2011年09月04日

マナ 肆




..
マナ。
それは真名に等しく、生命に等しく、愛に等しい。

「マナは現世も彼世も問わず存在するもの全てに宿る・・・」
『それが夏山家に古くから伝わる持論であり私はそれを肯定的に捕らえている。
マナの有無と生命の有無は等しく在らず、しかし同時に生死に深く関わっている事も確かだ・・・。
あなたがいつか書いた手紙ね』
長い裾に包まれた手が青年の頬を包む。
布地越しにあっても、その手指はほっそりとしている事が判った。
『そう、マナとは私達そのものと言っても相違無いわ』

肉体と生命と精神。
この三つの要素で生物は構成されている。
ヒトツの生命の基盤である魂。
魂の入れ物でもあり、個という要素を生み出す肉体。
その二つをつなげるものが精神だとしたら、人の中で一番重要なマナとは精神ではないだろうか。

「そしてそれは生命を保証するものではない」
『そうね、それが私達、夏山の持論よ』
「先程から私のみが不安定なのは、マナによって現世に魂が呼び寄せられているから・・・?」
『その理屈でいくと、ここが何処であるかなんて問題にならないのだけれどね。
少なくとも私に肉体の器は、もう無いわ』
思い出す。
精神を失えば、肉体と生命は分離する。
生命の無い肉体は活動する事も叶わず、肉体の無い生命は酷く不安定な存在となる。
そう記したのは誰でもない青年自身だった。
『夏山千歳、あなたは行き先を間違えたのよ。
そしてこれから先も、この方法で辿り着ける事はないわ』
青年は顔色を変える。

『しかし、あなたは此処に至る事で知ることを許された』
なるべく安全な方法で解決に当たれたら。
祈りにも似た願いを持って青年は夢に潜み続けてきた。
まことの死を迎えるには、残すものが大きすぎる。
いつか迎える別れだと理解していても、それは何の予告もなく突然やってくるともだと痛感していても。
意図的に手放す事は、残すものの痛みを思えばできなかった。

深い深い大樹の茂みの中央。
もう目前まで迫っていた緑の群れは、なんの関にもならずにすり抜けた。
青々しく茂り、重なり合う木の葉。
目に見える範囲に枯れているものは一枚として存在しない。
幹は雄々しく瑞々しいまま、ひび割れていた。
死を知らぬ大樹が息づくその光景は、背筋が凍りつくような違和感を訴える。
ここに生命は産まれない。

『教えてあげましょう、有象無象の真実ではなく、ただそこにある事実を』
posted by 夏山千歳 at 07:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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