2010年03月23日

軽い手紙

扉を開けた青年は積もった埃に眉を寄せる。
よどんだ空気を換気させても濁った甘い空気が室内を満たした。

春が近い。

なのに、この部屋は寒々しい。
今だ春の遠い、あの山麓の街は温かかった。

帰りたい場所を強く意識する。

けれど、この地で果たさねばならない事がある。
金貨を受け取り義務となった、軽い軽い紙を届ける義務がある。


よ、久しぶり
いや、こういう時は・・・新年あけましておめでとうございます、だっけか?
もうこの季節だと新春の寿ぎをなんたらの方が現実味があるな(笑

さて今日はお前さんに手紙を持って来た
俺が届ける手紙だ、相手や内容は察しがついているだろう
これを読むも読まぬも、お前さん次第だし
そも受け取らないのも選択だ・・・相手はそうあっても構わないと思っている

ただ一応、お前さんに届けて
万が一にも返事を書くようなことがあった場合に受けとって依頼主まで届けて
更に、そこから返事があったら、また届けて
互いが納得するようになるまでが俺の仕事だし、俺がこの大陸に来た理由だ

さて、どうする
とりあえず受け取るか?

(黄ばんだ封筒をひらひらと振って見せる


.
(黄ばんだ封筒の宛名は癖の強い大陸語だった

かりんと呼ばれた柳の方へ

(そして、その中身は、所々いびつだが丁寧で癖の無いムロマチ語だった

お久しぶりです。
もしかしたら初めましてかもしれません。
イドと名乗っていたバードマンです。
ムロマチ風の手紙の書き方はわからなくって、せめて字だけは昔とったきねづかで書いてみましたが読みにくくないでしょうか。
もし難解なようでしたら、次から(次があれば)大陸語で書くことにします。

ずっと迷っていたけれど、ようやくあなたに手紙を書く決心が付きました。
でも何から話して良いのか、やっぱり少し悩みます。
だから私の近況から書いていきたいと思います。

もしかしたら。ここまで読み進めてもらうことも無く、もうこの手紙はびりびりに破かれているのかもしれない。
でも、それでも良いんです
。あなたは律儀だったから何だかんだで最後まで読んでくれそうだとは思いますが、嫌だったら、それで終わりで良いのです。
あなたは勘違いしているようですが、あなたは私に対する責任を何一つ持たないのです。
ですから、どうぞそれを必ず念頭においていてください。

もしかしたら風の噂で耳にしたかもしれませんが。私はあれから、ふとしたことで知り合った方のお店で働かせて(いいえ、正しくは迷子の保護だったのでしょう)いただきました。
今はもう、とうに勤めを終えて長い時間が経ちます。
その後、俺は旅に出ました。
風のように行き先も決めず、色んな土地を巡ったり。
時々、古い友人に会ったりもしました。

ただ少し。そう、少しだけ、身体を悪くしてしまって。
病が悪化して旅の継続も困難になっていた時に、倭人(異大陸ではムロマチ人のことを、こう呼ぶんです、知ってましたか)の方に保護してもらいました。
お医者様のまねごとが得意だと言ってたその人の推めで、四季の美しい土地で湯治をすることになりました。

何年か、その人の元でお世話になっている間に、ずっと気にかかっていたことを話すようになりました。
相談と言うよりは、懺悔に近かったのでしょう。
その人は答えをくれませんでしたし、答えは貰うようなものでは無いのです。
でも、そうしていたら、その人はティーラに引き合わせてくれました。
体調も良くなってきましたが、旅を再開するには不安が残る身の上を、ティーラは快く引き取ってくれました。

こんな歳になっても、まだ誰かに迷惑をかけているのが恥ずかしいし悔しいし情けないです。
早く身体を治して、また旅をしたいです。
誰も知らない遠くまで行きたいです。
でも、それをしたら、もうあなたと話す機会は二度と無いでしょう。
それ程までに私は遠くへと旅立ち、もう戻らない決心をしています。
だからあなたに手紙を書きました。

外は雪が降っています。
今はティーラが家を持っている山の麓の温泉街でお世話になっています。
元気で心優しい坊ちゃん(ティーラの預かり子だそうです)との暮らしは楽しいことばかりです。
ティーラも穏やかな顔をしていて、ほっとしています。

これが最後の迷惑ならば、俺はお前さんのわがままを聞きたい。
俺は何時だって兄でいたいのだから。

ティーラがこう言ってくれた許しに、私は甘えることにしました。
私は本当に兄や姉にあたる人々に恵まれています。
恵まれているのに、それを当然と思っていた、昔が悲しいです。

私は名を変えました。
前述した、お世話になった倭人の方に名前をもらいました。
父と母からもらった名を変えるのは心が痛みますが、かつての名を知るのは、もう遠い過去の友人達や家族だけで良いのです。
それに名を変えたのには大きな転機があります。
私にも弟のような、息子のような存在ができました。
実子では無いのですが、そういう存在ができるとは思っていなかったので、きっとこれを望外の喜びと言うのでしょう。
その子に名を譲りました。
もしどこかで異土=里来と呼ばれる青年に会ったら、その子は確かに私の忘れ形見になります。
気難しい子ですが縁があったら適当に親しくしてやってもらえたら嬉しいです。

随分と長くなってしまいました。
つまらない綴りばかりだったとは思いますが、ここまで読んでもらえて嬉しかったです。
これだけで私は満足です。
行動は起こさねば行動となりませんし、懺悔も謝罪も起こさねば行動にならないのです。
私は懺悔や謝罪のつもりで、この手紙を書いたつもりはありませんが、それに近い感情は拭いきることはできません。
だけれど、行動をするというだけで良かったのを忘れていたとは言え、あなたに手紙を書くことを私は私に許せるようになって良かったと思います。

私は今、穏やかに暮らしています。
あなたの暮らしが幸せであることだけを祈って、白い山並みを眺めています。


イドと呼ばれたバードマンより
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 火の鳥の手紙、又は手記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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