2011年01月02日

私達は比翼連理だった(ディレクターズ・カットver)

the Point of No Return


..
■私達は比翼連理だった@千歳
少女は人見知りで引っ込み思案だった。
しかし一度触れた者に印象付ける無垢な心は、そんな些細な欠点を補って余りある。
今年は、その印象に似合わぬくれないのドレスが贈られた。
あどけなさも感じるデザインではあったが、燃え盛るような情熱の。

少女は壁の華だった。
少しだけ踊り疲れて、指名ダンスへの期待と不安を抱いて。
管弦が始まりが夜を変える。
休憩時間のアナウンスが、よく知る声だと気付いて嬉しくなった。

全くの偶然だが少女の周りには誰も居ない。
身体を冷やす窓際よりも、暖かい料理のある社交場の方が賑やかなのは例年通り。
目を瞑る。
それでも判った。

少女を大きな影が覆った。

「ユキ嬢、恩愛の人」
華奢な身体はマントに包み込まれる。
「ごめんなさい、今年も選んで差し上げられません」
片手を取られた。
穏やかな人柄に反した、冷たい手。
「だから・・・」

顔を上げる。
何時だってそこには緑の光があった。
少女を導き、見送り、見守る。
オリーブ色の瞳。
「私の天使、迎えに参りました、今年も」
比翼連理だった人。


■重ね重ねて:ユキ

黒曜石の瞳が青年をまっすぐに見た。
その冷たい手を固く握り返した。
この手に温もりはない。
包み込むのは自分ではない。

ただ応えたかった。

か細い声がマントの中に響く。
少女の歌声。
青年は微笑んだ。





空気が動く。


■「比翼」雌雄が一体とされる想像上の鳥のこと「連理」別々に生えた二本の木が結合して、一本の枝となっているもの@千歳

青年は社交的だが臆病だった。
穏やかな人柄、柔らかい物腰、暖かな言葉は確かに魅力的だ。
しかし彼の周囲には、何時も見えない壁があった。

半ば駆けるように少女を引っ張った。
細い腕が、ぐんと引かれてホールの中央へ導かれる。
それまで見せていたエスコートとは違って、乱暴とも言える作法に。
偶然、目にした人は驚いたかもしれない。

もつれ込むようにして彼らは踊りだす。
ゆったりした音楽は、しかし胸の内から叫ぶような激しさを隠し切れない。
それを体現するように、強く床を蹴る。
低音が名残惜しげにビブラートを響かせば、腕を広げて指先まで余韻を感じた。
高音が訴えるようにスタッカートを刻めば、早すぎるほどの足取りでステップを刻む。

このダンスは見本にならない。
そして点数をつけられるようなものでも無い。

高揚した心の赴くままに、気遣いも無く、しかし気持ち悪いほどに息が合っていた。
彼らの瞳は陶酔している。
次はどう動くのか、次にどう動きたいのか、理解しきっている現状にトランスしていた。
何にも縛られないダンスは彼らの箍を失わせた。

一瞬の間に合わせて、少女が後ろへ倒れこむ。
青年は薄い背を抱きかかえて、その首元へ顔を埋める。
動物が動物を捕食するように。
うっとりとした時間は五秒も持たない。
がくんと身体を引かれて、また青年に振り回される。
細腰をつかまれて宙に舞った。

楽団が強く、その音を鳴らしたとき、シャンデリアに目を向けた者は居たのだろうか。
彼らのダンスは確かに今、終わろうとしている。

青年は幸福に酔っていた。
今、ここに壁は無い。
少女は知っていた、それを取り払ったのが自分では無い事に。
それでも幸せだった。
少女は青年の訴えを、とうに知っていたからだ。
彼らはこのダンスの最中、ずっと声ならぬ声でやり取りをしていたのだ。

貴女のおかげで今の千歳が在るのです、と。

両手が離れる。
バイオリンがひときわ昂く泣いて。
それが合図だったように、青年は右頬を掴み、仮面を高く投げ捨てた。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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