2010年01月13日

歌が流れる

華やかな弾幕と煌びやかな火花の幕が開ける


..
■休憩中:アガット

「ふう。踊るのは慣れてもこの畏まった恰好と空気だけは慣れねぇな。」

シャンパンを片手にソファーに座り、息をつく。

奇妙な爆音、突然のアナウンス。

どうやら招待した覚えがねぇ連中が来たらしい。

エアシップで往復すりゃぁすぐか。

「ちと行ってくるか。超特急で。」

ソファーから立ち上がると足早に会場を出る千歳がいた。

「ついでだ。行くんなら乗せてやるぜ。」

後ろからその肩をポンと叩いた。

■技師と治療師は空を飛ぶ@千歳

「ついでだ。行くんなら乗せてやるぜ。」
城門まで辿り着いた所で、唐突に肩を掴まれる。
振り向くと騎士服の男性が居た。
普段は汚れに強いラフな格好をした男性だからか、見慣れぬ姿に暫し思考を巡らす。
「・・・あぁ、アガット殿!」
「いや、その間は微妙にアレじゃねぇか?」
仕立て屋にも笑われたしよ、と苦い顔。
見違えました、格好良くございますよ、と和やかなやり取りをするも、直ぐに有事だと思い出す。

顎でくいっと空を示し、猫の目が細められた。
「共同戦線と行こうじゃねぇか」
「助かります」
中庭に鎮座してあったエアシップの後方に乗り込む。
短くも長い休憩時間の始まりだった。

■最悪のタイミング:梅

それは幕間の事でした。

突然の轟音と振動が社交場を襲いました。
手にしたワインに波紋が広がり、指先に振動が伝わる。

社交場にもすぐに冥界軍の襲来が告げられ、周りは宴の喧騒とはまた違った慌しさを見せ始めます。

でも私は自分でも驚くほどに、ぼーっとその様子を眺めている。


なぜなら私は知っているから。


焔皇様に率いられた、剣の女神をはじめとする、この国の武人達がどれほど強いかを。

その体も心も、そして絆も。


それに私は覚えてるから。


いつかの虹の架かる紅砂の演習を。


大空を舞う天狼と蒼竜を。

戦場に花を咲かせる黒衣の軍師を。

虹の城門を護る慈愛の蔓達を。

風の加護を受ける剣士を。

仲間のため砂漠を駆る小さな少女を。

彼らもまた今この国に。この広間のどこかに。

「本当に・・・冥界さん達にとって最悪のタイミングですね、ふふっ」
彼等を想って笑みがこぼれる。

「でも・・・先の轟音は冥界弾・・・・ですよね」
科学に護られたこの城だって無傷ではないかもしれない。
そう思い当たると、グラスを置いて駆け出した。

ここには無い愛槍の元へと。

■歌が流れる@千歳

ううぅん。
娘の寝起きの唸りのような、甘い音を立てて機体にエネルギーが回り始める。
目的地はエージュを覆う城壁を貪る、禍々しい黒の城。

空を翔るも瞬きのような僅かな時間。
既に宴を抜け出した人々が開戦しているのか、所々で爆音や悲鳴が聞こえる。
上空からは戦局が良くわかった。
「アガット殿、八時の方向から死霊の群れが来ます」
「あぁ?」
ゴーグルを借りているとは言え、初めて騎乗する小型エアシップ。
今まで経験したことの無い速さの中では、機材を使わずに肉眼において敵の位置を探るなど不可能だった。
ならば何を持ってして探るのか。

エアシップの周囲に展開する小さな光。
実態を持たぬ幾匹もの羽虫が『何処』に『何』が居るのかを探知する。
「続いて二時、三時、四時と連なりが確認できました」

青年が身に宿す精霊のヒトツ、絶対知覚。
そして、もうヒトツ。

「撃墜に移ります」
シャツを捲くり、両腕がむき出しになる。
そこから何本もの蔦が『生』え出て、青年を座席に固定した。
やや腰を浮かし後方左へ腕を向けると、てのひらから生えた細い蔦が魔物の頭部を貫く。
そのまま垂直に進路を変えて、魔物の心臓を、頭蓋を、急所となる箇所を縫い針のように仕留めていく。
重みを増した蔦はその場で崩れて、また新しい蔦が青年のてのひらから『生』える。

常に取る大質量に頼った戦術では、むしろエアシップの機動力の邪魔になるだろう。
遠心力を生かして鞭のように扱おうにも、この速さでは扱いきれないのが予測できた。
そして恐らく着地をする時間など与えられず、周囲を魔物に取り囲まれるだろう。
だから強度を上げた一本に集中して、的確に急所を貫いていく作戦を取った。

エアシップが唸りを上げる。
高速で突き抜けるためか、立てる音は取り留めがない。

取り囲もうとした魔物に、蔦を鞭のようにして叩きつける。
ひるんだ隙に羽根を貫いて地上へ落下するのを見送る。
ぜっきょうが、どうこくが、いななきが。
そして機体の上げる歌が、線の展開する上空を彩った。

■Treibender Engel・1:しの

爆音・・・衝撃、そしてサイレン。
その全てが、天使には初めてで。そして、驚くべきものだった。
美しい輝く王宮が。みるみるうちに、鋼鉄の鎧を着込む。
微笑み、酔い、歓談していた人たちが。その手に武器を取って駆け出してゆく。

「ど、どうなさったの、です・・・かぁ?」

一瞬にして、総毛立ったこの空気は、・・・好きじゃない。

背から少し離れて、ヴンッと光の翼が現れる。
続いて頭上に光輪が。何かから逃げるかのように、天使はそこから飛び去った。
高く、高く、どこまでも高く。
嫌だ・・・この空気。よくわからないけど、ものすごく嫌。

天井を抜ける。
現時点での自分は、『実体』では無い。『聖気』と呼ばれる粒子の集合。
そこから抜ければ、『嫌な気配』からは、逃げられると思っていた。
しかし、抜けたその先にあったのは、さらに大きな怒り、絶望、腐敗の香り。

そして天使は知ったのだった。
怒りを隠し笑顔を繕う。その気配が『嫌』だったのじゃない。
『廃棄所』と称された地域。
其処に陣取る、4人の禍々しい、娘たち。
かつては、澄んで美しかったであろう、その魂の気配。

「・・・なんて痛い、哀しみ・・・」

呟いた天使の瞳に、普段通りの幼さも、紫の虹彩も無かった。
爛々と金に輝く瞳孔。
今は、『紫乃風』としての意識は、眠っていて。
『天使』の本能で動いているだけに過ぎなかった。

「heilige - Zeremonie!」

王城に指先を向け指弾を放つ。

「32 Kapitel - Schwert der Gerechtigkeit!!」

其処から解放された光は、ごくごく薄いヴェールとなって、王城を包んだ。

「今はこれが・・・精一杯・・・。
戦ってもこれでは足手纏いですね。
ならば仕方がありません、体は返しますよ『紫乃風』!」

そして天使の背からは、光の翼が消え去った。

 ***

その後。空を行き交うエアシップ乗りたちにより、
『屋根に登って降りられなくなった子供』が、
ダンスホール上で救出されたとか。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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