2011年12月01日

2007年 ランダムダンス




..
■ミルキーウェイ

口の中で名前を確かめ、その姿を探す。
人波は絶えず、羽虫に頼った方が良いのかもしれないと思い始めた頃。
光たなびく金の髪がそこにあった。
夜闇に流れるならば、それはミルキーウェイなのかしらと思いながら。
「ルーディリア嬢・・・にございますか?」
軽く身をかがめながら、掌の中の札を見せて。
「最初の相手を勤めさせていただきます、千歳と申します」
胸に手を置いて改めて礼をする。
時折、動作に緊張が含まれる。
「こういう場は初めてでして、至らぬ点も多くございますが・・・」
だがエスコートするべき身が緊張していては、相手も安心できまい?
微笑んで手を差し伸べた。
「どうぞ、よろしくお願い致します」


□ミルキーウェイ・その後

何事も過ぎれば、幸いとは為らず・・・。
高過ぎる背は相手に圧迫感を与える事がある、と青年は知っていた。
だからこそ低すぎると言われようとも、可能な限り柔らかい印象で人に接したく思ったし。
何よりも、そう、人が好きなのだ。
人が好きだから良い印象で人に接したいと思う。

そして最初のパートナーは、それを体現した女性だと思った。
穏やかな微笑みが良く似合う。
日溜りのような色素の薄い髪。
相反する濃い夜色の翼。
印象は間違っていなかったと確認しながら、探るようにステップを踏む。

夜景を背にした時に、散らばる髪の先端に目が奪われる。
闇が内包する光。
それこそが天の川そのものなのだと、思った。


■人形使いの見る夢

一曲目が終わり、広間は小さなため息に包まれた。
ほぐれてきた空気といまだ残る緊張感の間で人々は次のパートナーを探して揺れる。

短い休憩を挟んで、次の組み合わせを見た。
見覚えのある名に記憶を辿り、以前、人形の服を仕立てた方だと気付く。
強く、艶やかに主張する黒のドレスを纏う人。
遠目に見えた憂いの表情が益々、彼女の美しさを引き立たせている気がした。
「こんばんは、人形使いのお嬢さん」
歌うような調子で話しかける。
おどけた顔で触れた指先をそっと掴んで。

たん、たん、たん、と。
走り出したメロディーに乗せて、乾いた足音がリズムを刻み始める。
シャンデリアの灯りを弾いて、黒は鮮やかに輝きだす。


□人形使いの見る夢、その後
 
たどたどしいステップは、実は此方も同じだったりする。
生まれは遠い大陸の全く異なる文化の中で。
その後、半分近くの人生を旅暮らししてきたから多少の適応力はあるだけで。
慣れぬ動作の緊張は、隠しようが無いのだと痛感する。

「・・・大丈夫ですよ」
交差する足に戸惑った瞬間、青年の目に驚きの色が浮かんだ。
目前の唇はきれいな三日月。
「大丈夫ですよ」
彩る黒はしたたかな印象で。
薄布の赤はあでやかな印象で。
それは内面の柔らかさを包む甲殻なのだろうかと思った。
同時に、夢見る少女の意思は強い。

これだから人間は面白い。

「はい」
目を細めて返事を告げる。
現を生きる少女の手を、握りなおした。


■金翅鳥

時間の女神の気まぐれで踊るのも、これで最後となった。
足早に会場を巡り若紫のドレスを探す。
そう言えば、金翅鳥の名もカルラといったなぁ、と。
名を呟くにつれてそんな事を思い出し。
髪に結ってある羽根飾りから、アクセントとして加えられていた金の羽を抜き取った。

「カルラ嬢にございますか?」
若紫のドレスに豊かな栗色の髪の女性を見つけ、声をかける。
振り返った瞳が凛としていて好ましい。
軽く自己紹介をし、手を差し出す前に・・・隠し持っていた羽を取り出して。
「失礼致します」
暫し悩んでから、結い上げられた髪にそっと挿し込んだ。
満足気に笑って頷いている青年の真意は、多分誰にもわからない事だろう。


□金翅鳥、その後

前半最後のダンスはスローテンポの曲。
これがムーディーな演出という奴なのだろうか、と思いながら若紫の貴婦人にステップを合わせる。

実はこの青年、言動や行動の割りにイマイチ、ムードというものを理解していない。
こうした方が喜ばれるだろうか、とか。
こうした方が楽しいだろう、とか。
直感だけで躊躇い無く行動するものだから、余計にそういうものからは縁遠くなる。
その辺りが無駄おっとり無駄ぼんやり属性と称され、色気がないと笑われる所以なのだろう。

「飾るだなんて、この身には過ぎましょう」
ターンの最中に囁く。
「ダンスの主役はご婦人、千歳こそ貴方を彩る鳥でしかないのです」
例えばその金の羽とか。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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