2012年10月17日

循環のクロス・パール

この魂は循環する。



「それでは木の――を守護するクロス・パールから神官位の権利剥奪に関する会議を始めます」


..
「先の大戦の傷害により神官としてのシステムを継続することが困難になったと報告がありました」

「彼女は友好派の筆頭だからな」

「所詮、出自が人間では神官には成りえないのでしょう。
その精神の脆さは何より歴史が証明している」

「・・・確かに人間はか弱い生き物だけど、それを私の前で言うんだ?」

「確かにその繁殖力、文明を発展させる力に関しては認めます。
ですがエメラルド・グリーン、彼女は我等の誰よりも人に近くあらざるを得ない立場でありながら、人と友好を図ろうとした。
木々はなぎ倒され、草花は踏みにじられ、彼女の愛した森は焼き払われた。
水と土が生命を生み出す基盤なら、彼女が守る――は『生命そのもの』でしょう」

「ならば彼女には人間と渡り合い守る権利がある筈よ、義務だって!」

「ならば彼女には人間以外をも護る権利がある筈です、義務だって」

「・・・火と風は人間に英知をもたらした、ならばその責は私にもあるんじゃないのか?」

「――、何億年も積み重ねて出来上がった巨大な宝石群に宿った意思よ。
ならばどうしてあなたはここにいるのでしょう。
――もまた人間だった身でありながら、どうして今ここにいるのでしょう」

「贔屓したって言いたいのね、彼女が!!」

「その通り、ルナ・クォーツ。
そしてあなたは本来、ただマナの流れを見守るのみであるべきなのです。
どうして闇に、光に、月に関与できますか?」

「落ち着け、ルナ。
――、彼女は確かに人間に対して積極的に関わったよ、この場の誰よりも。
人間が繁栄すればするほど、自分の守護するものが食い破られると知って尚、彼女は人間の成長を祝福した。
それは、クロス・パールが人間を侮らなかったからなんだ。
彼女は彼らこそが真の大陸の支配者だと知っていた。
聖域で生まれ育ちながら人間への興味を捨てきれなかった彼女だからこそ、人間を知ろうとした。
その結果、自分の護るものに迷い、人間からも昏迷者からも荒らされた自分の領分に、誰よりも傷ついたとしても。
彼女は・・・その必要があると確信した上で、そうあったんだ」

「・・・私は、そうあったとしても、それでも人間を選べない。
私の火は何かに偏れば、あっという間に焼き尽すよ。
私は誰よりも無関心じゃなきゃいけないの」

「良いんだ、それはあなたのやり方だから。
私はクロスのやり方を否定する彼女が許せないだけだ」

「でも神官を続けられない事は現実でしょう」

「・・・――」

「・・・どうしましたか、――」

「わたしたちも、また、司るものでありながら、しかしどうじに、マナの意思のながれ、で、あるとするならば」

「・・・そうですね、あなたがそう言うのならば。
それでは神官位は一時的に剥奪、クロス・パールの魂の傷が『癒』えるまで、その任は神竜に預けるものとします。
クロス・パールの処遇についてはエメラルド・グリーンとルナ・クォーツに一任します。
もし一定の期間を超えても成果が見られない場合には、新しい神官候補を擁立します。
よろしいですね?

異論は無いとみなしました。
それではこれにて解散します」




「エメラルド」
「・・・彼女の『魂』の時を戻そう、記憶を封じて、まだ私達が無邪気でいられた時代まで。
異世界にその『魂』を移そう、私も人形を一体用意して・・・そこから見守る」
「私達・・・私達、こんな・・・」
「従官の中から信用のおける者の魂を複製して、彼女に同行させる。
そうだね、ブルー・アゲートが適任だと思う。
次期水の神官候補だ、才能もあるし性格に難はあっても、人柄に信用は置ける。
何より彼女もまた私達の同胞だ」
「エメラルド・・・」
「そんな声を出さないの、ルナ。
あなたの言いたいことはわかる、だからあなたにはクロスの『身体』を守護して欲しい。
大丈夫よ、私達四人ずっと一緒だったじゃない、ずっと一緒に何もかもを乗り越えてきたじゃない」
「・・・えぇ、そう、ね」
「これしか方法はもう無いんだ、私達がこれからも一緒にいるには、こうするしか他は無い。
だから今度も乗り切ろう。
大丈夫、私達はあの頃よりも持てる力も信用できる人も増えたんだから、きっと上手くいくよ」
「・・・うん、エメラルド・・」




「この世界では駄目だったんだ」
「どうして・・・うまくゆくと・・・兄さんだって、行ってくれて」
「ルナ、ルナ・・・」
「クロス、このまま目覚めないの?
私、そんなの嫌・・・嫌よ、だったら、いっそもう神官なんて」
「でも、ルナ、それは彼女の成してきたことを無為にする」
「それでも彼女は人の世界に戻った方が、幸せなのかもしれない、じゃない。
儚くても、笑って生きてくれるかも、しれないじゃない」
「ルナ・・・ルナ、そんなことは、無い。
クロスは誰よりも、誰よりも大地の支配者と自然の共存を願ってた、実行してた。
他の誰よりも、あなたは知っている筈」
「・・・うん」
「まだ望みはある、もう一度、やり直そう。
『あの世界のアゲート』は任務を放棄させた、あれは失敗だったんだ、でもそれだって志方が無い。
今度は・・・クロスを見捨てない、『あの世界のアゲート』だって見捨てやしなかったけれど、それ以上に確かなものがある」
「エメラルド、あなた、眷属を探すのね」
「そうだ、誰だって魂の庇護には逆らえない。
だからルナ、もう一度、一緒に頑張ろう。
私・・・私も、もう・・・」
「・・・ううん」
「ルナ・・・?」
「もう一度じゃない。
何度だって・・・何度繰り返したって、成し遂げるの。
もうあなたを一人で・・・一人で、戦わせはしない」
「ルナ」
「私は、私達を守りたい、だから」






少女は時空を彷徨う。
葉を良くつけた枝のようにしなやかな身体は、細く頼りない幼い少女のものへ。
背負った武器の不釣合いな大きさはそのままに、身に着けた衣類はマナの流動の中で色彩や材質を変え。
萌えるように鮮やかな短い髪、閉じられた瞳は命に満ちる緑色。


私は、どこへ行くのだろう。


何もかもが変質する中で、髪に留めた赤いリボンだけが変わらなかった。
変わることを拒んでいた。


何か、悲しいことがあったような気がする。


それは少女の初恋の思い出だった。
恋と呼ぶにはあまりに淡く、胸に秘め続けた優しい思い出だった。
多くの人との出会いと別れは、少女の心を本質的には癒しはしなかった。
しかし『その思い出』だけは決して少女を傷つけなかった。


何か、嬉しいことがあったような気がする。


だから変わらない。
少女が記憶のほぼ全てを失ったとしても、その証拠だけはずっと残り続ける。
かつて戦争により傷ついた心を確かに『癒』した証拠だから。
いつか少女がその『証拠』が無くたって自分の足で生きてゆける、その日まで。
彼女を支え続ける。
新しい『世界』への扉が開いた、この金色の光の中で、何度でも何度でも。




その魂は循環する。
posted by 夏山千歳 at 23:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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