2011年07月16日

遺品

以下、異大陸とNPCが主役の物語となります
ご注意くださいませ

イド消滅RPより転載 2005年4月21日筆


..
カタンと。

今日の仕事も終え、家事も全てを済ませ。
青年は愛しい我が子と共に眠りにつこうと戸締りをしていた時。
小さな音がした。
本当に小さな音だった・・・こんな静かな夜じゃなければ聞き逃してしまいそうなほどに。
「なんで・・・?」
いぶかしみ呟きながら扉に近寄ると、ほんの少しだけ開いていた。
其の隙間から伺えるのは蒼いインクを濁したような空。
白い、白い羽根。
それと小さな青い光。

「これは。」

青年にとって、よく見知ったものだった。
其れは自分の友と喧嘩をした時に謝罪の意を込めて送ったものだった。
友は常にと言って良いほどに、其の光を身に付けていた。
小さな、小さな、今はもう手に入らない代物。

笑顔が戻るようにと、祈りを込められた海の光の指輪。

其れが何故、玄関にあるのだ?
じわじわと湧き上がる良くない感情に鼓動を早めながらも、其れを拾った。
仔細に見てから気付く。
指輪の裏に何か彫ってある事が。

拙い字だった。
きっと彫るという行為自体に慣れていなかったからだろう。
そして短い一言だった。
あまりに簡潔で、そして。

「・・・なんで・・。」

先と同じ単語を口にしながらも其の感情はまるで違った。
不安に掻き立てられた、あまりに優しい単語だったから。
泣きそうだった、此れと似た恐れを自分は知っているから。

『アリガトウ』

そう、其の言葉は、まるで。

友を失くす直前のモノとまるで同じだったから―――。




先までの夕闇は既に溶け、今はただ藍色が覆う空。
ぬるく感じられた空気は流石に陽の無き所では熱を保つ筈が無く。
背に進入しようとする寒気から身を守ろうと、羽織っていたものをしっかりと抱きとめた。

「つむ、寒いか?」
「ううん、平気。」

婚約者たる男性はそうか、と頷きながらも自分の着ていた上着を自分に掛けさせた。
優しい人、でも変な所で鈍いんだから。
常は足早い人だが、自分と一緒の時はゆっくりと歩んでくれたり。
実は人一倍照れ屋だったりとか、可愛らしくもあるのだけれど。

本格的な春を迎え、今は眠っているが・・・花々等も咲き出したツェンバーでは。
その独特の日照条件のためか、夜にだけ咲く夜光花なども珍しくはない。
詳しい人が語るには環境に適応した新しい進化形なのだ、とか尤もらしく言うが。
難しいことが知りたいわけでは無いし、ただ眺めているだけでも十分に美しいのだから、それで良いと思うし。

「奇麗だな。」

思考のシンクロ。
むしろこういう場面では大多数の人が思うのかしらん。

夜に浮かぶ夜光花が電灯代わり。
幻想的とも言える其の光景に目を奪われている内に、家に着いたようだ。
だが、玄関に一つ、見慣れないものが。

「花束?」
「だねぇ、つむに、みたいだが。」

添えてあったポストカードに女将へ、と書かれていて。
成る程、きっと白い羽根の生えた友人の言っていたブーケなのだろうな、と。

「きっと可愛らしい小鳥さんからのプレゼントなのよ☆」
茶化しながら言う自分に少し奇妙な顔をしながら、それでも直ぐに察したようで。
薄く笑みを浮かべながら、小さく頷く。

「風邪を引く前に早く入ろうか。」
促され、温かい我が家に入る。

何故、急に渡されたのか、考えなかった。
多少はいぶかしんだけれども・・・。

また明日、会えるって、疑いもしなかった。




何時ものように国の雑務を終え。
何時ものように家路についた。

そんな、何時もの日。

長い長い夕暮れの畑道を歩む。
それは彼女の密かな楽しみの一つだった。
国の特色でもある、日の短いこの地域。
他の国と比べればそれなりに早い時間帯。
そんな時間に帰るというのは、久しい事だった。
別段、鬼のように忙しいわけでもない。
だがだからといって暇なわけでもない。
内務という仕事にとっての不変でもあろう事実。
だからこんな時間に帰るというのは、久しいことだったのだ。

浮き足立っている。
此処の所、同居人である炎の精霊たる彼女に家事はまかせっきりだ。
自分も家主もそれなりに忙しいのが事実であるけれども、それはあまり良くないと思う。
彼女は自称料理人だから料理は好きなのだろうが。
家事というのはそれだけでないし。
水仕事だってあるのだし。
だから、今日は帰ったら手伝いをする気だった。

かすかに太陽の御手が残る。
野菜の手入れをしていたのだろう彼女は、偶然にも自分を出迎える形となっていた。
「お帰りなさいませ、ヨシノ様。」
相も変わらぬ穏やかな笑み。
だけど今日は、ほんの少し、違う色が含まれている。

「ただいま・・・どうかしたのか?
あまり顔色が優れないようだが?」
体調でも崩したのだろうか。
一瞬、そんな不安が心を占める。
だが其れは杞憂に終わった。
「いえ、今日、イド様が昼頃来たのですけれども・・・。」
言い難そうに少し俯く仕草に、ほんの少しだけドキっとする。
清潔な色香というのだろうか。
たまに自分はそういうものに当てられるらしい。
だが、今はそれより気になる名前が出た。

「イド様?」
自他共に認めるだろう、親しき友人の名前。
此処最近姿を見せないので少し心配していたのだが・・・。
「此れを、ヨシノ様に渡してくれ、と。」
差し出されたのはオルゴール、否。
鈍く七色に光る大きな鉱石の付いたラジオ。
先日の記念祭に贈ったものの・・・筈。
「託(ことづけ)を。
さようなら、今までありがとう。
月並みのことしか言えなくてゴメンね。」

ぐらりと世界が揺れた。
目の前の彼女も、一層不安を表に出す。
何で、別れの言葉を?
何故?
貴方は、何処に、行くつもりなのだ・・・?

思わず駆け出していた。
幾つかの当てのある場所に向かって。
ただ、これが夢であるように願った。
夢であるように。

そう思いながらも。
月並みのことだなんて、そんな事を気にするあの人に。
ああ、やっぱり、可笑しな人だと。
思った。





葉桜から大気を撫でるように花が落ちる。
彼女の肩にも、そつと。

「イドちは。」
もう二度と会う事も無いと思ってた友人との、唐突な再会。
意外と常と変わらない声色に、自分でも少し驚く。
だけど先ほどから、それ以上の言葉が続かずに。
何度も、何度も、仔の名を繰り返しているだけだった。

「イドち。」
もう二度と会う事は無いと思っていた。
だからこそ、かける言葉も見付からず。

引き留めたいのか。
背を押したいのか。
それすらも解らず困惑していると、微笑むだけだった仔はようやく反応らしい反応を返し
た。

「うん。」
何を伝えたいのか自分でも解らないのに、ただ、確かと言うように頷く。
肯定、否定、諦め、希望。
そのどれも含まない返事だった。


何も言えなかった。
これ以上、声を出したら、頭をスポンジにする熱いものが溢れてしまいそうだったから。
だのに仔は、気にせず自分を抱き締めた。
額に小さなキスを落とし、手には小箱を持たせる。
「零理さん・・・。」
涙の代わりに溢す呟き。
この太陽の匂いが離れていくと思うと、名残惜しくて、切なくなる。

仔はそつと体を離し、もう一度、額にキスを落とした。
「ばいばい。」
短く別れの言葉を告げ、仔は空に消えていった。
春の夜の夢のように。

それはたった数分間の出来事。




後日、知った事だが。
どうやら仔に会うことが出来た人は本当に少ないようだった。
何故、自分に。
それとも自分は運が良かったのか。
だが今更、何を思おうとも。


全ては後の祭り
【関連する記事】
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 昔話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/217025965
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック