2012年05月23日

縁は数奇なもの

少女からの知らせを受けた翌日の朝。
何度も目を通した羊皮紙の文字は、神殿の張り出しは、覆る事無くそのままであり続けた。
恐らく八月三十一日まで、決して変わることは無い。

泣くことは無かった。
叫びだすことも無かった。
眠れぬ夜を過ごすことも無く、何時も通りの就寝時間に眠りについた。

動揺はしていた。
その反面いかにも事務的に友人知人の、世界の、情報を得ようと羽虫を飛ばした。
早朝の鍛錬を終え、家族と朝食を取り、家事を済ませ、花壇の世話をやり。
何時もと変わらぬ足取りでハルベルトチームのカフェの看板を見上げたところで。
この看板は、八月三十一日には無くなってしまうのだという事実に気付いた。

終わる。
神の庇護が終わる。
大陸に崩壊が訪れるのか、眠れる魂の墓地となるのか、はたまたそのままの日常が、営みが続いていくのか、誰にもわからない。
それが終わるという事。

「この世界の終わりまで」

いつか花屋を営む女性がぽつりと零した、その雫はずっと胸に留まっていた。
それが、まことのものとなる。

急に目の前が白々と開けたような気がした。
薄霧の中にあった輪郭を持たない日常が、色を取り戻す。
彩られていく。
「・・・ふふ」
至極簡単だと、思い至ったのはその朝だった。
終末に向けてとるべき行動は、何もかもが決定付けられた。
自分のために生きよう。
夏山千歳の殻を捨てて、夏山千歳の欲を持ち、夏山千歳として生きていこう。
「そうね、私は・・・強欲の千歳ですものね」
吹っ切れたような笑顔を浮かべて・・・ここ数ヶ月、決して見せることの無かった・・・鍵を開ける。
からんころん。
七つの虚典の一日が、始まりの音を告げた。
posted by 夏山千歳 at 18:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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