2012年01月19日

空蝉 完全版

■共通諸注意
この物語は千歳本筋RPです
本筋RPは全体の流れとして非人道的(具体的には近親間の婚姻、カニバリズム等)な描写、設定が含まれる場合があります(アップする際に冒頭注意として上げていきます)
背後様が在学中の方はご遠慮願います
性描写はありません
道徳の分別、現実と創作の区別のつく方、上記の非人道的描写をエンターテイメントと割り切れる方のみ、御覧になってください

尚、作品中のゲストキャラクター様には、既に確認と了解を得てアップしている事を明記しておきます


千歳本筋RP 第一部:空蝉宮之井戸
2008年11月10日筆


..
日々は氷のように眠く、水のように鋭さを増す。


眠りの深海へと意識が沈む。
新たな出会いとか、新たな居場所とか。
とにかく沢山の人々と交流する機会を持てて、暫くドタバタ忙しくて。
反動か、眠りの時間の多い日々を過ごしていた。
きっと疲れていたのだと思う。
その中でも、この夜の眠りは普段よりも一層深いものだった。

夢を見る隙間も無い筈なのに、目の前で映像が流れ出す。
星だ。
紫の煙に紛れて、ターコイズブルーの星がこっちにおいでと手を招く。
誘われるがままに流れると、星は緑の深淵に消えていって。
連なる黒は彩を内に隠していて。
これはまるで以前、少年と再会した時のようだと思った。
「千歳」
予測は外れない。

「柔らかくなったね」
よく通る声が耳を撫でる。
この声を聞くのが好きだった。
見た目や振る舞いの幼さを裏切る低さを持った、よく通る声。
好きだった。
「柔らかい?」
麦穂色の長い髪、大きな空色の瞳、同色の振袖、豊かな純白の翼。
それぞれのパーツを取れば、何一つ変わらぬ出で立ちだった。
愛嬌のある顔立ちの痩せ細った少年。
ただし以前、再開した時とは変化した箇所がヒトツある。
「うん」
彼の姿が明瞭になった。
生来の肉体を捨て、不安定な精神体に変わった彼は、何時消えてもおかしくない存在だった。
事実、以前に再開した時は、今にも千切れそうな薄紙の危うさを持っていた。
だというのに。
「千歳の心が、柔らかくなったね」
今はこんなにも明瞭だ。
声も姿も、心まで。
「少し羨ましい気がする」
簡素な言葉を告げられるようになった事も、また変化のヒトツだろう。
渇いた舌先の意味を私は知っているから。

「俺も、もう少し早く、そうなりたかったな」
闇に浮かんだ身体に重なる。
小さな子供が甘えるように、腹の上に膝をつく。
「後悔はしていない・・・って言ったら、やっぱり嘘になるね」
俯くままに向けられた目と目が見つめあう。
長い髪に覆われると、麦畑に寝転んでいるような気がした。
こんな闇の中にいても彼からは太陽の香りがする。
六月のカーテンだ。
「・・・ことりさんは千歳に、愛してくれとは仰いませんでしたね」
「うん」
くるり一回転。
以前は静止画のように動かなかったというのに、今はまるで。
自分も知らなかった頃の、彼が少年らしく活発にあれた頃の、仕草のままで。
幼い子供の口癖で。
「だって誰も俺のことなんか好きになってくれると思ってなかったもん」
拗ねたように言う姿は無邪気だった。
心の奥底に眠る本当の欲求を別のものにすり替えて、望まぬ我侭しか言えなかった頃を知っているから、尚更、そう感じるのだろうか。
「壊してくれとは何度も仰いましたね」
「だってそれって俺に壊すだけの価値を見出しているって事でしょう」
「好きになっていただく価値を感じずに?」
「そう」
寂しがりのくせに我慢をする。
耐えられぬくせに笑顔になる。
不器用なくせに諦めが悪い。
必要として欲しかったから、大人になろうとしたと聞く。
慣れぬ手法と知らぬ経験で、つりあいたかったのだと泣いていた。
それが出来ぬ自分を責めて泣いていた。
泣いている自分も嫌いだと。
「わからなかったんだ、人に好きになってもらうってことが。
今だってわかりゃしないんだけどね」
せめてもう少し大人だったら良かったんだけど、と笑う。
彼は大人への憧れを今でも忘れていない。

「ただ、なんとなくねぇ、うん」
手の甲に触れる、彼の細い指。
大きさはさほど変わらぬけれど、骨と皮しかない指先は、自分のものより一回り小さく見えた。
「もうちょっと素直になれたら良かったのかなって、思う」
ひたすら懐かしそうに呟くだけだった口調が変わる。
「ねぇ、俺は君にお願いをしにきたんだ。
これはその手土産代わりにも、ならないだろうけれど」
意志を持った魂のともし火は、流れ星に負けぬ願いを連れてやってきた。
「きっと薄々、気付いていたんだろ、でも確証なんて無かったんだろと思うけど」
長い前置きに一息ついて続ける。
「黒曜は冥界に居ると思っているんだね?」
カラスの濡れ羽、鋭く光る鉱石。
黒曜姫。
白妙の身体を治す可能性を持った行方不明の霊獣の名前。

現世に関与し、現世に存在する右業。
彼のかつての肉体は滅べども、魂は現世に留まり続けている。
その事はつまり彼が探し出せる範囲の限界を示していた。
ヒトツの山の主だった事はあれど、右業はまだ精霊としては若い。
夏山という人間に使役された結果(直接食む事には遠く及ばないが)魔力を増幅させたとて、彼の知覚には限界がある。
それにしたって不可解な程に黒曜への手がかりは少なすぎた。
右業だけでなく白妙まで、この現世で黒曜の残り香さえ見つけることは一度足りとも無かった。
だからそれは可能性の提示だった。
「千歳、お願いがあるんだ」
そして自分は、その可能性を信じている節がある。
「遅かれ早かれ、このままだと自我を失い、俺はただの魂となる。
自我って制御を失った魂は自然、冥界へ行くことになるだろうね。
だけど俺にはまだやり残したことがある」
長い眠りの末に、とうとう現世では見つけることの出来なかった足跡を、新たの冥界という地に求めた。
本当の眠りの先だ、あまりに永い。
その地へ足を踏み込む事は古の大陸と同じわけにはいかない。
「俺はこのままゆけば明日にだって消滅してしまう。
俺という個が、自我が、消滅してしまう。
だから千歳の力を貸して欲しい」
そう、同じわけにはいかない。
それは目の前の彼も変わらないのだ。
戻るべき肉体を失って尚、消滅するわけにはいかぬ目的を持っているのだ。
互いに。
「俺の仮宿になってください」

「・・・会いに行かれるのですか?」
「うん」
かつて彼が好いた人の元へ。
限りなく確信に近いものを持って言える・・・幾千日も夢見た人の元へ彼は行くのだろう。
「あの人の最後を看取るのが、俺の望みだったけど、こっちが先に駄目みたいだから」
その脚で大地を駆けることが無くなっても。
「俺、あの人じゃなくちゃ駄目じゃ、無かったんだ、きっと。
だけど俺を一番最初に見つけてくれたのは、あの人だった」
他の選択肢を得るには、その選択肢はあまりに鮮烈過ぎた。
眩しすぎる過去ばかり見つめ・・・生涯望み続け、存在を無くし、名前を無くし、風のようになって、ようやく気付いた事がある。
「見つけてもらえたことが嬉しくて嬉しくて、ちっとも、あの人のことを大切に出来なかったよ」
会いたい。
やり直すために会いたいのではない。
友人として、関係を続けたいのでもない。
言葉を交わすことなんて無くていい、いっそ忘れ去られていた方がいい。
本当は、見つけてくれてありがとうって伝えたかったけど。
「ただ一目でいい、あの人の姿を眼に刻みたい」
どんな道徳も理性も道理も、最後に残ったこの感情を止めることは出来ない。
貴方に会いたい。
「だからあの人に会うために俺の魂を預かって。
風にさらわれないように」
一呼吸。
目前の闇を遠い目で見る。
「風が往く先は、きっと黒曜の居る世界だから。
千歳なら俺の魂を介して探る事も出来るよね」
必要を感じないから好きにしろと言っていた少年が、今ではその必要があるから好きにして良いと言う。
「・・・そうですね」
何処と無く寂しさが心に積もる。
温かくなれば溶けてしまうだろう、その感情に名前をつけることを今はしたくなかった。

「千歳と話せて良かった」
彼とは契約は出来ない。
払うリスクがあまりに多く、そして得るメリットは少ない。
「私も、貴方とお話できて嬉しゅうございました」
だから正しい形での契約は出来ない。
そしてそれを彼は望んでいる。
昔から人に扱われる事を好んで生きていた。
反面、それが結果として人を扱う事になっていたのも少なくないが。
今でも少年は青年を・・・夏山の人間を・・・犠牲にした延命を望んでいない。
「俺が出来なかった事、千歳は出来るといいな」
ただ、仮宿が欲しい、だけ。
「えぇ」
そんな少年に対して語る言葉どころか、返す言葉も持てなかった。

「いっぱいいっぱいありがとね、さよなら、千歳」

成鳥は、言葉紡ぎを終える。
風が揺らいで大気となり、ヒトツの輝石に収まる。
鮮やかな柳色の石、金色のアンクレットにそなえられた。
かつては足枷だと呼んでいたが、今では生きる為の碇となったもの。
それを胸にかきいだく。

今はただ眠りまでのつかの間を、彼のために祈っていたかった。




(了)
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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