2012年09月25日

潮騒(overture)

■共通諸注意
この物語は千歳本筋RPです
本筋RPは全体の流れとして非人道的(具体的には近親間の婚姻、カニバリズム等)な描写、設定が含まれる場合があります(アップする際に冒頭注意として上げていきます)
背後様が在学中の方はご遠慮願います
性描写はありません
道徳の分別、現実と創作の区別のつく方、上記の非人道的描写をエンターテイメントと割り切れる方のみ、御覧になってください

尚、作品中のゲストキャラクター様には、既に確認と了解を得てアップしている事を明記しておきます

OL大陸SNSにて連載(潮騒、思い出の後先、寝覚め、新しい日々まで)
寝覚めにて彪月嬢に、新しい日々にてパーシャ嬢とセイリオス殿に執筆協力頂きました


千歳本筋RP 第三部:オープニング
2012年9月8〜25日筆



そうして流転する。


..
波の音がする。
その浜辺にはよく漂流物が流れ着いた。
遠い異国の流木、七色に変化する硝子の欠片、誰かの託したメッセージボトル。
勿論、深海から打ち上げられた貝殻や魚まで。
数限りなど無く、さざなみの気まぐれと共に砂浜に眠っていた

その日、流れ着いたのは異国の服を来た青年だった。
胸から背には細く長い剣が一突きにされていて、しかし血の流れ出る様子は無かった。
海水に全て流れ出てしまったのかと思えば、そうでは無い。
その首筋に触れれば、確かに冷たくなっているものの、か弱い脈拍が感じられた。
その唇に手をかざせば、今にも消えてしまいそうな呼吸がなされていた。

その心臓を貫く剣がありながら、生きているという矛盾。

青年は潮騒という子守唄の中、砂浜というベッドで眠る子供のようだった。
その名は、夏山千歳と言った。



時折、深い愛しみに襲われる。

もう何も思い残すことも無く、何もかもを諦めた生において、どうして認識を可能とする器官が残っているのだろう。
いまだ働いているのだろう。
フェンスを手放した手を掴んだのは一体、誰か。
答えから目をつむるには結局、好奇心が何よりも勝っていた。
私を殺したのは好奇心だったのかもしれない。

どうしてこの世からは、いさかいが絶えないのだろうか。
誰かが誰かを嫌いになる、憎しみをもつ、苦くおもう。
その過程と結果の全てが悲しい、悲しい。
根絶はできないのだろうか。
愛は何も救わないのだろうか。


清濁に満ちたこの世を知れ、子供達よ。
あなたたちは確かに楽園にいた。


叶わない夢想に目をつむる。
愛しいとは、かなしいと読むものだと何時か物語に書いてあった。
喜びと同等の価値を以って世を彩る不幸の有様を、しかし今は目を背けていたかった。
今はこの冷たく柔らかい孤独の中で眠っていたかった。





深海に沈みゆく。





そうして流転する。






「・・!!・・・?あら、あら」
その青年を発見したのは意外な人物だった。
薄桃色の柔らかな髪を潮風にたなびかせながら、朝の散歩を楽しんでいた一人の少女。
爽やかな朝日の・・・始まったばかりの日常の中にあって、砂浜に人が倒れているだろうと誰が想像したものだろう。
「珍しいこともあるものだわ。
手紙の小瓶ではなくて、可憐な青年が流れ着いている」
長身を貫く剣に気付き、驚きに声を上げそうになるが、すぐに気付く。
不自然なことに血の匂いはしない。
「もし、大丈夫ですか、水の旅をされた方」
慌てて駆け寄り覗き込んだその顔に、少女は見覚えがあった。

青白い顔に触れるものか躊躇っていたが、不意に気付く。
仰向けになっていたその胸が確かに上下していることに。
生きている。
その確信が胸の内に響き渡った瞬間から、少女の行動は早かった。

脈拍と呼吸の確認をして、水の魔法により生み出したヴェールを介して、肩を貸すようにして青年を支える。
元より身長差は大きかった上に、いくら細身とは言え男性を抱き上げることは、魔法の助力があっても叶わなかった。
そうして近場にあった無人の灯台・・・とても小さなものだった・・・に運び込んだ。

「かなり大きそう・・・ね。
どうしよう、直接接触・・・あぁ・・っ!
もう、こういう時に限って短剣を忘れた」
毛布を引っ張り出して、ソファに敷いて座らせる。
剣の突き刺さった箇所は、どうやら剣という栓があるから出血しないのではなく、既に一般的な傷とは異なっているように思えた。
いざとなったら昏倒も覚悟で、自分に出来る最大出力で『癒』す用意をしながら、剣に手をかける。
「うぅ、この剣は綺麗に切れるのかしら」
細身ながら長い刀身のため、重いだろうと思っていたが案外あっさりと引き抜くことが出来た。
刀身に血はついていなかった・・・脂のあとは薄く浮かんでいた。
まるで最初から刺さってなんか無かったかのように、剣も青年もそこにある。

「不思議・・血が刻の流れをとめているのね。
いえ、元々存在しない?」
安堵感からか湧き上がってきた恥じらいと使命感の中。
ぼろぼろになっていた上着を脱がせる。
その胸にはぽっかりとした縦長の穴が貫通していて、タバコで汚れた向こう側の壁が見えた。
「けれど、鼓動の、音、穏やかで優しい音色。
ああ、貴方は。
この先を生きているべきなのだわ」
骨や筋肉や血管は何故か見えなかった。
黒いクレヨンで塗りつぶされたように、小さくて真っ暗な宇宙の中に、しかしうごめく赤い宝石が見えたような気がした。

「・・・干渉拒否、か」
ためしに軽く治癒の術を施してみたが、変化は全く見られなかった。
少女には、その傷口が全ての干渉を拒否したがっているように思えた。
「当人の意思によるものなれば、残念だけれど、致し方ないわね。
ん・・?あ、意識が浮上すれば可能なのかしら。」
諦めて、ようやく包帯を巻こうとした所で。
「ン・・・」
懐かしいと感じるような、風に溶けそうな声。
青年が目覚める。
慌てて水を差し出すも、手を持ち上げることも叶わないように見えた。
清潔な布に染み込ませて、少しずつ飲ませていく。
「驚かれました?
ウチ、不器用ですの、触れて痛かったら言ってくださいましな」
少女の姿を見ても驚き・・・はあったようだが、不信感などを感じているようには思えなかった。
童話の本のように、記憶を失ってはいないらしい。
「・・ああ、ひどく消耗しておいでね。
意思表示として軽く腕に触れるか引くかだけで構わないのだわ」
ひとまず真水で傷口を洗って、常備してあった救急セットで消毒をする。

一通りの応急手当を済ませ、その間に回復してきたのだろう青年から一枚の封筒を手渡される。
促されて封を切る。
取り出したそれは、どうやら古の大陸崩壊直前の、移住船のチケットのようだった。
差出人欄には流暢な筆記体で、薔薇の栽培で有名な淑女の名前があった。

「ウチに、連絡をとってほしいのですか?」

その一言に。
青年は、かすかに溶け出す名残雪のような、薄い笑みを浮かべて。
うん、と少女は力強く頷くと、まどろみ始めた青年に薄い毛布をかけて灯台から出て行った。
包帯を巻くにも頭から足先まで海水に浸かっていた身だ、一度、ちゃんと汚れを落とさねばならない。
それには男性の手が必要かもしれないし、もっとちゃんとした手当てが出来るように必要なものは沢山ある。
高くなりつつある太陽の元、砂浜へ脚を踏み出した。


近隣で仕事をしていた男性の手を借りて、ひとまず青年を自宅まで連れ帰ることにした。
ついた途端に目を開けた様子を見ると、もっと早くから覚醒はしていたようだった。
それから湯を貸し、さっぱりした髪が頬に濡れている様が、なんだか少しおかしかった。
ぼろぼろになっていた民族衣装からシンプルな白いカッターシャツに着替えさせた。
包帯を巻こうとした少女のあまりの不器用さ加減に、青年に取られてしまったこともあった。

傷は塞がらなかった。
試行錯誤を繰り返してみたが、干渉拒否の呪いにも等しい何かがかけられていて、それが塞がれることも広がることも無かった。
・・・広がることが無かったのは僥倖だったかもしれない。
悪化することも無く、良化することもなく。
血が溢れることも無かったが、その傷そのものに変化は無くとも、何かが内側に入れば普通に傷ついてしまうだろうと思えたので包帯を欠かすことは無かった。

青年は眠る時間の方が、起きている時間より長かった。
傍らでよく歌った。
それでも目を覚ますことが無いと知っていたから、ならばせめて良い夢見にねるようにと、静かに歌った。

枕元には花や貝殻を置いた。
終わりかけの芍薬や桜貝、桃色じみた法螺貝。
寝覚めると青年はよく喜んだ。

あまり食べ物を口にしないあまりか、放っておけば水さえも自主的には取ろうとしなかった。
遠慮をしているのかと思ったが、そうじゃなかった。
決してやつれることの無い身体が、生体維持に食物を必要としないことを明確に表していた。

移住管理所の対応は早く、チケットは淑女の元に届けられたという。
何処に住むかは決定していなかったが、容態が安定し次第、居住を移すと青年は言った。
青年のように着の身着のまま移住船に乗ってきた者も少なくない。
そういった人々のために用意されたアパートメントもあったし、希望する者には古く小さなものではあったが一戸建てが貸し出されていた。

歩けるようになった青年と朝の海岸を散歩するようになった。
旅立ちの日が近いのだと知った。

思い起こす。
潮騒の子守唄、砂浜のベッドで眠る姿は。
まるで、御伽噺の―――。



連絡を届けた先は、ある一軒の屋敷だった。
そこで暮らす二人にとっては、知り合ってからの期間は短いながらも、多少以上の面識のある人物からの手紙だった。
水にぬれてふやけパリパリになっていたチケットは封筒の中にあったからこそ、かろうじて形を保っていたのだと思える。
封筒に記してあった名前は『パーシャ・グリシュク』。
そして、その封筒を・・・移住船のチケットを、その屋敷に住む女性、パーシャの元へ送り返したのは。
紛れもなく『夏山千歳』の名前だった。


「お久しゅうございます、セイリオス殿、パーシャ嬢。
ご壮健のようで何よりです」
「千歳君もね」
「あぁ、そちらこそ元気なようで何よりだ」
千歳が首をかしげた先には、一組の男女の姿があった。
片方は固めの黒髪に色の違う青を瞳に宿した拳闘士の男性、セイリオス。
もう片方は蜂蜜色の髪に草原の風をまとわせた薔薇の淑女、パーシャ。

「こうして再び縁を紡ぐことができるとは夢にも思いませんでした。
ところで、ええと、お二方は・・・ご婚約なのでしたっけね」
危うく新婚家庭にお邪魔することになって、と口走りそうになったのを抑えて、確認する。
淑女の方からのもの言いたげな視線に、少し慌てたように笑い返して、改めて祝福の言葉を伝えた。

風が吹く、雲が流れる。
手入れを始めたばかりの庭と鉢植えを背に、秋晴れの中の再会は落ち着いたものだった。
彼らが重ねた年齢故だろうか。
それとも重ねた関係性故かもしれない。
千歳の口元が穏やかな笑みに彩られる。
「とは申し上げましても、お二方の空間にお邪魔することは事実ですものね。
同居の無粋を許していただけたこと、そして信を置いていただけたことに、心からの感謝を申し上げます。
どうぞ本日より、よろしくお願い致しますね」
深く頭を下げる。

『彼』は千歳にとって魂のステージが違う存在だった。
それ故に憧れ、それ故に尊敬して止まない人物だった。
『彼女』は千歳にとって自分の保護者のような存在だった。
彼女の采配を信じた、いざという時の決断を負わせた。

共に、そこに恋慕などという苛烈な感情のはさまれる余地など存在しない。
千歳が安心して暮らすことのできる数少ない人々だったと言える。
「こちらこそな!
じゃあ早速、案内すっからついてきてくれ」
「千歳君、正式な移住登録もまだでしょう?
後で管理所まで連れていってあげるから、早く済ませてしまいなさい」
「はひ、ありがとうございます。
故郷に送った品も引き寄せねばなりませんしね」
高くなり始めた空に響き渡る三人の声。

残暑が過ぎ去り、空気に涼が混じりだした頃、夏山千歳の生きる『新しい場所』が決まった。
そこは以前のような大家族の賑々しさは無いだろう。
あの大陸で暮らしてから初めて、落ち着いた大人しか居ない空間となるだろう。
けれど千歳は安堵していた。
マスターキーを握られていることに、狂信的とも言える安心感を覚えていた。

ここには、大人しか居ない。
だけれど見守ってくれる人がいる。

だから、そう。
何よりも一人ではないことに、深い深い安堵を覚えていた。




(了)
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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