2010年11月18日

密会

以下、異大陸との交流した物語があります
前半は千歳(背後様)が
後半は伽藺殿(背後様)が
それぞれ書かれた物語となっております


..

青年を載せた飛行型魔導シップは雲を切り空を割る。
現在、最速とされる機体は半日程で大陸を繋ぐものだった。
試運転飛行と銘打った緊急のものは安全の保障も無く空を駆け抜ける。
それでも手紙のやり取りをするよりは恐ろしく早い。

轟音を魔法により遮っているとは言え、睡眠を取るのに快適な環境とは言えない。
うつらうつらしたまま、片隅で船を漕ぐ。
彼の持つ紙束には、命運がかかっているかもしれなかった。
しかし、それが作用する未来を、まだ誰も知らない。

目的地に程近い発着場には、既に人影があった。
今回、異大陸へ足を運ぶにあたって、ほぼ唯一と言える旧知。
燃えるような赤毛、赤い瞳、六対の羽が一目を引く派手な顔立ち。
フリーの傭兵、内密のメッセンジャー、火の鳥と呼ばれる男だった。

「お久しゅうございます」
「久しいな、そうそう連絡を取ることは無いと思っていたが」
「相変わらず辛辣ですこと」
「お前さんも思ったより元気そうだな・・・それだけ口がきけりゃ上等だ」

吹き付ける風に肩をすくめコートの衿を寄せる。
冷ややかな口元が隠されればサングラス越しには身内に向ける温かみがあった。

「さて、では夏山殿、今回の依頼先へ案内しよう」

しかしそれもすぐに消える。
男はビジネスの仮面を被る。

「はい・・・事態は道中に説明致します、ティーラ殿」

青年は依頼者の義務を口にした。

「・・・そうか、あの大陸も変わったもんだな」

渇いた口調で宙を見上げる。
男は大陸開放当時、あの場で過ごした経緯を持っていた。
たった数ヶ月だが一生でただ一度、国に仕えたとだけ青年は聞く。
それ以上を踏み込ませない訳では無いのだろう。
しかし今をあの大陸で生きる者を目の前にして語る言葉を持っていないのも事実なのだろうと思った。

「浅からぬ歴史だとは存じます、しかし神殿の出現はあまりに異質なのです。
対抗策は幾つかあっても、それを選ぶ基準さえ定まりません」

不確かな情報を元にした話し合いは決定打に欠けていた。
本心を語り合うためだけなら情報の真偽など大した問題ではない。
しかし状況はそれを許さなかった。

「彼の氏は情報をお持ちだと聞きました」

それが全てだと言うように男を見つめる。

「・・・その確率は低くないだろうな」

鬱蒼とした枝葉の合間から屋敷が見えてきた。
おっとりした外見に反して、鋭い洞察力と手広い人脈を持つ妖樹。
男の瞼の裏には、したたかな笑みが浮かんでいた。



訪ねて来たのは、紅蓮の鳥人。
いつものように『彼』からの手紙を届けに来たのだろうかと思ったが、どうも雰囲気が違う…。

屋敷の玄関口に立ち、伽藺を見つめる紅の瞳に、いつにない焦りが見えた。

「…ティーラ殿。
どうか…、なさいまして…?」

尋ねると彼は無言で、背後に控えていた人物を、前に押し出した。

…そう、控えて、いた。

長身だった。ひょっとすると婚約者である医師と、あまり変わらないかも知れない。
なのに鳥人の背後に隠れ、完全に気配を消していた。

…いや、気配が『溶け込んで』いたのかも知れない。
屋敷の中庭に生える様々な樹木や、そこに息づく小さな生き物たちに。

(まさか?)

…と思い、伽藺は彼が樹妖たる証を探そうとしたが、どうにも見当たらない。
ひょっとして葉や枝を、巧妙に隠しているのかも知れないが、
ざっと見た限りでは…。

多少大柄なだけの、気配の静かな、倭人の青年に見えた。

青年は深く頭を下げると、やはり見た目に似合った静かな口調で、言葉を切り出した。

「…夏山…千歳と申します。こちらの方より、柳殿のお話を聞いて、南の大陸より参りました」
「あ、は…、…はい…」

静かな態度は崩さないが、目前の彼からもやはり、焦りを感じる事が出来た。
紅のメッセンジャーに目をやるが、彼も静かに伽藺を見つめていた。

「伽藺、で結構ですよ、夏山殿。柳は厳密には…、名前ではありませんから」

どちらかというと、種族名…妖怪としての分類名に近い。

「では、千歳のことも千歳と、お呼び下さいな」

愛想で浮かべたのだろう笑顔を直ぐに引き締めて、千歳と名乗った青年は重々しく口を開いた。

「では、かりん…殿…。いきなり不躾ではあると思いますが、お願いしたいことがあるのですよ。
この千歳と…千歳の大切な方たちのために、どうぞそのお力を、お貸しいただきたいのです」
「ふぇ…?」

異大陸から遥々来たと思われる人物に、一体自分が何を出来るというのだろう?
細首を傾げながらも、伽藺はとりあえず二人を屋敷内へと、招き入れた。



室内に招き入れ、プレイルームに通した。

リビングや応接間でない理由は、まず一つにこの部屋が屋敷で一番、 防音が行き届いていること。
(正確に言うなら、地下室に次いで二番目に、となるのだが)
そしてもう一つの理由が、伽藺の主たる医師にあまり、見られないからであった。

理由があってのことだとしても、主は伽藺が他の男と話すことを、 あまり快く思わない。
相手がいるならまだましのだが、さすがに初対面の相手にいきなり、恋人の有無は尋ねられない。

暖かな玉露と煎餅を供した後、詳しい話を聞こうと伽藺も、席に付く。

玄関先では、まるで庭の風景に溶け込んでいるような、存在感のない千歳という青年だったが、 部屋の中では人並みの存在感を有していた。

ただし印象でいうなら、鷹揚にして凡庸。

長身ではあるが医師のように逞しい訳でもない。
服装もオリエンタル風の、あまり派手とはいえない衣服。
顔立ちだって端正なのだろうが、それもこの派手な鳥人の隣にいたなら、 霞んで目立たないものとなってしまう。

目立つといえば、伽藺もかなり目立つ筈だ。 ・・・服装的な意味で、・・・だけれど。

幸いなのは今の服装を見ても、青年が顔色一つ変えなかったこと。
他者の格好くらいでうろたえられるような、余裕のある精神状態ではないのか、
それとも鳥人氏があらかじめ、説明しておいてくれたのか。
・・・後者だったら有難い。

場が落ち着いたのを確認すると、千歳がゆっくりと口を開いた。

「神殿・・・。天空神殿というものを、ご存知でしょうか・・・」
「神殿? ・・・あぁ・・・」

かつて、見たことがある。友人が登ったりもした。
しかしあまりにも古い記憶なので、はっきりと覚えているとは、言い難かった。

「千歳が滞在している国、・・・エージュ・・・に、天空神殿が攻撃を仕掛けて来たのです」

鞄から取り出した紙束をぎゅっと握る。
物静かで柔和な雰囲気の彼が、心の奥に灯している確かな激情を、垣間見た気がした。

「情報を集めているのですけれど、どうも直前に出た神殿は・・・、こちらの大陸であったと聞き・・・」
「それはいつごろのことですか?」
「・・・確か、二年ほど前のことであったと、聞き及んでおります」

千歳に気付かれないように、伽藺は小さく唇を噛んだ。
二年・・・、前・・・。

「すみません、その頃は事情で僕は、この大陸にいなかったから。
お話しできるような情報は・・・、ないかと・・・思います・・・」
「えっ」

俯く千歳。強く握った指先から、血の気が引いていくのが分かる。

「そう・・・なのか? どうにかならない、・・・のか・・・??」

ティーラの三対の羽根も、こころなしかうなだれて、いるようである。

「ティーラ殿は、何故この方に僕のことを?」
「・・・んーっ・・・」

ふさっと柔らかげな赤毛を掻いて、メッセンジャーが恥ずかしそうに呟く。

「俺は・・・正直言って、お前さんのことをよくは知らない。
国の仕事をしているとは聞いていても、どの程度の役職なのかとか力量かとか、 そういうことは全くと言っていい程・・・認識出来ていない。
それは今回の任務において、必要がないと思っていたから、調べもしなかった」

メッセンジャーの言葉を、伽藺は黙って聞いていた。

「でもな・・・。
あいつには、聞いていたんだ。
お前さんがどれほど賢くて、優しくて、民のために・・・動き回っていたか」
「はは・・・」

『彼』にとっては。
・・・この背中はそうだったのだろう。
『仕事』のために、淋しい思いや辛い思いを、させたとしても、それでも『彼』は・・・、色々あったにせよ・・・、
『国役職』としての自分を、尊敬してくれていたのだろう。

「そんな思い込みで、紹介しちまったわけだが。迷惑だったろうか、な」
「・・・・・・」

伽藺は椅子から立ち上がり、黙って部屋を出て行った。
そしてすぐに、何らかの帳簿を持って、戻って来た。

「確かに今回のことで、僕がご助言出来ることは、何一つ無いでしょう。
けれど・・・」

帳簿を開き、ぱらぱらとめくってみた。
そこには彼の個人的な友人から、各国の首脳陣まで、数多くの人物の連絡先が、 網羅されていた。
中には海を遥かに越えた、異大陸の有力者の名前までもある。

「力になってくれそうな方に、繋ぎを取ることくらいなら、 ・・・出来るかも・・・知れません」

伏せられていた千歳の顔が上がった。
ティーラも色の付いた眼鏡の奥で、その紅の瞳を見開いていた。
伽藺は、少し困ったように、肩を竦め。

「あの子に期待されたなら・・・、裏切る訳には行きませんでしょう・・・。
旧友として、・・・親友、と、して・・・」

魔導電話機に指を掛ける。
そう、自分はそういえばいつも、こういう方法で戦ってきた。
自分には力もなければ、それほどの知恵もない。
ただ、出来たことといえば、人を繋ぐこと。人にものを頼むこと。

「出来る限りの、ご協力を致します」

−ダイヤルを回した。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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