2012年06月15日

花の眠り 陸




..


あの目まぐるしくも輝いていた日々の中。
私は密かに五つの役を作った。

それは全て私が勝つための役ではない。
仕方無いですねぇって言って笑って、私が負けるためだけに存在する役。
勝利条件はたったヒトツ。
そこに導くための役を散りばめた。

気づいて欲しかったの。
直接、訴えかけねば気づいてもらえないなんて、それでは私は不要なのだと告げられたも同然だから。
・・・いいえ、気付かれなければ不要だなんて、そうではないと理解している。
状況も時間も情勢も、それを許しはしない。
しかし納得はしていなかった。

ねぇ、要らないなんて言わないで。
見つめて、解して、そして私の手を取って。
この願いに気付いて。

その希望を持ち続けた、その希望を持ち続けられるタイムリミットが十二月が終わるまで、だった。



誰一人、その役に対抗しうる役を作る事は、出来なかった。




「治、す方法、は」
「契約を解除できれば可能だろう。
だが『何』と契約をしたか、貴様には想像がつくか?
ごっそりと魂のありどころを奪い去った上で、その行き先を感じさせることも無い。
果たしてそれはそもそも精霊なのか?意思を持った代物なのか?意志の通じる余地はあるのか・・・」
すい、と水面を弾けば、消失した魔方陣が新たな魔方陣に書き換えられる。
「そもそも治すとは何を持って定義する。
言っておくが、この症状は元より『契約』という行為自体の弊害であり、いつか訪れることが定まった未来とも言える。」

冷淡な声は情報も憶測も言い切り、その手も止まる。
言い返す術も無く見ていただけの白刹が、拳を震わせた。
「それは・・・じゃあ、諦めるってのか!!!」
力任せに机を叩く。
「ちーちゃんは・・・ちーちゃんは、家族だろ!?
たった五年かもしんねぇけど、ずっと一緒に暮らしてきたじゃねぇか!」
行き場の無い想いの分だけ揺れたのならば、声が出たのなら、白刹の慟哭は十分の一も伝わっていないだろう。
「アンタに出来ないなら・・・俺・・・は、もっと何もできねぇけど。
でも誰か、わかるかもしんねぇから・・・探す。
治して・・・ちーちゃんが、もっかい起きてくれるよう、探して来る、アンタが諦めるってンなら!!」

静寂がその場を支配する。
怒鳴りつける声の余韻も消え去り、汗が伝う音まで聞こえてきそうな緊張。
張り詰めた弓のそれを引いたのは白刹の方だった。
「っ・・・、くそったれが・・・」
どこかで、この男は何でも出来ると思い込んでいた自分に腹を立てながら、白刹は背を向ける。
魔術、呪術の類に詳しい親友らは眠りについて早数年・・・。
自分が頼ることの出来るツテを精一杯、頭の中でめぐらせていると、待てと静かな声が留めた。
振り返ると、先ほどまでの幾重にも展開した魔方陣による荘厳な光景は形を潜め、いまやたったヒトツの円だけが、そこにある。
しかめっ面の男にはまるで似合わない、どこか甘ったるいライラックの色。
「抜本的に治す方法は無い。
だが症状を抑える方法はあるかもしれん」
話は最後まで聞け、と力なく叱り付ける。
日常的に含められる蔑みの色が見られないのは、度重なる繊細な魔法の使用による疲れからだろう。

「抜け落ちた魂を別のもので埋めれば良い。
どうせ元より本人の魂ではないのだ、永続的な効果など期待できん。
媒体となる物質は、何でも構わん。
ただし千歳と相性の良いものを見つけ出す必要がある」
そこまで言い切ると、いよいよ集中力が途切れたのか、椅子に深く身を預け目を瞑った。
「6時間だけ待つ、ありったけの何かを探して来い」
「な、何かって何だよ」
「こいつと所縁の深いものだ。
魂のあり方でも、幼い頃に縁のあったものでも、今の愛用の品でも構わん。
容易に手に入り代用がきくものが理想だが、まずは、見つけねばならん」
それっきり、糸が途切れたように黙りこくってしまった。
耳をすませば寝息のようなものも聞こえる。
それは多分やさしさとは別のものだった。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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