2012年06月17日

花の眠り 捌




..


絶望。
望みを絶たれるということ。

幾万のナイフが、断絶されたそれが。
肌を引っ掛ける、血管を裂く、肉をえぐる、神経を絶つ、骨をひしゃげる、臓を貫く。
新しい光景を目にしても、そこには必ず感動とナイフが同居した。
ifの存在への高揚感、未知への尽きぬこと無い好奇、そして叶うはずも無いという確信。

降り積もる。
寂しさが、悲しみが、そこかしこに息をするだけで降り積もる。

積もり積もった先にあるがんじがらめの鎖は、全て自分がこの唇からすすり腹から産み落としたものだった。
罪があるとすれば、それは全て私のもの。
誰のせいにすることも出来ず、さりとて一人で生きてゆくには弱すぎた。
鋭敏すぎた感覚に、心が追いつかなかった。
望みは、孤独の内では叶わない。
せめぎは全て自分の中だけで行われた、対象は言うまでも無くただ一人。


結界用の血液によって小さく簡素な魔方陣が床に描かれる。
召還されたのは千歳の使役獣のヒトツ。
口にしたもの全てを内包、同化させる能力を持つ意思を失った仔竜、青匂師だった。
「青・・・」
「千歳の魂のあり方は、草木のそれによく似ていた。
蔓草の蛇を使役した影響も大きいだろうが、思えばコイツも植物の属性を持つ竜だったな。
ならば相性の良いものは、元より考えるまでも無かった」

千歳の管理する温室から持ち出したのは、真っ白な百合の鉢植え。
眠たそうな青匂師だったが、その芳香に気付いた途端、首を伸ばし花弁を食んだ。
精霊体となった今、青匂師だけではなく使役獣その全てに食事の必要は無い。
だが契約する以前の元々の性質から青匂師は草花を好んで食することが多かった。
仔竜の性質は内包と同化、飲み込んだ武器は腹を介した空間に貯蔵し、食んだ草花は夏山千歳の身体に香りが移される。
今まではそれだけの存在だった。

「同化とは、コイツが口にしたもの同士の同化ではない。
コイツが口にしたものが、他の使役獣に共有を・・・そして千歳には同化される。
蔓草に仕込んでいるものは、あくまで共有しているだけのものだ」
千歳の上方には再び光によって描かれた魔方陣が展開されている。
青匂師が花を口にするごとに、小さな術式が増えて、大きな陣に融合させられる。
視覚で認識する欠けていた『何か』が埋まる。
「それはコイツの存在があって初めて成立する。
千歳が契約部位とする右耳を失えば契約は解かれ、恐らく千歳や使役獣の身体を武器が貫き生えるだろうな。
それが共有だ、ならば同化とは何だ?
二度と離れ元の物質に戻ること無く、そして消費されてゆくだけのものだ。
それはまさしく」
人間の行う食事そのものよりも効率が良い。
そう告げたセシュウスの頬は、血が通っていればさぞや興奮により赤く染まっただろう。
自分の立てた理論が立証されていく快感に、どっぷりと浸っていた。

「あー・・・えー・・・うん、そんで・・・」
「相変わらず愚鈍だな貴様は。
千歳自身と相性の良い草花の、丸っきりの生命力そのものを青を介して抽出し、欠けた魂の補充に宛がうのだ。
人間自身が命を絶ったものを食し、生命力の補充を行うよりも早く、純度が高い」
「ち、ちーちゃんが助かるってことか!!?」
「愚鈍だな」
セシュウスの挨拶代わりの罵倒が、様態の回復を何よりも示していた。
「良かった、ちーちゃん、良かった・・・!!
旦那、あんた実はすげーんだなぁ!」
常日頃は言い負かされるだけと知りながらも罵声には罵声で返す白刹だが、今ばかりはその減らず口が喜ばしかった。

二人の男の騒ぎを尻目に、青匂師はもくもくと花をむさぼり続けた。
千歳の唇が、小さく震えた。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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