2012年06月18日

花の眠り 玖




..


裂く、裂いてゆく、否定をすることは楽だった。
拒絶することにも何の労もいらなかった。
そうじゃない、そうあって何が解決するというのか。
訴える理性のありどころもがりがりと削り取っていった、なにひとつ残らず。
残らない、残さない、残せない。
悲しかった、寂しかった、誰かに手を差し伸べて欲しかった。
その全てを振り払って生きてきたのに、今更、いや、永年、心臓から背骨まで平たく切り裂くように渇望していた。
この胸に広がる飢え乾いた砂漠に、誰か、だれか水をください。
からからの砂が風にふかれてどこかへと消え去っていってしまう。


ひび、かんじょうが、なくなっていった。


忘れたくないのと泣き叫ぶ裏で、シナプスが断裂する。
言葉から意義が消失し、意味の存在を消滅させる。

あー、あー、あー。

笑顔の裏でずくずくと痛む頭を抑えて蹲る。
赤ん坊の泣き声に、臥所で鳴く女の声に似た。

アー、アー、アー。

風に溶けそうな、風を切り裂く、私の慟哭。


叶わぬ願いに身を焦がした。
満たされぬ愛により狂気に陥った。
その全てが、貪欲なる夏山千歳の業が生み出した、私の罪。





自罰。






ひときわ鋭い絶叫が鳴り響いて。
ぶつりと、何か大きなものが、断裂した。



夏山千歳が昏倒し、再び目が覚めたのはきっかり三日後だった。
まず何よりも自分のせいで台無しになってしまった参拝のことを、沈痛の面持ちで謝罪した。
涙交じりの声で馬鹿と叫ばれて、子供達やムーンに飛びつかれ、その上から白刹に抱きしめられた。
罵倒には饒舌なセシュウスでさえ「優先順位を見誤るな」と言葉少なく叱られた。
あたたかな家族の肖像が、そこにあった。

目覚めてから数日。
失った栄養を点滴だけでなく食事として取れば、すぐに身体は元気になった。
一週間もしない内に、改めて全員での参拝を行った。
以前みたいに外にも出られるようになって、親しくなったばかりの少女と中庭や離れの縁側で喋っている姿もよく見受けられるようになった。

ハルベルトを始めると言い出して一ヶ月ほどで、チームは結成された。
視線が白刹の参加を求めていたが、口に出す前に「もし誰も集まらなかったらな」と笑いかけた。
それまで頑なに団体への所属を避けていた千歳が、チームを作るのだと。
単純に未知の領域で遊んでみたかったのがヒトツ。
心身を蝕む寂しさ、所在の無さに素直になって、誰もが対等であれる居場所を求めたのがヒトツ。
「もう一度、原点に立ち返って自らの欲望の形と向き合ってみたいのです」
恥ずかしそうに告げていたのも、ヒトツ。

変わらぬ日常生活を送るために、千歳は常に草花を身に付けるようになった。
生花そのものであるかと思えば、時には蔓草の隙間から生え出た同化のものもあった。
青匂師は以前より頻繁に草花を食するようになり、ムーンの日課に朝一番に花を摘むことが加えられた。
霊獣や神獣の血肉を食するのが何よりもの特効薬だったが、それはどう考えても頻繁に使えぬから奥の手にしようと三人で決めた。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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