2013年04月06日

いつかの君と僕が生きていく、この地平線の上で 前編

男性同士の恋愛描写があります、ご注意ください


..
自室で古ぼけた手帳を片手に何やら書き綴っている青年が一人。
艶のある飴色の手帳とは対照的な、真新しい深緑の手帳には右肩上がりの文字がびっしりと書き込まれている。
それは、ある一人の人物が人形だった過去をやり直し、人間として生まれ変わるまでの、これまでとこれから。

青年の恋人である八珠堂威紺の軌跡の全てだった。


発端は、些細な告白から始まった。


「クロスはさ、普通じゃないんだ。
・・・あいつ、空からふってきたんだ、何かと思うかもしんねーけど」
「ほう、またなんだな、冒険物語の幕開けみたいな、登場だな」
「うん、空間が引き裂かれたんだ。
オーラム首都のど真ん中で、俺はちょうど、部隊申請に向かう途中だった。
何がおこったか理解しがたかった、それが『黄金の門』の示しだったのか、今でも少し断言できない。
でも、まー、人のいい衛兵さんがいてな・・・黄金の門の事例もあってか、ひとまず俺が引き取るってことで話に決着がついた」
「そうだったのか」
「あの子は、ここにくると、うずくんだ。
森がうずく、木々が、木々のマナが、騒ぎだす。
これがそれを強く感知する」
「マナ、ねぇ・・・木の属性に近しいのか」
「・・・。
あの子が、傷ついた木に触れると、分け与えるように癒えるんだ。
逆に、あの子が転んで擦り傷なんか作ったら、あの子がふれた木が、受け取るようにその傷を癒す」
「へぇ、不思議な子だな」
「樹妖なのかと思った。
でも、あれは違う、人間だと俺のマナがつげている。
たまにわからなくなる・・・いろんなことが、でもたった一つ、はっきりしている。
俺は、どうしようもなくあの子を守りたいし、あの子も、どうしようもなく俺の言葉を信じきるんだ」
「うん・・・。樹妖でもたしか、自分の親種以外からは、生命力は貰えなかったはずだ。
不思議な子なんだな」
「ずっと胸に秘めていたんだ・・・誰かにいいたかった。
あの子が『何』なのかを、解明したいと思う気持ちが、少しだけ・・・ある。
だから、威紺。
俺が『あっち側』にいかないように、手を握っていてくれ」
「・・・・・・あっち側。
それはお前にとって、怖いことなのか?」
「・・・まるで、理屈抜きに魂が、拘束されているようなんだ。
何かの意思で・・・」
「・・・・・・・・・。わかった、離さない。といやぁ、話は早いんだろうな。
でもな?
思考じゃなく本能で考えろ。その束縛は強制的なものか?
それともお前の本心が、そのクエストに従事することを、望んでいる??
思考はだめだ、支配されている可能性が、ある。
本能が恐れるなら、その恐れを信じろ」
「・・・今は・・・まだ、わからない」
「なら慎重に答えを出せばいい。
ただ一言いうならば、『あちら側』にいかずして、『あちら側』の謎は解明できないぞ。
つまり何かに従事するときは、共に落ちるかもしれない可能性を、覚悟しないといけない。
その上で、絶対に落ちない、絶対に戻る、ただ潜るだけだ、・・・という、精神力が必要になる。
お前が本当にそれを解明したいなら、おれはこの領域に引き止めることは、出来ない。
けれど、お前と一緒に潜ることは、出来ると思うぞ。
・・・期待はずれ、だったか?」
「・・・とんでもない。
流石は俺の恋人で、流石は俺の、相棒だ。
ありがとう、威紺」
「え? ・・・ああ・・・。
妖魔狩りの基本なんだ。穢れを知らずして穢れは払えない、しかし穢れに負けてはいけない、という。
おれらの仕事はそういう形だから。
同属を狩るために、あえてやつらに近付く、・・・仕事だったからなぁ。
時には飲まれるやつもいたのさ。
おれも本当いうと、かなりヤバいとこまで来てるらしい。だから手を引けて良かったのさ。
もうちょいわかりやすくいうなら、多少は悪いことも齧ってきたヤツの方が、悪いやつの気持ちはわかるし、更生もさせやすいだろ?w」
「・・・はは」
「そういうことさ。何かを救い上げるには一旦、同じとこまで落ちないといけない。
でもだからってその世界に、取り込まれちゃいけないわけさ」


人と妖が交じり合って、人が人を捨てていく。
この男は、そういった一族に生まれた。

全ての発端となった会話を回想する。
廻るように積み立て上げた視点への道筋。


「青かったよ」
「お互いな」
「ん」
「でも・・・まだ青い時代に、ティルに会えて、おれは良かった」
「そうだな、俺もだ」
「会えてなかったら、きっともっと、荒れてたなおれは」
「違いない・・・しかし、他人のことばっか笑えない、俺もヒヨリと会えたかどうかも疑わしい」
「はは、どうだろう」
「赤音を・・・ティエモアを生かして・・・やれたかも、わからない
信じられる奴がいて良かったよ、ほんと」
「・・・。
お前と、ヒヨリ嬢の、おかげなんだ。
お前とヒヨリ嬢が、小さな村の小さな幸せってのを、教えてくれなきゃあ、おれはきっと戦鬼のような傭兵に、なってただろう。
小さな村は作戦行動のための補給地、あるいは場合によっては基地、女や子供は略奪していいもの。
そんなふうに、考えるように、なっていたかもしれない」
「・・・うん。
良かったな、俺ら会えて」
「本当にな」
「ただそれだけで神様に感謝しなくちゃな」
「・・・ああ」
「この世には地獄も、悪魔も、いるけれど、美しいものだって、ある」
「うん」


「・・・少し、夢を見て・・・」
「夢・・・か」
「ちょっと、なんだ、こないださ、昔の知り合いにあってさ。
そいつにいわれたことが夢の中で・・・赤音に、いわれて」
「何を言われたんだ? 
・・・ああ言える範囲でいい、プライベートだろうしな」
「・・・人殺しって」
「・・・・・・はは」
「そんなの仕方ねぇのになぁ、生きてくためだから」
「人は・・・特別だと思うか?
どんな生物も、生きるために、生物を殺す。
草食動物だってそうさ。
その生き物が『生きていた』歴史を、目に焼き付けているか否か。それが狩るヤツや戦うヤツと、商店で食材を買うヤツの違い、・・・だけじゃねぇか?
それにな、守りたいけど守れなかったものは、殺したとはいわねぇ。
それは・・・力が及ばなかっただけなんだ。
足りなかったものはしゃあねぇ。
取り戻せねェけどしゃあねぇ。
ただ次に同じことをしないように努力はするべきだ。だからおれらは強くならねぇといけねぇんだよ。
・・・な?」
「・・・大丈夫だよ、強がりなんかじゃねぇ」
「うん」
「輪廻転生を信仰してきたんだ」
「ああ・・・」
「つまりそれは、その瞬間までの生であり、その瞬間までの命でしかねぇってことだ。
俺が殺そうが、寿命で死のうがそれは、あくまで、その瞬間までなんだ。
だから、死地に旅立った魂には敬意だけを表すればいい。
あとは残された、今、まだ生きているものの仕事だから、葬式は、生きている人間のためのものだから」
「ふむ。おれは輪廻転生っていうと、死んでも命ってか魂は還ってくる、って考えかと思ってたが。そういうんじゃねぇんだな」
「次のサイクルにいくんだ・・・そういう考えのもとで生まれ育ったから。
ただ、それでも、なんだろうな。
自分で決めた事だし、納得してる、割り切っている。
その上で・・・たまに・・・情がわくことも、ある。
情は、思想を超える、時がある」
「・・・」
「時々、その情に、押しつぶされそうになる」

「死者にはな、それでいいと思う。
でもさ死者は・・・生者だった、・・・だろう?
なら刈り取る者の使命として義務として。刈ったやつらの生き様を覚えていりゃあいい。
死んだら器だ、そこまでだ。だからこそ戦いに赴き散った、その意気込みを覚えておく。
おれはそれが刈るヤツの、・・・仕事のひとつだと思う」
「・・・ん」
「お前、刈ったヤツの顔、覚えてるか。
そいつにはきっと家族があって、友人があって恋人もあった。その人生に思いをはせるだけで良いんだと思う」
「忘れられるやつがいたとしたら、そいつは傭兵に向いていないな」
「はは。
それだけで、そいつが生きてきた歴史は、無にならねぇ。
こんな場でいうことじゃねぇかもしれねぇが、お前はおれを選んだ・・・よな?」
「うん」
「おれにまつわるいろんな呪いも、すべて飲み込んで選んだと思ってる。
だから言う。もし、死後に転生やら何やらで、次の生があるとしたら。
・・・次こそ。お前はヒヨリを探し出して、最後まで幸せになれ」
「・・・」
「おれは転生出来ない。
お前と出会う何年も前に、この魂を捧げる契約をした相手がいる、だから死後は極楽とやらにも、地獄にもいけない。
だからこそティル。現世の生ではお前だけのものでありたい。
死ぬその瞬間までお前のものでありたい」
「・・・相変わらずだなぁ、お前さんは」
「お前に、ヒヨリ嬢がいて良かったと思ってるのは、本心からだ。
何があってもどうなっても、一人にしなくてすむ。・・・そう思ってる。
無論生きてるうちは、どうこうなるつもりなんか、ないが。
ただ死んだあとのことなんかわからねぇからな。
そこまでの命ならいいが、それ以上も何か繋がるんだとしたら、おれは間違いなくお前を一人にする。
だからヒヨリ嬢との誓いは大切にしていて欲しい。・・・そう思ってる」


「・・・そのさきで、そのさきが・・・こわい・・・幸せになれなかったら・・・どうしよう・・・。
期待はずれの俺だったら・・ど、うしよう」
「『たら』?」
「いや・・・ちがう・・・大丈夫、わかってる・・・。
信じれば・・・いいんだ」
「はは、戦う前から、負ける話?
そこさ、抑圧しない。怖くていーじゃん、信じられなくて当然じゃん、そんでも戦うしかないじゃん。
・・・信じようじゃねぇよ。信じられる・・・そう思うまで戦うんだよ。
大丈夫、負けって思うまでは、負けじゃねぇよ」
「・・・・・」
「勝つつもりなら、何度だって戦えるさ。・・・一緒にな」

「だって・・こんな・・・なる前に・・・かんがえなくて、すんで。
だけど、今、いえる・・・の、は・・・俺は、おまえで、よかったって。
それだけは、なんの疑いもなく・・・なにも考えず・・・いえる」
「・・・麻酔で痛みをまぎらわせる生き方。
お前自身がそれを嫌悪してたこと、見てきたつもりだよ」
「あんな、あんな、生き方、だって、もう・・・」
「おれはお前に、多分、麻酔薬はやれねぇ。他で貰ってくることも許さないと思う。
・・・一緒に、幸せになりたい、だけだ。でも偽物の幸せじゃ嫌なんだ。
どっかの痛みに蓋をして、何かを麻痺させて、幸せだと笑うのはいやなんだ。
幸福も人生も、本物がいい」
「・・・・・・おまえなら・・・」
「ん?」
「きらわないで・・くれる・・・から・・・。
負け・・・たら・・・きっと、きらって、くれる、そしたら、もう、諦めが・・・」
「そうだな。負けてもう、戦わないって、なったら・・・しゃあないなって諦める。
でも、それでもまだ戦うって、いうなら。・・・何回でもおれは、・・・共に行く」
「・・・くそぅ」
「ん?」
「諦めなんか、つくわけねぇじゃんかよ・・・。
勝つしか、ねぇじゃん。
くそっ・・・」
「・・・・・うん」


「・・・・・・。
おれはさ、ずっと自分は偽物の人間で、だからなんでもできるって・・・。
・・・何も大事じゃないって思ってた。
でもおれも人間なんだって。本物として生きていいんだって、・・・そう思ったら急に怖くなったんだ。
若い頃・・・覚えてるか?」
「うん」
「イドに初めて会ったあの温泉街。
おれは、・・・伽藺を殺しにいったんだ。
里の決定だったし、おれのけじめだったし、仕方ないって思ってた。
でも、もし、あの時。イドとかウィルさンとかが止めてくれなくてさ、本当にやっちまってたら・・・。
今、この人間であることを取り戻したとき、おれはどうなってただろうって。
・・・ありがとう。一緒にいてくれて」
「ん」
「イドにもウィルさンにも、ありがとう・・・だなぁ」

「俺とお前さんさ。
たぶん、どっかで潰れる可能性があったよ」
「・・・はは、・・・うん」
「今、そしてこれから先に関しては、俺、そんなの許さねぇし許させねぇけど。
別のどこかの可能性は、きっと、そうだった時もあったと思うんだ。
お前さんは修羅になって、俺は人形に成り果てる、そんな未来」
「うん・・・」
「今この結果は運命じゃない。
俺はもしかしたらヒヨリに会えなかったかもしれない。
会っても、恋をしなかったかもしれない。
この手にかけていたかもしれない。
お前さんは俺たちの幸福を見なかったかもしれない。
そうして、ちいさな村のちいさな幸福を認識せず、修羅になり、人形になり。
でもな、俺、たったヒトツだけ確信してる。
俺とお前は、必ず出会う、幾億回繰り返してもだ。
それ以外のビジョンは見えねぇってことは、これは決定付けられている。
逆を言えば出会った先に何があるかはわからない。
幸せである事も、不幸せである事も」

「共に破滅することになっても、きっと幸せなんじゃないかなって、思う。
おれはさ、いっぱいお前に、救って貰ったよ。
お前は知ってるかな、・・・知らないかなぁ。
本当は、本当の本当に『人殺し』なのは、おれの方なんだと思う。生きるためじゃ、なかったことだってある。
必然だとおもってたんだ。もっともっと、ひどいこともしてきた、・・・のかもしれない。
それでも、・・・お前はおれで、いいという」
「ならば、今ある、その道徳観を大事にするんだな。
IFをないがしろにしたら、嫉妬されちまうからな。
俺もお前さんの知らないところで色々やったもんだよ、お互い様さ」
「道徳なんて本当はわからない。多分知ったのは『愛』なんだと思う。
ここで対峙してるこいつにも、愛するやつがいるんだ、・・・愛されてるかもしれないんだ。
そう思うように、なっただけだと思う」
「道の徳だろ」
「・・・そういうものなのかな?」
「徳ってのは、愛に付随するもんさ」
「ふうん・・・そっか」
「愛をもって道をいくならそれがお前さんの道徳だよ」
「ありがとう」

「なぁなぁ、そろそろさ、ピアス変えてもいいのかな」
「まだだめかな。一ヶ月・・・らしいぜ?
でも穴さえあいちまったら、回復魔法でどうにかなるのかな? ふさがないように・・・。
だとしたらまぁ、上手くできるなら、いいんじゃないか??」
「そっか・・・悩ましいな。
でも、じゃあ、もう少し待つ」
「うん。育っていく愛と同じさ。時間かけたほうがきっと、実ったときが嬉しいよ」
「うん。
たのしみだなぁ」
「・・・ン」


「戻って来た、風の感覚」
「うん」
「さっきまで感覚がなくてさ、最近ノるまで体動かすと、よくあるんだ。
集中・・・心頭滅却とやらで感覚を変えることはあるが、そういうんじゃない、もっと麻痺した感じ・・・」
「ふむ」
「でも、うん、戻った。疲れてたような感じも、収まったよ」
「はは、うん、よかったな。
俺は逆だからなぁ」
「ん?」
「魔法って分野で、ずっとそれにだけ集中して行使していると、感覚が鋭敏になりすぎて、ちょっと頭が痛くなる。
皮膚のすぐ下がちりちりするような、触れたもの全てがとげとげしいような。
まー、そんなのはめったにないよ」
「へぇ、魔法ってそういうもんなのか」
「どうだろうな、俺は外部魔力に頼るタイプだから」
「おれはそこまで極めたことはないからなぁ、極力使わないようにしてるくらいだ。
こっちは使えば使うほど食わr、・・・・・。・・・リスクが増える方だからな」
「はは」
「だからなるべくは肉体だけで、いけるとこまで・・・いく」
「そーだね。
俺が傍にいられたら補ってやれんだけどなぁ」
「・・・はは、うん。・・・お前がいるからな、だいじょぶ。
お前がいるから、やすやすと・・・は、・・・食われない・・・」


「・・・・・なぁ、威紺、魔力供給って、できっかな・・・?」
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 火の鳥の手紙、又は手記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック