
「ン。だから魔法的種族の干渉で、抑えられるかもしれない、と思いつつ。
また血の味の美味に、余計に喚起されるかもしれない、と思いつつ。
・・・喚起されきらない、ぎりぎりの量の血を・・・摂取していけば、どうなるのだろうと。
なんて・・・はは、危険な実験だな、お前を巻き込むことじゃなかった」
「お前さん、元々、魔力の貯蓄最大値、低そうだもんなぁ」
「自慢じゃねぇが最低クラスだ」
「じゃあつまりだ、そのコップの水を入れ替えちまえばいいんだな」
「・・・・・・入れ替え・・・」
「うん」
「多分、希鈴も伽藺も自分の血に食われたり、壊されることなんか考えもしなかったろう。
伽藺は後天的に封を解いちまった妖に食われかけたことがあったが」
「お前さんの水は少し凶暴だもんなぁ」
「ああ」
「そうか、うん。
まぁ、呪いを解くには清め払うってのが王道ではあるけど、俺の血は精霊の血だし」
「呪いってわけでもねぇからなぁ。本当に生まれ持った血・・・うーん、自己免疫疾患ってぇの?
多分あれに近いんじゃねぇかな、自分の体質の『強さ』に、自分の細胞が壊される・・・。
おれの場合は壊されるってか、妖として作り変えられる、だが。・・・そうしてただの妖になる」
「なっちまうのは問題じゃねぇけど、なる種類が問題なんだな?
「樹妖みたいな平和的なやつならよかったんだがな」


最初は、魔力不足からくる人間質の磨耗が原因で妖怪化が進むのであれば、単純に魔力供給だけを行えば良いと思っていた。
それが鬼化の進行を食い止める手段に繋がるのではないかと思った。

しかし話を聞いていると根本的な問題はむしろ、受け取る側の器の小ささにあると発覚した。
威紺の式を籠と捉えるならば、器の大きさに対して籠があまりに大きすぎるという、レアな素質を持っているのだろう。
無理矢理掬おうと思えば器の中のオドだけではなく、器自体までもを傷つけてしまう。
かと言って、そのまま魔力を供給しても、器から溢れたオドが行き場をなくし、威紺の精神と肉体を傷つけるだけになるのは目に見えていた。
俺のオドの質は炎そのものと言っても良い。
それは治療に当たって良い面もあったが、確かに悪い面もあった。


「さっきは
どうだった?」
「え。・・・・・・・・。・・・甘・・・かった・・・。
頭に、もやが・・・かかって、・・美味いって感覚が・・・。でも同時に、だめだ、って。
歯止めをかける声と、侵食される・・・入ってこられる、って、・・・恐れ・・・。
・・・・・・。
その『怯え』の中で、思ったんだ。あれ、これ、・・・ぶつけられるんじゃね、・・・って」
「俺には、炭酸を飲んだよう、だった」
「それは捕食の感覚だ。・・・昔はそうでもなかった。
でも今は、あの・・・苦味・・・痛み、・・・よくわからない感覚、が時折全身に・・・。
うずくまるような痛みじゃねぇし、気にしないでもいいと思ってたが。
・・・やっぱ、何かキツいもん、・・・なんかねぇ」
「・・・いや、まだ、よくわからない」
「すまない・・・」
「謝る事はない。
ただ、多分、逃げ場が必要なんだ」
「にげ、・・・ば?」
「お前さん、俺のオドを吸収するだけじゃ、駄目だ。
すぐにいっぱいいっぱいになっちまう」
「・・・・・・・」
「外部からウィルスが侵入するように、白血球が過剰に反応するように、俺には、見えた・・・見当違いかもしれない・・・けど・・・」
「・・・・・・・」
「水がいっぱいつまった袋には水を入れちゃいけねぇ。
入れるなら、にがさねぇと。
だから俺が受け止めるか、外ににがすか。
前者はわかりやすい、後者は、まだちょっと検討がつかない」
「う、ん・・・」
「前者は・・・されても俺、多分、平気だ。
ただちょっと『消化』しきるまで止められなくなる。
消化・・・昇華、かもしれない」
「いやいい、あんたは『大事』なんだ。食い散らかしていいものじゃない・・・」
「逆だろう」
「?」
「俺がお前を食うんだ」
「え・・・?」
「俺がお前を染め上げるんだよ」
「・・・しんしょく・・・?」
「その途中でお前さんは酔うかもしんねーけど、本質的には、これは、入れ替えなんだから。
そこを履き違えちゃ駄目だ」

「でも、ちょっと実験・・・して来たい。すぐもどる・・・」
「あぁ」

「・・・うん、違う・・・」

「あれ、おかえり・・・って・・・」
「・・・指向性、かぁ」
「え、何」
「んん。誰でも何でも美味そうに、感じるわけでも、ないらしいって。
少しだけ確認して来た」

「あぁ、威紺、血が濃い方がわかりやすいってんなら、手首で試したらどうかな
首筋よりこっちの方が協力してくれる人も抵抗もすくないだろし」
まずは俺で確認してみ、におい」
「ああ。・・・うん、ほんのりだけど、でも。・・・甘い匂いだ」
「そか、特に『開』いてもいない今の状況でそれなら、まずはそこを基準にしてみるといい」
「うん」
「薫る人間がいたら教えてくれ、俺の方から正式に調査を依頼する。
つっても流石に血舐めさせたりはしねーよ、許可を得られたら少し血液採取はさせてもらうけど」
「わかった。しかしこうなると、炎属性の精霊力に近しいヤツが、可能性高いってことなのかなぁ。
式は今回のこれには関係ねぇけど。
でも、式と使い手は属性の合うものが、引き合うってことらしいし。
つまりおれはそういう属性ってこった」
「純粋な精霊性に反応した線も考えたんだが、きりんに反応しねぇってことは、そっちじゃないのかもな。
「あいつの匂いはなんていうか、逆にちょっとこわかった。
下手に引き入れると浸食どころか、消滅させられそうな気がしたな。
・・・怒ってたからかもしれないが」


俺も威紺も、双方共に炎属性のオドを持ち合わせている。
炎は侵攻の性質を持っているため、他の魔力を侵食しやすい。
しかし同時に「焼きつくす」性質も持っているために、炎のオドが侵攻した先はむき出しの傷口と同じ状態になる。
そこへ炎のオドを注ぐのは対象の魔力回路・・・ないしは肉体・・・を痛める可能性が高いように思えた。

器を越えるような過剰な魔力供給による捕食反応は、詰まるところ生物として正しい反応だった。
妖質のオドの自衛が働き、結果、防衛反応が起きやすくなる。
ならば器に注いだだけと同量のオドを、外に逃がせば良いのだと考えた。

俺の持つ精霊質のオドは、妖質のオドへの強い浄化作用があった。
おそらく九支納希鈴も同質であり、更に純粋性の高い精霊質のオドを持っている。
だから威紺は本能的に恐怖を感じる。
捕食対象がこれ以上もない毒薬だと理解している。

親和性の高い炎属性のオドを食らいたいという本能と、浄化作用の持つ精霊質のオドに対する恐怖。
前者が勝っていたのは幸いと言えた。


「ああいう状態の人に頼むのは気が引けるが、あこんさんに会ったら、聞いてみよう。
んで、確認してみよう」
「姉貴か」
「お前さんがすぐに会える唯一の直系血族だ。
何か手がかりになるかもしれない」
「姉貴の属性は、なんになるんだろう。式は・・・なんだ、ねずみだけどな。
あれちがったっけ、・・・イタチ?」
「・・・イタチとねずみじゃ大分ちがわなくね?
かりんときりんと、マリンは、全員兄弟だったけど、見えるマナも違ってた。
色も形も匂いも濃度も」
「かりんは確か化け狐だったか。まりんは大きな水の塊の化け物だったな。
たくさんの、念と、顔と、溶けた体・・・が見える、・・・濁った水。
希鈴は精霊化した巫女サンだっけか。
みんな、自分の魔力属性と近しいものに出会い、支配してるはずだ」

「ふつーの式は、一応契約の代償払う約束したら、こっちが死ぬまで仕えてくれる。
おれのはつまり魔力が、足りなすぎるだけなんだよ;」
「なるほどな」
「伽藺とこの白覚えてるか?
ふつーは、ちゃんと契約さえしたら、あんな感じの気性のやつが多いんだ。
まぁあれは特別おっとりしてたが。
姉貴のねずみ・・・ちがう、イタチ・・・ああカマイタチ? ・・・も、
姉貴にだけは普通に撫でさせてたしよくなついてたぞ」
「つまりあれか。
お前さんが普段から魔力足りてないせいで」
「Σ」
「かつかつのところどうにか身体削ってるから、妖怪化もはやいと」
「お、おま、おまえっ! ゆ、ゆーてはならんことを・・・!!」
「え。
解決方法を探るには原因の解明が必要だろ」
「・・・ぉう」
「んで、外部から供給しても、それを貯蓄しとく器が足りないと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぉう・・・・・・・・・・。
向いてねぇんだよ・・・、召喚・・・」
「流石に器の移植はなー。
できなくはないだろーけど、殆ど契約みたいなもんだし。
俺の魔力回路の一部をお前さんにリンクさせて、そこから横流しすればいんじゃねって少し思ったけど」
「これからの分は、それでどうにか軽減されるかもだが。
おれの場合、いままでに削っちまった分が、もうなぁ。
・・・そこはもう気長にかかるしかないっぽい」
「うん。
じゃあ、もうちっと練ったら近く回路をリンクさせよう。
早目の方がいい、多分、召喚も少しは楽になる」
「ああ、うん、サンキュ」

「たまにはおにーさん面したいんだ」
「・・・・・・。・・・たよりには、してるよ。いろいろとさ。
幸せに・・・したいし、幸せになりたい・・・。
なのにたまにどうしようもなく、自信がもてないときがあるんだ。
なんでおれが選ばれたのか、やっぱりわからないんだ・・・って、ああ、いや、理屈ではわかってる。
納得がおいつかないだけだよ」
「うん」
「でもお前は一人でも、大丈夫そうに見え・・・。
・・・そんなことないのに、知ってるのに。そんなことないって知ってるのに」
「うん、一人にしないでくれ」
「でもだからって、おれの・・。おれなんか、の、・・・力じゃ。
・・・・・・・。そんなのでなんになるんだろう・・・」
「あかるいんだよ」
「・・・」
「まぶしいんだ」
「ん・・・」
「コイツが傍にいるなら頑張れる、どんなくるしい事も、俺一人でだって乗り越えられると思い込んでた。
今は違う。
お前と一緒に乗り越えて行けると、思っている。
お前は、そう教えてくれた」
「・・・うん」
「俺の過去をまっすぐに見つめてくれて、俺に未来をくれた。
すごいことだよ、いこん。
傷ついても傍にいる、そういってくれた。
俺がそうする覚悟があっても、そうしてもらうには分不相応だと思い込んでいたこの身を、うつくしいと・・・いってくれた」
「・・・・・・うん」
「赤音に靴をくれたように、また俺を救ってくれようとしている。
お前は、きびしいけど、やさしい」
「ありがとう・・・」


威紺が生まれつき持っているオドが鬼化を進行させるというのであれば。
威紺の妖質のオドを薄めてしまうことが鬼化の進行を防ぐ手段になるのではないかと仮定した。
オドとは生きている限り生成され続けるものだから、つまり、生きている限り薄め続けねばならない。
自然界に漂うマナを供給し、自然界へ妖質のオドを逃がすには、この男の魔力適正は低すぎた。
第三者の手によって人為的に操作しなければ、この方法を継続的に安定させることはできないだろうと考えた。

最終的な目標は、八珠堂威紺のオドを入れ替えてしまうこと。
そのために、この男の魔力回路と俺の魔力回路を接続し、互いのオドを『循環』させる。
威紺のオドの中で妖質のものはティーラの精霊質のオドに焼き尽くされる。
ティーラの炎と精霊質のオドは、威紺の妖質のオドを侵食し、足りない部分を満たし補う。
全ては鬼化の進行を防ぐため。

人間として、生を全うしてもらうため。

それがこの治療の目的だった。


「多分、なんだけど。
俺の精霊質の血が、お前さんの色々混ざってる中で、妖に相当する魔性の血への浄化というか。
侵攻作用があるんじゃないかって、少し、試してみたんだが、採取した血で」
「へぇ、そうなのか」
「人間に相当する部分には特に変化が見られなくて、素直に混ざり合ったから」
「だからまだ、鬼化進行の進んでなかった10代のころは、ふつーに輸血とかいけたんだ」
「炎は、侵攻の属性をもつしな。
うん・・・ただ他の属性と違って炎は、後に残るものがないんだよな、侵攻の後が更地状態になる。
そこにこっちのオドを注げばいいんだろうけど、焼け果てた大地に、いきなり劇薬をながすのはちょっとな」
「・・・ふむ」
「そこでお前さんの人間としてのオドを膜っていうか、箱っていうか。
そんな感じにして応急処置みたいにできねーかなとは。
膜自体が『俺のオド』と混ざり合うだろうから、外部との反応はやっぱ出るけど、直接よりは幾分かマシだと思う」
「へぇ。理論としては出来るのか?」
「どーだろ、そこはもうちょっと考えてみないとわかんないかも・・・まぁ、あとは純粋に、自然界からのマナをクッション材にするか、だな」
「・・・それは難しいのか?」
「回路をながす場所だけ決めて、その周りをコーティングすればいい、のかなぁ・・・。
んー・・・マナを感知できる、か?」
「おれ、あんまり、才能ねぇんだなぁ」
「だよな」
「石なり何なりのマジックアイテムを移植してそれを媒介にするかな。
最終的には入れ替えまでもっていきたいけど、まずは当面の足りない分の補強、からだな。
そのために抵抗反応を抑えるための手法模索か」
「ン、わかった」
「いや、これで俺が木属性とかじゃなくて良かったよ。
逆に燃やされてたかもしれん」
「あははは・・・」
「侵攻としては多分、こっちの方が分があるんだ、妖の炎が清めの炎に弱いように。
だから、まぁ、まずは暫くは慣らし作業かな。
いきなり繋いで拒絶反応でてもこわいし。
流石に俺も、初めてのことだから・・・」
「大丈夫、おれの体は、お前に任した」
「はは、うん、頑張るよ」
「お前はおれの、主治医殿だもんな」

「うん、そっか・・・。
飽食からくる、抵抗反応は・・・飢えにも、勝るのが、わかった。
抵抗は・・・ただしいんだ。
ただ、その行動に、難があるだけ、で」
「行動、う、ん・・・」
「お前さんも、多分、そのうち、俺のオドなら感知できるよー・・・に・・なるんじゃ、ねぇかな。
そしたら、わざわざ血を介さなくても、いいし、慣れたら、同時に交換も、できると、おもう」
「・・・ありがとう」
「ううん・・・こちらこそ、信頼していただいて」
「ティルしかいないから。おれが全部を見せられるお医者さンはね」
「藪医者かもしんねーぜぇ?」
「そうなったら一蓮托生だなぁ」
「それもそーか」
「もし医療ミスがあったら、責任はとってくれるんだろ?w 一生かけてさwww」
「ははは、酔狂な物好きのためにもね、一生捧げてやんないとねw」
「体も命も任せるから」
「おう、任された」
「全幅の信頼が最高のマージンだよ。
・・・いや、その先の時間こそが報酬か?w」
「はは。長い長い、・・・人生って時間?」
「うん」


オドの入れ替えのために、まずは互いのオドに慣れる必要があった。
特に俺の魔力回路は全く使用してこなかったため、魔力回路そのものを起動させる事から始めなければならなかった。
作業工程的には籠で掬う対象がマナからオドに変わっただけなので、特に手間取る程の事でもなかったが、意識的な回路の起動を心がけるようになった。
意外かもしれないが威紺の魔力回路自体は長年、使われ続けてきたため、錆付いている様子は無かった。
呼び水としてのマナを注いでやれば、光が生まれるように回路は起動した。

まずは回路を開いた状態で、オドの純度が高い血液を介しての魔力供給から始めた。
先に記した防衛本能からくる鬼化に加えて、そもそもの鬼としての食人衝動を呼び起こすのは想像に容易い。
そのため俺のオドの質を覚えた所で打ち切り、血液はあくまで補佐にする供給に切り替えた。

互いのオドに身体を適応させていくのが第一の目的。
第二の目的は、威紺に俺のオドの感知能力を与える事にある。

数々の本能的衝動を呼び起こす血液ではなく、最終的には手の平を触れ合わせるだけで相互の魔力交換を可能にするレヴェルまで感知能力を高めて、初めてこの過程を終了したと言える。
なので血液供給は、あくまで最低限であるべきだと思い、実行した。
そして。


「食らい、たい、・・・衝動・・・が、・・・・・・・・・おきない・・・。
・・・はは、・・・ははは・・・」
「・・・へ?」
「たぶん、あれ、だ。・・・おさえられて、んだ、・・・お前の、・・・魔力で・・・。
おれの、・・・妖、の、・・・衝動・・・」
「そーゆーことか・・・そうか、うん。
そか、うん、よかった・・・威紺、お前を大事に出来てるんだな、俺は」


魔力供給を始めて、約二十日。
『互いのオドを交換する事により鬼化の進行を抑えるられるのではないか』という仮説の正しさが証明された。
次の目標は威紺が自分自身のオドの操作方法を覚える事。
それはつまり自分の意思で自由に魔力回路を開き、相手に供給できるようになるというステップに当たる。
そして俺への課題は、魔力回路を繋ぐ際にマナによるパイプを作成する方法だ。

炎と精霊質が組み合わさったオドは、妖質のオドを持つ威紺の魔力回路に流すには、相性が良すぎるあまりに劇薬に等しかった。
焼け爛れた魔力回路は、すぐに肉体への変調をもたらす事が予想される。
なので俺のオドをそのまま魔力回路へ流すのではなく、クッションを敷く事で必要以上の侵食を防げないかと考えた。
予めマジックアイテムに『パイプ作成』のためのプログラミングを施して、そのプログラムが作った道にオドを流す方法が現在の最有力だ。
問題は・・・


「問題は、そんな繊細なプログラミングをどーやってするかって事だよなぁ」

それまでの経過を纏めた手帳を読み返しながら、青年は深いため息をついた。
これまで培ってきた知識と技術を駆使して治療の術を組み立てたまでは良かったが、初めて尽くしの事に青年も手探りで進めてきていた。
幼馴染のような天才的な射撃の腕も無く、恋人のような強靭な肉体も無く、かと言って知人のような魔法的才能への異常な恵まれ方もしていたわけではなく。
何にも特化していないからこそ何でも出来るという、どこまでもマルチな才覚を磨き続ける人生だった。
故郷に伝えられてきた魔法の構造を解き明かし、構成を簡略化する術ばかりを追い求めてきたのは、そのためだった。
最短の手法で発動する魔法と、最短の手段で発射される銃という武器を手に、戦い続けてきた。

青年にとって、それまであったものを再構成するのは得意ではあったが、一から全てを組み立てる作業は苦手とも言えた。
しかし諦める事は恋人を見殺しにするのと同意語でしかない。
どこかにヒントがあるだろうと、昔から使い続けてきた手帳を引っ張り出して、半日をかけて振り返っていた。

いつの間にか窓の外からは西日が射している。
座ったまま軽く腕を伸ばせば、ぽきぽきと背中が音を立てた。
「ティーラさん、ティーラさん」
そんな時、ノック音と共に部屋に差し込む少女の声。
同じ部隊に所属する剣士、クロス・パールのものだった。
返事をしてから慌てて扉を開く。
「やぁ、どうしたんだい」
「ティーラさん、今日お休みだったのに、ずっとお仕事してたみたいだから・・・お茶淹れてきました!」

何時もの武装姿とは違い、いかにも街娘らしい服装に身を包んだ小さな少女。
この間は動きやすそうなボーイッシュともとれる格好をしていた。
曰く、今日のような服装は、この間まで同じ部隊だった女性が見立てた服だと言う。
年齢の割に情緒面の発達は遅く、あまり服装に頓着がないらしい。
若葉のような髪に赤いリボンだけが、何時も変わらずふんわりと揺れている。
「そうか、仕事ってわけじゃなかったんだけど、確かに少し疲れたな。
ありがとう、この間、お茶菓子を貰ったんだ・・・一緒に食べようか」
「わぁい、お邪魔しまーす!」
無邪気に笑いながら、ソファの前にあつらえたローテーブルにティーセットの乗ったトレイを置く。
その様子を尻目に、貰ったばかりの缶を何処にやったかと探している、と。

「・・・、・・・クロス?」

背中に感じる、小さな温もりと鼓動。
そこに邪な思念も目的も無く、ただただ注ぎ込まれる体温が、この身体の中に溜まった澱みを分解して。
「・・・クロス、大丈夫だから、そんな」
「だってティーラさん、少しお疲れみたいです」
「そんな顔色悪かったか?」
「お身体じゃなくて、んっと、マナの流れが悪い、です」
振り返った先の顔が、何時もより真剣味を帯びている。

少女のオドは木の属性を持っていた。
木属性とは命そのものを司る属性に当たる。
少女は植物から『命』を分け与えられ、そして少女の中に貯蓄した『命』を他者に分け与える事で『回復魔法』を行使した。
少女の器はとてつもなく広いが、籠は不釣合いな程に小さく見える。

「悪い・・・悪い・・・違うかもです、んと、ティーラさんのマナの道が荒れている気がしますです」
「・・・」
「前までそんなこと全くなかったのに、何かあったですか?」

行使できる力の小ささに反して、少女は自他を問わずマナの流れに敏感だった。
今も、そう。
「そんな事まで解かるのか、お前さんは・・・いや、そうか、考えてみたら、そうだったか」
「はゆ?」
植物の作り出すマナを体内の魔力回路に保管し、それを他者へ分け与える際に取り出すという工程。
少女の回復魔法の行使方法を思えば、あまりに当たり前過ぎた。
そして、それはもしかして『マナによるパイプ作成』のヒントになるのではないだろうか。
威紺だけではない。
初めての魔力交換という経験に、どうしても荒れざるを得なかった魔力回路を見抜いた、この少女なら。

「クロス、少し相談がある」

威紺となら、どんな世界線でだって出会えると確信していた。
それでも、たった一つ、共に生きる為の道が見つかるとは思いもしなかった。
人として生まれて人として死ぬ。
当たり前の人生を、一番近い距離で、ずっと隣で、全うできるとは考えもしなかった。
だから俺は、この奇跡を手放さない。

あいつと生きる為の新しい道が開けるんじゃないかと思った。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 火の鳥の手紙、又は手記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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