2011年01月30日

禊 拾




..

手が離される。
聖職者の言葉は何時だって青年の心を守ってくれた。
自分勝手な行動を取って、謝りながらも変わらない愚鈍な自分を、許してくれた。
その度に深い感謝と凍りつく心を知った。

「う、嘘・・・」
優しくしないで、千歳の業は深いの。
「そんなの嘘、嘘です、嘘」
罪を許して、ううん、罰を与えて、千歳は酷い人間なの。

「千歳」

苔むした冷たい岩に染み入る、ただそこにある声。
「あなたは、あたたかいです」
耳をふさいだ、かぶりをふった、駄々をこねる子供のように。
「違う、千歳は、あれは、ただの禊で、死にたい気持ちなんて!」
「千歳」
「だって千歳を待っている人達がいるんですもの!
嘘、嘘です、死にたくなんか、ないです!!」
「千歳」
「し、しにたく、なんか、だから・・・」
染み入る、水のように、染み入る、声が深く。
本能が拒絶する。
その事実を認めてはならないと。
でも染み渡る現実から、目を逸らせない。

「ならば何故、抜き身の刃物を構えた男に、無防備に背を晒しているのですか」

「ッ・・・!!」
丸まっていた背が痙攣するように伸びて硬直した。
途端、首元から、袖の隙間から、蔓草が展開する。
同時に聖職者はサイドステップで距離を取る。
聖職者の心臓を貫こうと一直線に伸びる蔓草は、躊躇無く切断された。
氷のように冷静で、燃え盛る摩天楼の眼差しが交じり合う。
青い瞳に映った慟哭に、聖職者の動きが一瞬、鈍った。
蔓草が頬をかすり、血が滲む。
「左業!左業!いやあああぁぁ!!助けて、左業!」
次々と襲い掛かる蔓草を、鮮やかな剣舞がいなす。
まずは一閃、返しに一閃、身を翻し避けて、勢いのまま一閃。
わかりやすく急所ばかりを狙う軌道は避けやすい、が確実ではない。
びゅるると空気を切り裂く音は、そのまま脇腹を浅く抉った。
「ン、っ」
しかし剣は、侵攻は止まない。

詰められる距離に焦ったのか、攻撃はますます単調なものになる。
心臓に伸ばされた蔓草の一本を掴み、力いっぱい引いた。
「ひ、ぁ・・・!?」
蔦と肌の境界線に負荷がかかり、肉ごと引きちぎられる。
鮮血が舞った。
痛みに怯んだのか、蔓草の侵攻が一瞬、止まる。
その隙をついて、青年の肩が蹴り倒される。
横倒しの身体を仰向けにされ、肩を踏まれ、喉元に剣を突き立てられる。
剣を持つ手を離せば、いや、手元が狂っただけで、容易く絶命する。

だのに見上げた顔は、いつものように笑んでいた。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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