2011年09月06日

マナ 陸




..
人影があった。
朽ち果てた武具の磔台に、同じような武具によって、その手足を、しなやかな身体を、打ち付けられていた。
壁から伸びる何本もの枝によって、囚われ繋がれていた。
「飛翔、殿」
その人物は、その場にある武具と比較すれば、並の人間より高い背丈だと容易に知れた。
「飛翔殿、なんですか、これ」
その肌は暗闇の中にあって雪のよう、しかし黄色人種の白だった。
その髪は緑がかった黒と呼ぶにはあでやかなまま、肩を越えて伸びていた。
その瞳は鮮やかなグリーンの光に反して、虚ろに開いたまま湖面を見つめていた。
「飛翔殿・・・飛翔殿!」
その人物は南東和風の白い衣、黒の下穿きを身に着けていた。
「飛翔殿・・っ!」
その人物の左頬には耳に繋がる大きな傷跡があった。

『夏山千歳。
これが、あなたの選んだ弔いよ』
「嘘だッ!!!」
青年の切望にも似た絶叫を、女はいなす。

列があった。
入口からその人影の元に続く、黒い列。
形を持たぬ彼らは、その手に小さな芽を持っていた。
静かな行列は人影に辿り着いたとき、その足元に芽を置いた。
芽は青年の足元で根付き、枝を伸ばし、花を咲かせ、葉を茂らせ、人影に絡みつき、人影を貫く。
その様を心行くまで見届けると消滅し、次の待ち人が芽を捧げた。
「ァ、・・・」
人影は時折、小さく声をあげた。
搾り出すような声色には苦渋が色濃かったが、甘い色めきもあった。
風に溶けるような高いテノールの。

「嘘だ・・・嘘だ、嘘だ、嘘だ!!
何故、千歳が、ああならねばならないのですか!
あなたの話がまことだとしても、私は代をかけて償う準備を進めております!
私一人の自己犠牲に誰が喜ぶ、誰が望んだ!!」

誰一人として聞いた事が無い叫び声。
どんなに敵意を持とうとも冷静さを忘れようとしない青年が、こんなにも激昂したのは生まれて初めてだった。
青年は周囲の人にこそ自らの存在意義を持たせようとする。
頑なな自我とは対照的なまでの依存を、しかしそれでも青年は厭ってはいなかった。
誰かのためになるのなら、と思える自らに誇りを持った事もあった。
動機はどうであれ人に優しくできる自らは好きだったとも・・・言える。
それを否定されたも同然だった。

女は顔色ヒトツ変えようとしない。
『姿を変える真実に意味は無いわ』
青年は今にも掴みかからんばかりに睨みつける。
『あれは確かに夏山千歳、あなたの死後の魂ね』
「死・・・」
荒げた喉が痛むのか、強いショックに息苦しさを覚えるのか。
縋るように首に手をやる。
同じ顔をした・・・いや、違う。
よく見れば今の青年よりも、その人影は幾つか年嵩に見えた。
『あれはね、永劫に続く夏山の業をヒトツの魂で背負った結果。
最初は一本の枝葉だったものが、積み重なっていったもの』
体格に変化は薄いが、確かに髪が少し伸びていた。
顔立ちも同様に変わりないが、今の自分よりは幾らかしっくりくる説得力がある。
若い頃から老け顔であり、次第に加齢を感じさせない顔立ちになったが。
歳を重ねることにより外面と内面が合致したのだろう。
それでもひどく慣れ親しんだ顔だった。
posted by 夏山千歳 at 03:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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