2012年09月08日

これまでも、これからも




..
■これまでも、これからも@千歳

夏は夜。
月の頃はさらなり。

テラスで満ち行く月を見上げながら、そんな一文が脳裏を過ぎる。
去年もこうして君を待ったね。
その前は君が待ってくれていた。

此処は、思い出深いね。
初めての宴では右も左もわからないまま、シャボン玉の儚さに感じ入った。
来ぬ人へのあてどない手紙を飛ばしたのも、此処だっけ。
そして目を瞑れば反芻される私でないものの記憶、しかして確かに存在する記憶。

此処がとても好きだった。
あるかなしかの照明は満点は星明りを引き立てるための地上の星。
それを反射して闇夜に浮かぶ、母の愛たる人工の雪が降り積もる様を眺めるのが、途方も無く好きだった。
 
梅花、美しい名の君よ。
君に去年、問いかけたね、私をここから連れ出して、と。
あの言葉には続きがあったんだ。
煌びやかな会場と清涼の風を吹かせる君には似合わない、薄暗い願いが。

厭世的な私を、君はいつだって光の世界へ連れて行ってくれた。
君が見つめるまっすぐな浮世は、悲しみに溢れた私の心の曇り空を、力強く払ってくれた。
何度も、何度も、この数年間、何度も。
君の、その当たり前を当たり前とする健全さが何よりも愛しかった。
知識をふんだんに蓄えながらも、相手を立てる細やかな気遣い。
控えめながら自分の意志を忘れない慧眼も、勿論好きだったけれど。

ねぇ、君に千年先の年の瀬まで踊られる魔法をかけた。
この身が朽ちても、この魂が死んでも。
この世界で踊った一時がとても楽しいものなら、それは永久に昇華された魔法になる。

梅花。
生きていくことは、とても大変だね。
もう手放しても良いかな、悲しみに耐える術が、もう無いんだ。
梅花、梅のお嬢さん。
だけど私はあなたに伝えねばならない大事なことがヒトツだけある。

私は、あなたとこうして『活』きていた。

これが最後の春告げワルツ。
手をさしのばす。
微笑みかける、ヴェールが風を含んで、笑顔があらわになる。

神様、この方と引き合わせていただいて、ありがとうございました。
千歳は幸せでした。



これが最後の、私の心の闇を払う光。


■これまでも、これからも、ずっと:梅

朧月の光に浮かぶ静けさの中、その後姿を見つめていました。

夜風が頬をくすぐり私をおいて駆け抜けてゆく。

月の光に溶け込む様にほのかに揺れるヴェール。
その薄い膜に抱かれる月下美人の花をただただ見つめていた。

花の街での戯れを、京の屋根の上での寿ぎを、追憶の中の優しい思い出たちに目を細める。

貴方と出会って少しの月日が経った頃、死の影が時折鎌首をもたげるのに気付きました。
正直に言えば、私はずっとそれが怖かったです。寂しくて、どうしようもなく悲しかったです。

けれど人の悲しみや業を全て理解する事なんて出来ない。
たとえどんなにその人の事を愛していたとしても。

ましてや天寿を全うしたとしてさえも、神に与えられた時間の違いが貴方を奪い去ってしまう。

明日かもしれない、何年も後かもしれない。
でも確実に一人残されることが決まっている未来。

出会った瞬間に永遠の別れが訪れる事が確定する。
なんて残酷な世界なんだろうって、そう思う。

でもね。

あの時この場所で出会い、同じ時を紡いで来た事は、決して当たり前ではないんです。
だからこそ縋り付いて、だからこそ別れを受け止めて、だからこそ愛を込めるんです。

『いかないで』という言葉を必死に飲み込んで、思い出といまの笑顔を大切にして生きていこうって誓ったんです。

何もしてあげられない私でも、共に在れる間に沢山の笑顔を届けたかった。

過去も未来も同じ様に受け入れて生きていきたかった。

貴方がくれた優しい言葉や風流な景色、色褪せない思い出に少しでも何かを返したかった。

私の温もりを忘れないでいてくれますか?

私は貴方が紡ぐ美しい世界のひと欠けらで在れたでしょうか?


私はちゃんと貴方を愛せてましたか?


振り向いた彼にいつもと変わらぬ笑顔を向けて。
寄り添い続けた微笑みに手を伸ばす。


さようなら

私の愛した人と美しい世界。

おめでとう

今までの貴方の生に祝福を。

おねがい

どうか貴方の人生が倖せなものであります様に。

ありがとう

この出会いに両手いっぱいの花束を。

■@千歳

手が触れ合った瞬間に、一瞬だけ強く抱き寄せて。

「メイ・ホア」

踊る。
今まで築いたダンスの手法も、何もかもを投げ捨てて。
あの二人らしいと言わせしめた、風流な様なんか、ちっとも無くて。
「もう忘れろなんて申し上げません。
どんなに辛い想い出になろうと、あなたはヒトツ残さず覚えていてください」

忘れろと懇願した、その方が彼女が生きるのに楽だから、そう言った。
だが返ってきた言葉は、愛した記憶を忘れたくないという、優しくも激しい拒絶だった。

「その代わり、私も絶対に忘れません」
子供のように笑いあう。
「ねぇ、ご存知無いでしょう、この数年、私が生きてこられたのは。
貴女という存在こそが、この乾いた砂漠の水となっていたからなのですよ」
触れ合う程に近づく時は、輪郭だけを残してヴェールが隠してくれた。
離れている時は赤と青の衣装の対比が、金のホールで交互に円を描いた。

君の想いの強さと悲しさを、私はいつも後になって知る。
その度、愛の花が開く。

「ねぇ、だから愛してくださった方の記憶は、絶対に忘れません。
どんなに辛く悲しい想いをさせたって、一生、一生、それに苛まれている姿を想って、私は活きていきたい」
考えすぎるあまりに確約を避ける青年が告げた『絶対』の言葉。

かつて人を信じる術を失い、信じようと努力し続けた、放棄した事もあった。
その中で、時折、信じざるを得なくなった人に出会った。
城で待つ家族、手を取り合う二対の黒曜石、潮騒の国の花と猫、お人よしな白猫、気さくな占い師、優しい女神、嘘ばっかりの聖職者、同じチームの『仲間』。
そして君。
その過程で出た答えが、これだった、幸せとは縁遠い解だった。

君と話した未来への空想に今でも想いを馳せる。
故郷の家族を救い、夏山を解体し、君の故郷に身を寄せて。
君と家族になって、子を成し、そうしたらとびきり美しい名を与えたい。
優しい子になるかもね、意外とおてんばさんになるかもしれない。
私の死後には、虎と青と左と右を遺そう。
だけど主従としてではない、友達として、支えあって生きるんだ。

そんな話をした。
「貴女は生きるんだ」
『普通の幸せ』をあげたかった。
穏やかでともすれば退屈な毎日を、互いにこよなく愛していただろう。
それを与えるには、二人で築き上げるには、私の心は欠けていた。

私に恋をした人は全て、失意と充足の中で息絶えていった。
そう仕向けたのは私。
夏山千歳と共にあれば表裏となった愛憎に苛まれ、その事を何よりも尊いと悦びながら死んでいく。
最後まで悩んだ。
しかし望めば共に来てくれる可能性が高かったからこそ、貴女をそれに巻き込む選択肢を、選べなかった。

「生きなさい、強く儚く優しいメイ・ホア。
傷つきながら何度も咲き誇るあなたはこの世で最も美しい」
夢のような未来への仮定。
そんな話を、した。

春を告げ、薫り高く咲く梅の花。

あぁ、でもたったヒトツだけ。
潮騒の国に行こうって約束だけが守れなかった。
ごめんね、それでも、私は。

「忘れないで、千歳は梅のお嬢さんと出会えて心から幸せです」
これまでも、これからも。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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