2012年09月11日

慶びの歌をもう一度




..
■フロアを見下ろす舞台にて:C

静かなざわめきを保つ会場。
それを見下ろす舞台の袖から、白い猫耳がぴょこんと覗く。

「カナちゃん、行けそうなのよ」
「それでは参りましょうか、リンセ」

その奥からは、幼い声音と明瞭な口調がアンバランスな応答。

「あの、千歳は何でこんな引っ立てられスタイルなんですk」
「何となく、ですわ」
「だそうなのよ?」

何処か戸惑いを含んだテノールに、二つのソプラノがきっぱりと返す。

「では、行くのよー!」
「はい。さあ千歳」
「はひっ、あの、だから何でそんな押さないで引っ張らないでぇっ」

かくして舞台上に、のっぽの青年の手を引く白猫、後ろから背を押される青年、楽しげな白服の兎が姿を現した。

【シークレット・慶びの歌】

(ザザ、ザー・・・と会場に響き渡る潮騒のようなハウリング

(落ち着いたソプラノが、風のような声が

(歓談を、ダンスを、邪魔しないようにそっと響いた

ご来場の皆様、ごきげんよう。
この舞台上は(宴実行委員にきっちり申請して)、妾達がジャック致しましたv

という訳で、皆様、この場で結ばれた縁の喜びを抱いて、
そして、満つる月と共に開かれる旅路が幸せである事を祈って、
ご一緒に慶びの歌を歌いませんか?

何方もいらっしゃらなくても、

「舞台は我々のものだ!」

とばかりに三人で歌い散らすだけですので、
会場にも皆様にも不利益は何も起こりません←

ご興味のある方は、どうぞ舞台までいらっしゃってくださいな

実行委員、一般参加者、見学者に通りすがりに、いっそ初めましての方まで
国家も所属も何もかも関係ございません

勿論、これまで通りのご歓談を、ダンスを
引き続きお楽しみいただけたら、とても嬉しゅうございます!

(ザザザ・・ザー・・・と、再びノイズ音が混じり

(何時の間にか舞台を降りた淑女、青年、そして白猫の少女が籠に臙脂色のカードを持っていた

如何ですか?

(悪戯気に微笑みながら、白猫の少女は貴方に歌詞カードを差し出した

■□■歌詞カード■□■

(そのカードには二種類の歌詞が載っていた



あなたと歌うわ 星を見つめて
今宵は見果てぬ 夢を描くの
手と手を重ねて 歩き出したら
終わり無き夜を 慶びの歌

〜淑女版〜



あなたと歌うよ 星を見つめて
今宵は見果てぬ 夢を描こう
手と手を繋いで 歩き出したら
終わり無き夜を 慶びの歌

〜紳士版〜

■慶びの歌 風の行方を見守る深緑の大樹より

「わ、わ」
二人に全てを任せ、舞台袖から見守るだけのつもりだった。
けれどそんなの嫌です!と珍しく我侭を言う兎の淑女に背を押され。
今年も一緒なのよー!と当たり前のように笑う猫の少女に手を引かれ。

私は此処に居る。

楽団に指示し、メロディーが流れ出す。
隠し切れない緊張が尾に出る少女を間に挟んで、向こう側に目を向ける。
オールグリーン嫉妬的な意味で、とばかりに淑女のウインクヒトツ。

伸びやかな落ち着いたソプラノが、風のような高めのテノールが。
絡み合い、混ざり、重なり。
Aの音だけの前奏を紡ぎだす。
少し驚いたような少女へ、悪戯成功の笑みを向けた。

歌声を捧げる。

「あなたと歌うわ 星を見つめて」
本来的には紳士版の歌詞で歌うべきなのだけれど。
そんな些事に拘る必要は、もう無いと思った。
「今宵は見果てぬ 夢を描くの」

シャボン玉が舞う。
虹色の膜に守られた煌めきが、祈りを抱いて空を飛ぶ。
「手と手を重ねて 歩き出したら」
左手には少女を、右手は白い雪のような花束と共に、胸に当てて。
目を瞑っても『解』る、喜びも悲しみも内包した近い未来へ揺れる潮騒のような感情が。
だから。

「終わり無き夜を 慶びの歌」

今は捧げよう。
形無き何かに愛を込めて。

■慶びの歌 神の御手の行く先に祝福を祈る兎の令嬢より

右手側を見遣る。
いつもは気楽そうに飛び回る幼馴染みの、
縮こまった尻尾とパタパタ動く耳が、
そして、幼馴染みと自分に連れ出されるまま、
共に舞台に上がって来てくれた青年が、兎の唇に笑みを灯す。
鮮紅色とオリーブの二対の目を見て、ウィンク一つ。

胸一杯に息を吸い込み、睫毛を伏せ、謡う。


「あなたと歌うわ 星を見つめて」


そして紡ぎだすソプラノは、聖歌の響き。


「今宵は見果てぬ 夢を描くの」


足許の大地が消えても、夜空の星々はきっと覚えていてくれる。


「手と手を重ねて 歩き出したら」


私もきっと、覚えているよ。


「終わり無き夜を 慶びの歌」


この星の煌きを。

■慶びの歌 星の軌跡を謳う白の猫より

昨年に引き続き、舞台に立つ。
今年は全く社交場に来られなかったからとちょっとだけ足取りが重かったのは秘密。
けれど、初登場でいきなり歌いだすというのもありにはありかしらと
緊張という言葉は飲み込んで、尻尾を揺らしつつあたりを見回しつつ
幼馴染のジャック発言を聞く。

歌い散らすだけってカナちゃん、カナちゃん。

いや、その通りなのだけれど、としみじみ頷いて。

大好きな幼馴染と、兄のように慕う青年の愛だ。
じゃなかった、間。
右向いて、左向いて、二人の顔を見て微笑んで
満足そうに前を向くと、一度大きく深呼吸。

そしてゆっくりと歌を紡ぎ始める。

「あなたと歌うわ 星を見つめて」

両隣から響く歌声に合わせて高らかに歌う
沢山の思い出と、沢山の幸せを込めて。

ふっと、思いついたように耳をぱたつかせて
白の猫は魔術で星屑の入ったシャボン玉を飛ばす。

「今宵は見果てぬ 夢を描くの」

最後まで、ううん、
この大陸に足を踏み入れることが出来なくなっても
消えることない思い出と、大切な縁を抱きしめて

「手と手を重ねて 歩き出したら
 終わり無き夜を 慶びの歌」

願わくは、全ての人に幸多き栄光があらんことを―
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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