2011年01月07日

彼らが居た




..
■・:ユキ

紅を揺らしながら、フロアを駆ける
裾はさざ波
沫、みず、想い
たくさんを抱く

向かう先は白の歌姫
深いみどりの傍ら


黒い兎の縫いぐるみを抱いていた
最後の夜をもらった
何を話しただろう
たくさんもらった

黒い兎の縫いぐるみを差し出した
縫いぐるみじゃなかった
何も言わなかった
でも

彼女たちに渡さないと と思った
梅と雪と鳥のお城
梅香る城主にそっと差し出した

「うごかなくなってしまったの」

言いかけた言葉は噤んだ
それはきっと兎さんが哀しむから
ありがとうが伝わっていますようにと思った

■・:梅

息せき切って駆けてきた紅の歌姫
その腕に抱かれた黒い兎の縫いぐるみ

二人の姿を見た瞬間、胸が詰まって何も言えなかった

ただその小さな体を抱きしめる

悲しかった

けどそれ以上に二人が愛おしかった

雪の少女にありがとうを伝えたかった
長い旅を終えた彼を笑顔で迎えてあげたかった

「おかえりなさい……兎さん」
暖かい雫が物言わぬ兎の上にひとつ、またひとつ落ちていく



「ずっと、一緒だよ…」



誰も居ないバルコニー
静寂の中、ただ雪だけが降る

石造りの花壇に腰かけて
膝の上の彼を撫でながら白の舞う空を眺めていた

やがて明けの空に日の光が射すまで

■・@千歳

ダンスが終わり、先程までとは打って変わった時間が流れる。
しかし胸騒ぎがしていた。
それは実況委員達が使用する伝達機から、漏れ聞こえた音。

無垢な少女の腕の中、無垢な兎が眠っていた。

娘と、少女と、兎を。
全て包み込むよう抱きしめる。
漆黒が優しく覆う。
今だけは、この大きい身体に感謝した。

言葉など、出よう筈も無い。
ただひたすらめぐる、慕ってくれた少年の。
はかない声、笑顔、仕種、口元。

Cのホットチョコレート、飲んでくれたのかな。

雪が全ての音を吸収して降り積もる。
いつか崩れる城を見続けた時と同じように、地に還りゆく星々を後ろから眺めていた。


そこには確かに彼らがいた。




posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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