2011年09月05日

マナ 伍




..
何ヒトツとして女と青年の身体に触れる事は無かった。
落ちる、吸い込まれる、重なり合った幾多の幹が絡まる、その心臓部へ。
『夏山千歳、あなたは、どうすれば夏山が呪縛から開放されると思う?』
「・・・血を薄める事によって、ゆくゆくは夏山という特性を無くし、生きる術を得られるのではないかと考えました」
そう。
今までは夏山という血肉を頼り続けた。
しかしこれからは何代もかけて血を薄めながら他の方法を得る事による安定性を目指そうと思った。
呪いと特性が色濃く出る本家のものでは難しくとも、そのどちらもが薄い分家のものならば為せるのではないかと。
『確かに薄れるでしょうね、夏山の血は』
視界が闇に覆われる。
もう枝葉に包まれているのか、絡まりあう木々の間にいるのか、幹の内にあるのか、判別はつかなかった。

『それでどうして赦されるというの?』
そこに色は無い。
『夏山の血が薄くなったからと言って、そこに夏山は存在するのに、どうして恨まずにいられるの?』
そこは暗い。
『彼らを直視しない限り、夏山の血を持つ者は、永遠に赦される事は無い』
そこは冷たい。

反論など何一つできなかった。
言葉にならなかった。
女の一言一言が胸に突き刺さる。
『弔うことでしか業は特赦されないの』
ここは、暗く冷たく悲しい。

視界が開ける。
広い、広い、エージュのダンスホールを彷彿とさせる空間だった。
城の見張り台から見下ろしたような高さにあって、初めて全貌が見渡せる。
床は清水に覆われていて、その深度は計り知れない。
手を伸ばし繋ぎ合った樹木で出来た壁はなだらかで歪な円錐。
よく見れば壁の一点に針穴のような光が射しこむ入口が見えた。
恐らく近づいてみれば、城門に引けをとらない大きさだと予想される。
道があった。
水面に浮かぶ大樹の根。
その連なりの先には、絡み合った根によって中央が台座のように盛り上がっていた。
その空間は入口以外から光は射さず、しかし蛍のような灯りがある。
灯りは
台座から生まれていた。
か細い鈴の音がした。

『さぁ、教えてあげるわ、ただそこにある事実を』

女と青年が下降するごとに幾つもの新しい事実が浮かび上がる。
台座には磔台があった。
いや、あれは磔台では無い。
数多の武具が刺さっていた。
剣、槍、矛、斧、杖、棍、弓矢、ボウガン、銃、盾、書。
古今東西を問わず、錆付き、破れ、折れた武具の数々が寄り集まり、まるで一本の柱のように突き刺さっていた。
その中の幾つかに見覚えがあった。
あれは、いつか失った剣。
あれは、折れたはずの槍。
あれは、この手にある筈の長斧。
あれは。
「・・・な、んですか、これ・・・・・」
posted by 夏山千歳 at 04:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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