2012年08月28日

第一章 彩りの日々

※時系列的に、花鳥風月の乱の後ではありません
 あの仕合がこのRPへ直接関与することはございませんことを明記しておきます

OP Kalafina
『to the beginning』


..
―――40:10

その長身の身体は朝日の中で、血にまみれていた。
街道や市場は目覚めた人々の活気が響き始める時間帯。
そういった喧騒から離れて、森の中を虎に背負われて歩いていた。
ぱた、ぱた、と。
虎の背から垂れる腕より雫が落ちて、地面に赤い斑点が描かれる。

治療を施さなかったのは、生きた証が消えてしまうような気がしたから。
確かに此処に居たことを忘れたくない、その証拠がヒトツでも多く残るようにと、強く願ったから。

それでも。
弾いた光の描いたラインは、確かにこの網膜に映りながら意味を理解できなかった。

どうして生きなければならない。
苦しみばかりの中に確かにある慶びを、尊んで生きた、活かされた。
輝かしい星屑の宴、誰かと共にある安心感を得たハルベルト、終わりゆく中で綴った日常の中の些細な会話。
中でも、愛し尊敬する三人との仕合は格別だった。
活きたまま生きられるんじゃないかと思った。
約束は果たせるんだと、この身が朽ちて魂が昇っても、出来るんじゃないかって信じられた。
活力を与えられるとは、こういう事なのだと思った。

あの仕合で死ぬつもりなんて毛頭無かった。
彼らにそれは負わせられない、負わせたくない。
眩しいほどのステージで生きる彼らの誇りを穢したくなかった。
それが全て私のエゴだと理解した上で、強く願った。

胸が躍る一時に笑みが漏れる。
「とう、せい」
濡れた虎の毛を撫でる。
「よわいです、ね」
真っ黒に染まった、この心臓から足先までの中。
この思い出を大事に桐箱に仕舞って、眠りたいと痛切に思う。
「とう、せい」
顔を押し付ける。
あぁ、もう、良いだろうか。
とっくの昔に思い知らされていたヒトツの事実が、この身体中を蝕んでいた。
それに耐えて耐えて耐えて耐えて生きることだけが唯一の方法だった、相談しても叶わないと、知っていた。
いいや、違う、思い知らされた。

願いは、叶わない。

果たせないかもしれないと思った約束ほど、果たす機会に恵まれた。
それはきっとそう強く願った末の行動が積み重なり実を結んだからだと思った。
奇跡にも等しい偶然。

運命とは。
何億回繰り返しても確かに経由する奇跡の事象に対する名称だ。
しかし、どうしてそれを確かめようがあると言うのだろう。
数多ある過去の分岐、未来の分岐、現在の分岐。
息をする一秒だって、IFの世界ではまったく違うものだというのに。
一秒に満たない時間で何億ものIFが生まれているというのに、どうして確定されたただヒトツを観測できると言うのだろう。
ならば、この世に運命は存在しない。
だから青年は非運命論者を語っていた。

だからこれまで積み重ねた数多の想い出は、全て努力とほんの少しの賜物だ。
その想い出までもを、約束を。
穢してはならないと、穢したくは無いのだと懇願してもいずれ変質するのだと思えば恐怖にも似た感慨が胸を占め。
その術を知らない、から。

どうして生きなければならないのか。
「もう、いい、よね」
息をするたびに寂しさばかりが降り積もる。
何ヒトツとして叶わない本懐は青年を苦しめた、苦しめ続けた。
磨耗していく心、時に他者からの輝きを分けられたそれが、あっという間に磨り減っていく。
だから磨耗することを許容した、磨耗することこそを愛した。
嫉妬こそが愛であり、愛とは憎しみと表裏一体だと。
愛するほどに、憎まずにはいられないの。
憎むほどに、愛さずにはいられないの。
「もう、らくになって、いいよね」
ぱた、と。
雫に透明なものが混じるが、血に溶けてすぐに判別が付かなくなった。
「もう、おわりにして、いいよね」

赦してください。
未来永劫の嫉妬が約束された身の上でありながら、安らかな眠りにつきたいと思ってしまった。
この罪深さを、どうか赦してください、いいえ、赦さないでください。

沢山の人を愛しました、沢山の人に愛されました。

「だってちとせは、いらないこだから」
その上で切望する。
何時だって必要として欲しかった、好きと言ってキスをして欲しかった。
手を差し伸べて欲しかった、知らないことを幾らだって教えて欲しかった。
「もう、おもいのこすことは、なにも」

嫉妬しなければ愛せないなんて、憎まなければ愛せないなんて、思いたくなかったよ。
だけど、そうする他に愛する手段が見つからないの。
そうしなければ真綿に包むような愛情しか与えられないんだ、それはまことの愛ではないのではないかと何度だって悩んだ。
知らなかった、見つからなかった、その術を。

必要として欲しかった。
何時だって誰しもに必要とされるその方を癒せるたった一人という存在になりたいと思って、生きてきた。

願いは、叶わない。
諍いはこの世から消えないし、私は癒しを与えられるたった一人にはならない。

誰か。

私を。


「もう、なにも」


XXしてください。




その願いさえ、叶わなかった。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 終焉 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック