2012年01月10日

あふれ出す緑色を抱きしめて、踊ろう

for カナン


..
■:千歳
高鳴る胸を抑えるように、心臓付近を強く握る、やたら背の高い青年が一人。
たわみ、ゆがみ、まどう空間を、ともすれば怯えたように見つめている。

握る、指先が真っ白になる程。
その爪は朱に彩られている。
楽園と呼ばれる蔓薔薇の色。

「・・・ぁ」

しかし、まるで蜜に誘われた虫のように、惹かれる。
踏み出す。
「どうか、どなたか」
手を差し出す。
「踊ってください、千歳はどなたも拒みません。
その代わり、千歳はどなたの手も引きません」

いつもの笑顔だった。
しかし冷たい手は、熱によって浮かされていた。
風に溶けそうな声で、あわく、あわく。

「どうか、ご一緒に」

ただ、まどろむように微笑んだ。

■:C

「どうか、ご一緒に」

その、これまで見た事の無いような、残り雪のような笑みに。
強く強く、胸を締め付けられて、焦がれて、

「千歳!」

磁力に絡め捕られたように、その白い手を取っていた。
普段の娘からは想像のつかない握力で、一瞬。
そして、その事に気付き、少しだけ力を緩め、手を繋ぐ。

「あの、あのね…!」

幼い口調。
音を失った喉に引っ張られ、唇を閉ざし、俯く。
青年に掛けるべき言葉を、自分はきっと持っていない。

そして、再び顔を上げた時、

「踊りましょう?」

そこに有るのは、綻びの面影を隠した淑女の笑みだった。

■あなたのなまえ@千歳
 
あなたは何度、傷ついても前を見続けた。
その姿は目映く、私の胸を焦がした。

「千歳!」
もしかしたら初めて聞くかもしれない、余裕を失った彼女の声。
華奢な身体からは想像もできない、強い掌。
「あの、あのね・・・!」
幼い口調、青年の顔に驚きが隠せない。
引かれる。
足元がゆらぎ、とん、と抱擁に近い距離になる。

俯いて、きっとあなたは、唇を噛み締めている。
私はそれを待つ。

あなたの強さを、ずっと見てきたよ。
あなたの強さが、とても好き、大好き。

踊りましょう、あなたの言葉に笑みを返す。
あなたに千歳はどう映っているのかな。
私には、ずっと目映かった。

「カナン嬢・・・」

あなたを、たったヒトツの名で呼んだこともあったね。
あなたと、踊りたいとずっと思っていた。

手を取って、抱きこむように踊りだす。
紅と朱、淑女と紳士、光と闇、あなたと私。
偶然から、あなたは私を千歳と呼ぶようになった。
そう呼ばれるのが途方も無く嬉しかった。

だからこの名前に全てを込めよう。

「カナン」

大丈夫。
私は何でも受け入れる。
あなたがそうあることも、あなたがそうあれないことも、何だって許容する。
私は緑色の目をした怪物、それは何もかもに嫉妬して、何もかもを愛する、魔物。

踊ろう、カナン、あなたとずっと踊りたかった。

■calling:C

幾つもの蜜の言葉を紡いできた唇が動き、
幾度となく人を幸せにしてきた声が、自分の名を呼ぶ。

「カナン」
「……千歳」

誰よりも、心の柔らかい人。
傷付きもがき、苦悩に沈んで、
時には誰かの痛みに寄り添って、
気付けばいつも、誰かの笑顔と共に在って。
この心に飼った魔物が、その様子を見つめるさえ事も。

そんな貴方にずっと向けていた感情の名前は、親愛。
妾は、この魂は、ずっと貴方が好きでした。

「千歳……千歳」

感情だけが溢れ落ちる。
それでも、ラストワルツは笑顔で。

この朱と紅が創った赤を、きっとずっと覚えていよう。

■@千歳

幾人にも問うた、この冬で。
私はあなたを幸せに出来ていたのかと。


ちとせ、とかたどるあなたの唇は、震えている。
ふっくりとした小さくて柔かい丘。
そこから紡がれる言葉は、自鳴琴とよく似ていた。

大人と子供が同居する目の前の身体からは、花にも似た香水が薫る。
なのに、ずっと私はミルクティーの香りをきいていた。
銀河鉄道の窓から覗く、星の絨毯に鼻先が冷やされて。
それを温める、膜の張った乳白の。

赤い瞳は鮮烈だね。
それは、あなたの中に眠る薔薇の蕾。
水を訴える事も、覆いガラスを強請る事も、ありながら。
それ以上に、あなたを魅力的に仕立て上げる、美しい二輪の薔薇。

ちとせ、と何度も繰り返される。
高く、硬く、刹那に、しかし重なり、廻り続け、巡り続け。
螺子を巻けば巻いただけ、与えてくれる優しい音色。

「うん、・・・カナン」
生きて。
力強く咲く花のように。
悲しい事があっても、いつか必ず夜があける。
混ざり合ったあなたと私の赤は、無意識のまま佇み姿を変える太陽の色。
朝を告げる紅、夜を告げる朱。
東を向けば朝日があり、西を向けば夕日があるならば。
廻り、廻る、いつか時の彼方に忘却されても。

悲しみにも似た深いねじれが心を満たし、しかして尚、私はそれを飲み込み続けた。
あふれ出す緑色を抱きしめて、踊ろう。

あなたの愛を、私は忘れない。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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