2012年01月13日

おやすみエージュ

いつまでも


..
■出国ゲートから@千歳

出国の方はお早めに機内へ御搭乗願います。
アナウンスの声は穏やかで、非日常の中に隠れた日常でしかない。
それとも演じているのだろうか。
何万と靴底が跡を残し行き交った群れに潜むのは、かえること、ゆくこと。
ならば、この地に息づく血は、赤い。

いまだ時間を残す最中で、青年はベンチに腰掛けて目を瞑る。
目的地は無かったが、今回は陸路ではなく空路を選んだ。
だから傍らに虎の姿は無い。

実体を持たぬ羽虫を飛ばす。
高く高く、天井を突き抜けて、大気を越えて、雲の上。
全容を見下ろす、明確な線の引かれた国家という枠組みを。
その様を、羽虫を介して、瞼の裏に描く。

愛してた、愛してる。

口の中だけで呟いて、目をあける。
眩しさに細めて、呼応する記憶に胸を詰まらせた。
続いて吐息だけで囁く、ただいまと、言いそびれていた。
いまだ明けぬ暗闇の中、首都を中心に放射線状に散らばる点々とした灯りが線になり球になり川となり蛇行する、円になる。
国境線を越えて、その営みは続いてゆく。

二度目のアナウンスで立ち上がる、魔道船に向かう。
お世話になりました。
いってきます。
誰に言うでもない空色の声は、無風の風にさらわれた。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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