2012年01月08日

僕らがいた




..
■僕らがいた@千歳
 
君を、待っていた。

慌しさと静けさのコントラストが浮き彫りになる日常。
降り積もる感情の中、ただ日々をこなした。

そこは月の光が降り注ぐテラス。
三年前、桜のドレスに身を包んだ娘が、一人寂しく星屑を仰いだ。
二年前、窓から見上げた夜空が、泣かないで、と囁いた。
一年前、青年の仕立てたドレスを青年のためだけに着て、彼女はそこに居た。

「三番ですって、なんだか私達らしいですね」
月を見上げたまま、背後の気配へと告げる。
その姿は五年前とは確かに変わった。
指先には新たな紅、血の気の引いた白い肌を彩る。
髪もすっかり伸びた、金木犀の香が、強くなった。

しかしそれでも尚、彼は信じた。
願った。
「ふふ、なんだか私達、期待されているようですよ」
ふりかえる。

四年前、あなたと初めて踊った、春告げワルツ。
何時だって、何度だって、胸を疼かせる3曲目。

「千歳ね、来月で二十五になるんです。
つまり人生の五分の一は、ここで歳の瀬を過ごしているのですよ。
ふふ、なんだかとっても摩訶不思議ね」

軽口はいつだって、彼らのダンスの合図になる。
青年は笑う、目の前の一輪に。
髪が風に揺れる、金木犀と梅の香が混ざる。
「メイ・ホア」
手を差し出す、月を背にして。

「私を、連れ出して、ここから」

にじむ目尻も飲み込んで。


■単純な気持ち:梅
 
星空のテラスには人もまばら。
4年前のこの場所で、恋焦がれた後姿が密やかに佇んでいた。

探し回る事なく、きっと逢えると確信出来る様になったのは
いつからでしょう。

『三番ですって、なんだか私達らしいですね』
3を意識するようになったのはきっとあの時から。

「あは、25にもなるのですね。おねーさんは千歳君の成長が嬉しいですよ。うんうん」

おどけていても心の奥から伝えたい気持ちが溢れて来るのに
呆れる程に何の言葉も出てこない。

だからぎゅっと抱きしめた。
気持ちを。誤魔化す必要も飾り立てる必要もないと思った。

ただそうしたかっただけ。単純でわかりやすい気持ち。風流な貴方は笑うでしょうか?

豪奢なドレスも煌びやかな照明も楽団の麗しい旋律も
何もかも要らない。期待なんて知らない。

出会った時と同じ飾らない服
優しく包む月明かり
トクン、トクン
耳に当てた胸から聞こえる鼓動

私が欲しい物は全てここにあるのだから。

『私を、連れ出して、ここから』

出会った時からいつも貴方は血に縛られ業に苛まれ。
鳥篭の中で血の滲む羽でもがくのを見るのは辛いです。

「うん…。」

だけど東の空がゆっくりゆっくり陽の光に白んでゆくように。
何年でも何十年でも、傍で一緒に喜びと悲しみを何度も何度も受け止めて。

そしていつか、貴方が心から笑ってくれたらなら。

それが私の幸せです。

■@千歳 
腕の中に収まる赤毛の娘。
彼女は初めて出会った時と、殆ど変わらなかった。
背は少し伸びたかもしれない。
顔立ちは年相応、でもよく変わる表情が幼く見せる。
飾りっ気が無いように見えて、その実、結構な洒落者。

あたたかい肩、良い匂いのする髪、つり気味の大きな瞳。
健気な心、小さな焼きもち、例え散ってもまた咲き誇る生命力。

強く優しく美しい人。

鼻声にも似た頷きに、そっと抱き返す。
トレードマークの帽子を外させ、指どおりの良い赤毛を何度もすく。
心臓は穏やかな音を刻む。
この人は決して、私を傷つけようとしない。

「ふふっ」
不意に手首から蔓草が生え出て補助し、高い高いをするよう抱き上げる。
驚いた顔、そういうあなたも見たかった。
そのまま危なげなく、くるりと一回転。
「この世界中の色彩を集めたような会場で、私達、おんなじ赤にございますね」
とん、と下ろして身を屈める。
額と額を軽く合わせて、同じ高さの視点。
これが紅・梅花の世界だと、笑みを深くする。

「香り高く誉れに生きる紅・梅花。
そして、ただの女の子の梅のお嬢さん。
今宵は私めに預からせていただきましょう」
少し離れて、大仰で気取った一礼。
悪戯めいた口調で、その手を取った。

縁導くまま、くるりくるりとを円描けば、ほら、それが宴の始まり!

「あはっ、あはは」
魔法をかけよう。
それは一年に一度だけ発動する、大掛かりな魔法。
何十人もが集まって、何十時間もかけた上で、初めて実現する。
「ねぇ、私はお世辞なんか申し上げないのですよ。
ただの一度だって!」
弾けるようなステップを踏めば、君は山道の小山羊になって。
惜しむように身体を離せば、私は朝待つひばりになる。

歌って、踊って、僕ら、ずっと。
青年が懐から煙管を取り出せば、娘は合わせて扇子を開く。
少し離れて一礼し、君は扇子で顔を隠して、私は煙管を横笛に見立て。
倭の舞踊を取り混ぜた、彼らだけが織り成すダンス。
視線を合わせて、互い取りやめ、手に手を重ねて、地面を蹴って。

「メイ・ホア!
私はあなたのような人間に、なりたかった!」

君に、魔法をかけよう。
この一時を幸せだと思えたなら、それは永遠の誓いに値する。
私が、あなたが、この世からいなくなっても、千年先の歳の瀬も一緒にいられる魔法。

この地に、私達がいた。
生きていた。

もう一度、今度はホールの中で、高い高いをするよう抱き上げる。
君が見下ろすその全てが夏山千歳の世界。
忘れても良い、忘れなくたっても、良い。
強欲な私があなたに望むのは、何時までだって、ただヒトツ。

メイ・ホア。
花開くように沢山、笑って。
あなたは鳥篭に眠る鳥を、鳥篭ごと抱きしめて愛せる人。
あなたの隣は何時だって穏やかでした。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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