2011年01月03日

春告げワルツをもう一度

花笑う


..
■春告げワルツをもう一度@千歳

貴女と名が並んだのは、これでもう三度目。

舞台裏で打ち合わせをしていたが、程々で切り上げた青年は、一目散に駆けていた。
一足先に会場を去った少女を、今度こそ迎えに行く為に。
駆けてゆく、息を切らせて。

一回目のダンスは初参加の宴で、互いに初対面だった。
沈丁花の薫りに酔った三曲目。
ダンスが終わっても手を離したくないと、初めて心から思った。

青年は知っている。
少女が会場を抜け出した理由を。
そして今度こそ青年の願いは成就される事を。

二回目のダンスは去年のフィナーレだが、采配の偶然によるものだった。
金木犀の香りで弔った最終夜。
冬の山が眠るような慟哭の中で、泣いていた。

そのどちらも少女から探させてしまったことを、青年は未だに悔やんでいた。

「梅花嬢!」

テラスに佇むシルエットは淡く発光している。
青年が使役する羽虫が取り囲んでいるから。
そして少女の白いドレスが月明かりを反射しているから。

「千歳はずっと貴女に伝えたいことがありました」
息も整わず、うっすら浮かんだ汗も拭わず。
「あの三曲目が終了してから、私も貴女と踊ることをずっと切望しておりました」
ようやく落ち着き、袖で額を拭う。
少女の背へ向け、その場に片膝をつき。
「こんな男で良かったら、貴女の時間を、もう一度ください」
振り向いた顔を見詰め。

「好きです、貴女が好き・・・大好きです」


■三年越し、ですけどね(笑:梅

3年前の冬の星空の下、すれ違い様に見上げた髪飾り

その時私は恋に落ちました


そこはいつかの悲しい思い出の残るテラス。

彼が私のために作ってくれたドレスを彼のためだけに着て。
季節外れの蛍の様な、光の明滅の中に私はいました。

あれから世界を旅して様々な国を見て、色んな出来事を体験して
心通わせられる友達もできました。

塔のてっぺんでは、大きな声で歌を唄って。
舞台にあがって他の誰かの人生を演じて。

背は…あまり伸びなかったけれど…
負けちゃったけど、天狼さんと渡り合えるくらい強くもなった。

本当に多くの人と出会って別れて、本当に沢山笑って、泣いて。

少しは私も大きくなれたかな?

だけどいつも心の奥で、この広い世界で、ずっと彼の姿を探してた


『もう探さなくていいんだよ』

指先に灯る小さな光が、そう言ってくれている様な気がした

『梅花嬢!』

月明かりの中、大切な人の声がする
指先の光がふっと舞い上がった

言の葉を巧みに操る彼から、何の飾りもない言葉が告げられる
この3年間、ずっとずっと言って欲しかった言葉

(逢いたい悲しい傍に居たい笑って寂しいよ連れて行って名前を呼んで私に触れてぎゅっと抱きしめて!)

貴方に伝えたい想いが溢れて千々に乱れて弾けてく

何も言えずに飛び込んだ彼の胸の中

「私も…私も貴方が大好きです」

ただ、今一番貴方に伝えたいこと


■@千歳

貴女とのダンスは何時だって春告げワルツでした。


雪ちらちら。
今年も変わらず降り注ぐ、人工の雪。
母が娘へ示した愛情が、誰もかもを分け隔てなく包み込んだ。

言葉が終わると同時に駆け出した少女を受け止める。
「梅花嬢、梅花嬢、梅のお嬢さん・・・メイ・ホア!」
槍術を扱うからと日頃から鍛錬を怠らない身体は、しかし細く折れそうだった。
力いっぱい抱きしめる。
そのまま、ふわり持ち上げて一回転。
駆け出す音楽と共に彼らはダンスホールへ舞い戻った。

清涼の、山道に茂る千歳蘭。

金色の床を弾ける。
少女の手を取り、身体を支え、共に靴音を刻む。
「綺麗です、貴女はとても綺麗」
白夜のドレスが翻り、闇夜のマントが包み込む。
「その赤毛も、ちょっと寂しそうな瞳も、健やかな御身も、繕わず笑う口元も」
春を告げ、薫り高く咲く梅の花。
「でも一等、お美しいのは、その心根です」

春を告げ、薫り高く咲く梅の花。

「貴女は綺麗な人だ、梅花嬢」
思いの丈は緩むこと無く、装飾することも忘れて、あどけなく伝える。
青年はとろけるような笑みだった。
済ました顔でも無く、悪戯な顔でも無く、淋しげな顔でも無い。
まことに幸福な子供の笑みだった。


■星屑の宴:梅

飛び込んだ彼の腕の中、そのまま勢いあまってくるっと回ってしまいました。

「あはははは」

夜空の星々、街の灯り、会場の煌きのパノラマがあんまり美しくて思わず声が上がる。
そしてくすりと笑い合うと手を取り合って輝くダンスホールに駆けてゆく。

駆け戻ったダンスホールは、フィナーレのこの宴最後でそして一番の輝きが溢れていました。

そこで初めて私はペア発表の両思いの所に並んだ二人の名を見ました。

「時間・・・かかりましたね〜、遠回り遠回り、すれ違いすれ違い、ふふっ」
流石に感慨深く、そんな言葉が口をついて出ました。

「あら?千歳のせいでございましょうか?」

「いいえ〜、お互いぶきっちょですねって、あはは。そんな二人で上手く踊れるでしょうか」

二人のダンスはいつも軽口から始まる。初めての時もその次も、そして今回も。

「ふふっ、そうでございますねぇ、ならば試してみればよろしいかと」
そう言って柔らかく微笑む彼の手を取る。

ゆっくりと最後のダンスの最初のステップを踏み出す。
合わせて彼の足が巧みにリードを始める。
ふふ、試さなくたって、ねっ♪

そうして踊りながら告げられた、何時になくストレートな彼の褒め言葉。

『貴女は綺麗な人だ、梅花嬢』

紅潮した頬の彼に負けじと頬が赤くなるのを感じた。

「でも私はそんな綺麗な人じゃないですよぅ・・何処にでも居るふつーの子です。」

「・・想っても想っても振り向いて貰えない人にやきもきする様な」

照れ隠しに少し意地悪な事を言ってみてちろっと舌を出す。
困るでもなく嬉しそうに笑われましたが・・・。


本当の最後に向けて曲は一層の高まりをみせつつあります。
エージュの夜に咲誇った大輪の花がもうすぐ散ってしまう事がわかる。

でもでも、牡羊の『ふわふわもこもこ』みたいなこの幸せにもっともっと包まれたいの(笑

宴の夜はまだ終わらないですよねっ。

牡牛の角にヴェールを預けて、双子の様に息を合わせて踊りましょっ。

夢の時間も4度目となればなれた物♪
いつしか楽団のメロディを離れ、靴音はタンタントトン、二人だけのリズムを刻む。

悲しい事は鋏で切って、獅子のたてがみをリボンで飾り、歌うの乙女も羨む恋の歌。

心と心を秤に乗せて、ぴたりと合えばまた微笑んで。
ちくりと刺すの貴方の胸を。

ふわふわくるくる手を重ねて回る度に、大切な人達の姿が目の端に止まっては消えてゆく。

宴中を駆け巡る沢山の想いを全部全部ぎゅっとして、
『大好きだよっ』って叫びたくなるのをぐっとこらえて。

私に出来る最高の笑顔を目の前の最愛の人に。

流れ星の矢が銀河を走れば、駆け出さずにはいられない♪
笑顔で踊ればやぎの子達も祝福のベルを鳴らすわ。

溢れる涙も硝子の水瓶で受け止めて、光の海を貴方と泳ぐの。

軽口に愛の言葉をちょっぴり混ぜて、手を重ねて足を鳴らして。
今この瞬間を精一杯胸に繋ぎ止める。

煌く宴の夢の中。それは幸せなだけの夢じゃなくって。
別れや切なさもいっぱいいっぱいあるけれど。
でもやっぱりその全てが愛しくて。

回って天空の星達、巡って大切な宴と縁!

願いよ叶え、また再び出会えるようにっ!

「千歳さん、こんどは何処へ連れて行ってくれますか?」
ステップ踏めばドレスの裾には笑顔と星が舞い散る。

潮風の吹く海辺の国?
日のいずる倭の国?
深緑に包まれた豊穣の国?

どんな空の下だって二人でいればきっと大丈夫。

そしてまた帰って来れたらいいな。

全てが始まったこの場所に。

■@千歳

はなひらく。
清廉に薫るラブ・レターで芽吹いたばかりの春を知った。


拗ねるような少女の言葉だって笑みを浮かべる。
可愛い人だと心底から思った。
「スパイスが効いた方が恋は美味しく実りましょう?」
謙虚な嫉妬や独占欲も、心地よく耳朶を打った。
「それに千歳だって普通の人間ですよ」
きっと貴女より先に逝く。
その言葉を飲み込んで。

「歌いましょう、踊りましょう、これからもずっと」
限りある生命だから分け合いたかった。
寄り添って生きて行こうと思った。
欠けた心を探して彷徨う、私を見つけて側に居てくれた。
諦めないで想ってくれた。
「素敵な夜です、ねぇ、こんな夜はもう二度と無い」


はなねむる。
健気な思慕の悲痛な叫びで自分の中の春を知った。


「けれど、また明日には明日の、来年には来年の夜があるのでしょうね」
「えぇ、そしてそれはとても幸せなのです!」
血に潜む、愛して憎んだ金木犀。
青年の旅路は暗く冷たい地へ向かっている。
そう、どうしたって私はきっと貴女より先に逝く。
けれど貴女が隣に居てくれるから「生きていたい」と思えるようになった。
短い時間で終わらせたくないと渇望することを知った。

貴女と一緒なら千歳は無敵になれるのです。
今年の初めに少女に告げた言葉は本当だった。
渇望を知り、手段を模索する、貴女から諦めない心を教えてもらった。


はなわらう。
幾つもの遺愛を越えて、貴女と咲かせた春を知った。


彼らは彼らのリズムを刻みだす。
二人は二人の世界に没頭する。
「千歳さん、こんどは何処へ連れて行ってくれますか?」
「ふふ、そうですねぇ」
しかし彼らの世界は、大きな世界に包まれていた。
だって彼らは世界を巡る旅人なのだから。

去り際に、春を知らせる沈丁花。
どこかで薫った気がして、なら花に酔ったんだと言い訳ができる気がした。
遠い町並みを映し出す、少し曇った硝子窓までリードする。
少女の頬に手をやって。

「貴女となら何処へでも!」

その臙脂のカーテンを解くと同時に顔が重なる。
須臾、彼らの姿を見たものは誰も居なかった。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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