2013年03月05日

新しい場所

恥じることばかりの人生の中、振り絞った勇気はすっかり使い果たして、あるがままに生きていくしか無いと思っていた。
緊張で肩が強張る。
ヒヨリ。
君を喪ってから、それでも君への気持ちは変わらなかった。
限りない母性への尊敬と、愚かなほどにまっすぐな姿勢への見下し。
君となら生きていけると思った。
農夫として地道で穏やかな生活をすることのできる、新しい自分になろうと決めた。
その瞬間、君としか生きていけないと思った。
俺は今でも血に手を染めて、それでも慕ってくれる子供達がいて、友人にも恵まれて。
ヒヨリ・・・ヒヨリ。
君と描いた未来を手に取ることはできなかったけれど、ずっと、生きてきたよ。
その中で育んだ・・・たった一人への想い。

なぁ、ヒヨリ。
今、初めて海を見たときのような、胸の高鳴りを感じている。



CLANNAD
『願いが叶う場所』


..
「久しぶり、九月以来・・・かな」

「これ、お前さんとあけようと思ってたとっときだ。
つっても、もう後一本しか残ってねぇんだけどな」

「三本あったんだけど・・・昨日、一本あけてさ、最後のは赤音が嫁に行ったらくれてやるんだ。
それだけ決めててさ、まぁ、つい三本も買っちまったのは、浮かれててな、はは・・・」

「なぁ、新しい居場所はどうかな、ここは静かだから、退屈じゃないかい」

「海が見える場所にしたんだ、お前さん、二回しか見られなかったから。
好きだって言ってたから」

「俺も、好きだよ・・・海の見える場所、初めて見たときから、ずっと、ずっと」

「新婚・・・なのかな、いや、婚前・・かな。
旅行、楽しかったな。
俺の故郷くらいしか行けなかったけど、船にも乗ったな、山道、きつかったかな・・・」

「ずっとあの暖かい場所で生きていて、お前さんは何一つ不満をこぼさなかったけど。
でも、世界の広さに触れて笑っていたお前さんが好きだったよ」

「もっと色んな所、連れていきたかったな・・・。
この世の・・・醜いものも、沢山見てきたけど・・・美しいものだって、知っていたから・・・」

「分け合えたらって思ってた、ずっと、お前さんと・・・お前と」

「・・・前にも・・・話したな、ここに移した時・・・。
俺、好きなやつが・・・できてさ」

「なのに、お前のことも、まだ諦めきれずにいるんだ。
お前を忘れたくないって・・・すがって・・・俺の人生の中で一番美しい時間を、与えてくれたお前に・・・」

「恥ずかしい、話、だよな。
でも、それでも良いって、言ってもらえた。
それでも良いんだって、俺の中のお前ごと、あいつは俺を貰ってくれるんだって」

「あいつに、あいつの、幸せを願うなら、本当なら、可愛い女の子とさ・・・まっとうな、恋をして、それを見守ってさ。
あんなやり方じゃなくって、あいつのどんな顔だって、どんな心だって、可愛いと思う、心底、愛しいって思う。
だけど・・・許せないとしたら、俺は、俺を許せない」

「あいつを大事にしたいんだ。
でも俺、馬鹿だから、いっつも浮かれてしまって悲しませているんだ・・・」

「あいつ、馬鹿だよ、お前とそっくりだ。
こんな・・・こんなつまらない男のこと、好きだって・・・傍にいたいって、嫌われ・・・たく・・ないって」

「そんなこと・・・言ってくれるやつ、お前とあいつだけだよ。
だから守りたいんだ・・・そして、護られたいって、思ってる」

「暗くて、冷たいところに一人でいるのは、もう、嫌なんだ。
だけど・・・っ・・・」

「赤音も桂もイドもエドガーも、父さんっ・・・も、含めて。
こいつは俺が居なきゃ生きてけねぇんだって、そんな自己満足で、ごまかして、さみしいのを、何もいらないからって、今が一番幸せだからって、もう」

「もう、これ以上の幸せなんか無いんだから、いつ死んだっていいって・・・!!
そうや、って、ごまかして生きていくの、が・・・もう、もう、駄目なんだ」

「こわい、よ、俺、わがままになってく、これでいいって満足してたのに、もっと欲しいって思い始めてる。
あいつにわがままじゃなきゃ、駄目だって、言われて、見透かされていた・・・気が、した」

「幸せに・・・なろう、って、罪悪感に逃げて生きるのは・・・もう、やめようって・・・」

「言うんだ・・・こんな俺なんかに・・・・・・こんな」

「・・・お前の方が、頭良くて・・・人を操作するの上手かったけど、あいつの方が・・・手厳しいな・・・はは」

「お前は、俺の面子も矜持も大切にしてくれてたな。
どんだけ神聖視してて・・・どんだけ馬鹿にしてたかも・・・知ってて・・・でも、お前が気づいていた事を俺に悟らせねぇで・・・お前、すげぇ女だよ、最高の、女だよ・・・」

「ごめんな、ずっとお前だけを好きでいられなくて、ずっとお前だけを・・・一番にしてやれなくて」

「生きて、いいかな・・・あいつと・・・俺、こんな、優柔不断なのに、お前の事、忘れられないのに、今すぐに一番にしてやれないのに。
俺はまだ、お前の名前を呼ぶと、眩しいんだ。
悲しい事や、苦しい事があっても・・・プライドへし折られそうな・・・事があっても、お前の名前を呼べば、頑張れるって思えたんだ」

「その席に、もう一人、選んでも・・・・・いい・・・のかな・・・」

「・・・、・・・・ヒヨリ」

「ヒヨリ、ヒヨリ・・・ヒヨリ・・・・・・」

「名前を呼ぶ喜びを、名前を呼ばれる心地よさを、教えてくれてありがとう」

「お前が呼んでくれたら何時だって優しい気持ちになれた、そういう男になって良いんだって、許された気がした。
お前の名前を呼ぶたびに、お前の傍に居るのに相応しい男になろうって思えた、それが誇らしかった」

「なぁ、何時か、いつか、許しを請うんじゃなくって、笑って、言い切れるような男になるって約束する」

「だから、ヒヨリ、あいつと。

・・・威紺と、生きていくのを、見守ってて、ください」

「・・・・・。

次は、あいつと来るよ、今度は・・・子供達も連れてこなきゃ、な。
だから暫く二人っきりは、お預けだな」

「ヒヨリ・・・俺はちゃんと元気で生きているよ」

「じゃあ、また、な」
posted by 夏山千歳 at 21:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 火の鳥の手紙、又は手記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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