2010年01月12日

待ち合わせはオープニングダンスで

秘密を分け合った三人の、夢のような一時が始まる


..
■参加表明、そして@千歳

革靴の高い音を響かせて受付に影が落とされる。
彼は地味な男だった。
緑がかった黒髪は鮮やかとは言えず顔立ちも凡庸である。
オリーブ色の瞳は眠たげに垂れている。
背丈だけはやたらに高いため、そういった意味では目立つ男だった。

受付表に癖の無い丁寧な字で名前が書かれる。
夏山千歳。
此処に筆を入れるのも三度目となった。
始めは赤茶のロングタキシード、二度目は翡翠の法衣。
三度目、青年はショコラのベストで臨んでいた。

顔を上げる。
ベルベットのマントが揺れる度に鮮やかな花が見え隠れする。
大輪の牡丹、絡む蔓草。
彼の足取りは目的を持っていた。
最後と思っていたものを覆す夜に、奇跡の存在を信じた。


■貴女と咲かせるオープニングダンス@千歳

偶然も運命も奇跡も行動の積み重ねであり。
微量の力が集まって、初めて大きな流れが出来る。
その流れは色んな名称で呼ばれる。

私はそれを奇跡と呼んだ。

その男はホールの中央にいた。
見本となるべき立場でありながら、対となる女性もおらず、ただ人々を眺めていた。
腕を組み目を細め口を上げ。
彼は探していた、芽吹きの足取りを。
「見つけた」
そして彼は知っていた、探知の精霊を使わなくとも、彼女を見つけられることを。

突然、人々を掻き分け手を伸ばす。
波が引くように作られた空間から、一人の少女を連れ出した。
古風なドレスに身を包んだ結晶生物。
宝物を見つけたように、きゅっと笑顔が切ないものになる。

「貴方を攫いに参上致しました」
その場に跪いて、手の甲にキスを落とした。
夏の雪、透明の華、恩愛をくれた人。
去年のオープニングダンスを最後に、彼女と踊れる機会は無くなってしまったのだと思っていた。
私は選択をした、彼女も選択をした。
互いの間に残ったのは兄妹のような慈しみであり。
もう、その手を取ってはならないのだと思い込んでいた。
「また千歳と踊ってくださいますか」

願いは、時々、叶う。

管弦の始まりが再生を歌う。
かけがえのない友人の手を取ることに、終わりを記さなくて良いと知った夜。
男は一滴だけ涙を零した。
そして、群集から少女の手を引き、舞台の中央へステップを踏んだ。

■そして2人のフラワーブロッサム:ユキ

少女は壁に咲く華だった。

受付を済ませた後は参加者や衛兵と挨拶を交わしながらも喧騒を離れるようにホールの端へと身を潜めた。

(今年はどんな方と踊るのかしら)

真新しいドレスは期待と緊張と共にこの身を包む。
昨年は、一昨年はどうだったかと目を閉じて思いを馳せる。


空気が 動いた。


いくつもの音が震えるのを感じた。
手に熱が、温かな感触が。
耳に柔らかい声音が。
そっと目を開けば、見下ろす形で深緑が飛び込んでくる。

優しい笑顔。
「また千歳と踊ってくださいますか」
「また、踊ってもいいの?」
これはきっと星屑がくれた奇跡。

手を引かれ、壁の華は螺旋を描きホールに咲く。
見上げるパートナーの頬を雫が伝う。
ふわり。
瞬く間に同じ高さまで舞い上がると、唇でそっとその進路を留めた。
楽しい宴はこれから、と淑女の笑みは無言で語る。
胸元の月の石が歓びに揺れる。


重なる手と手。
連ねるステップ。
裾は空気に開く。
音を感じ、貴方を感じ、どうぞ星が優しく瞬き続きますように。

■咲いた花はいつか枯れ@千歳 夏山千歳 2009/12/15 01:38:05 

あくまで手本でしかないダンスの時間は短いものだった。
誰にも気兼ねすること無く、のびのびと踊る二つの影は輪郭を鈍くする。
それは強く照り返す金の床と、優しく内包するバルーンが、シャンデリアだけではない明かりを会場にもたらしているからだ。
強調しないものが光景を優しくする。
ドレスが膨らむ、マントが翻る、裏地の花々が顔を覗かせる。
照れたような笑顔で彼らは踊り続ける。

十四回+α踊っただけの経験が、自信になる。
しかし決して上手とも言いがたい挙措のため、その点において正しく手本である自信が無い。
「あ」
一瞬、足が交差する。
焦りが瞳に浮かんだ瞬間、自分にだけ聞こえる大きさで囁きが聞こえた。
「―――」
予定調和だったかのように少女の身体が浮遊して乱れたリズムを立て直す。
ダンスは何事も無かった風に続く。

思い返せば、彼女と踊るのは既に三回目。
息も会うようになる筈だと、しみじみ思って眉が八の字になる。
情けない笑顔に視線だけで尋ねられると、もう肩肘張らなくて良いという認識が口を緩くした。
「ユキ嬢はもう立派な淑女なんだなぁと」
暢気な会話とは裏腹に音楽は盛り上がりを迎える。

貴女と咲かせた花は今もこの胸に残っている。
雪肌に覗くエーデルワイス、新緑と深緑が迎えた梔子、そして今年の八重桜。
「また来年も踊れるだろうなって思いました」
大言壮語ですね、笑いながらステップを止めた。
手を繋いだまま、会場を見回して一礼。

ふと繋いだ手を離した去年がオーバーラップする。

言いようの無い寂しさを、つむった瞼の裏に見ていた。
咲いた花はいつか枯れるという事実を直視できなかった。
そして今、顔を上げれば。
降り注ぐような拍手、友人達の労い、称えるような司会の笑顔。
目をつむっていては気付けないものがそこにあった。

枯れても残るものがある。

舞台袖に戻る途中。
偽りの聖職者と期待の新人さん、二人とすれ違う際に身を寄せる。
四人にだけ聞こえた耳打ち。
ハプニングからの抜擢だから不謹慎かもしれないが、そう気付けるチャンスをくれた彼らと少女に感謝を込めて。
「・・・ありがとう」

■ぱたぱたと落ち着かない天使・1:しの

右を見ても、左を見ても。きらびやかな人、人、人。
綺麗なものや可愛いものが、何よりも好きな天使だけれど、
こう誰も彼もが綺麗だと、目がぱちぱちしてしまう。

テーブルから取ったお菓子を手に、きょろきょろとしていると、
唯一、平時とほぼ変わらぬ佇まいで考え込む、友人の姿があった。

「ギゼさまみーつけ、なのですよぅ! お菓子あげるですー!!」

ざらざら、と一掴みの飴玉やらチョコレートやらを、その手に渡す。

「みんなみーんな綺麗なのです。でもちょっと疲れちゃうのです。
ギゼさまはほっとするのですよー」

軍服のこの少女とて、ドレスに袖を通せば、誰にも負けない美しい、
淑女となるだろう。
しかし、原石が宝石に変化することを、幼い天使はまだ知らない。

天使の格好も、綺麗といえば綺麗ではあるが、
奇妙といえば奇妙だった。

真紅のチュニックに短パン、スニーカーという、少年めいた服装に、
ドレスと花が大量に盛り付けられている。
装飾センスは悪くはなかったが、子供のお姫様ごっこにおける仮装、
という感が否めない。

それでも天使は笑っていた。
幼さゆえにドレスというものを、よく知らないだけかも知れない。
けど、友人が飾り付けてくれたという事実が、ただ嬉しいのだろう。

「うふふー、ギゼさま元気出しますですよー。
美味しいお菓子を食べたら、元気百倍なのですよっ」

そして、チョコでべとべとになった指を舐めながら、
オープニングダンスの二人が、壇上から下がるのを見る。

「わああぁ、ユキさまと千歳さまも、おしごと終わったみたいです
お菓子あげてくるですよー☆」

くるくると巻く髪を揺らして、天使はぱたぱたと駆け出した。

「ユキさまあぁ、千歳さまあぁあ!
すっごいすっごい、お綺麗でしたのですよおおおぉぉ!!
はい、これあげるですー☆」

子供はこんなシックな場所でも、とても無邪気で騒がしかった。

■おにいさんとてんし@千歳

ようやく会場に戻ると、お菓子で顔を汚した天使が駆け寄ってきた。
「あらまぁ、ふふ、ありがとうございます。
でもその前に」
手近なナプキンを取り、しゃがみ込んで顔や手をぬぐう。
「折角のお洒落さんなのですから、きれいきれいを心がけましょうね」
はい、できました、と満足そうな青年はどこか保護者めいていた。
傍らで微笑む少女も、今の風貌もあってか姉のように見守っている。
まるで彼らは似ても似つかないが、兄妹のような和やかな空気が流れていた。

「楽しまれているようで何よりです。
その格好も良う似合っておりますねぇ・・・あぁ、そうです」
ちょっと待っててくださいねと言い残し、立ち去る青年。
十数分後、その手には暖かそうなケープが一着あった。
「控え室に腕の良い仕立て屋さん?がいらっしゃって助かりました」
それを天使の肩にかける。

深いワインレッドのベルベット生地、茶色のファーが子供らしからぬかもしれない。
「千歳が昔、作ったドレスの余り生地から作りましたケープです。
結局、使う機会もございませんでしたので、少々手直ししていただきました」
髪の毛を整えて、最後に何処からともなく現れた蝶々の精霊を頭に止まらせた。
「水紡士(みつむし)と言います・・・無口な性質ですが、何か迷った際の道しるべになりましょう」
会場は広いですからね、と笑いかけて立ち上がる。

■さぶひ…:るち

長く外にいるのは危険。
流れ星にお願いはまた後で、です。

冷えた体を縮こめて室内に戻った、その視線の先。

「ぁ、ラディー様発見♪鶏のお料理美味しそー…」

じゅる……ぁ、いかん(拭き拭き(コラ
同じの頂こうかなぁ……などと迷う目の前を
長身の男性が横切る。

「夏山様みっけたぁぁ♪ヽ(´▽`*)ノ」

どかーん!

……は、しまった…
ちっちゃぃ時のつもりで思いっきり突進した…

「ぁ〜…とぉ………ゴメンなさっ★(*ノノ)」(ぉぃ

■ダンスの後:ユキ ユキ・トーカ

オープニングダンスはあっという間に終わってしまった。
それは奇跡の常か、楽しい時間ほど早く過ぎるというものか。
それでも夢幻のようとは思わない。
ここに確かに繋がっているから。
たいげんそうご、の意味を思案する。が、落ちない。
なので、その直後を拾う。
「来年も、また一緒ね」

「素敵な時間をありがとうございました」
舞台袖、4人で交わす笑顔。
それはすでに少女のものに戻っていた。

一息つく間もなく駆け寄ってくれる風。
「ありがとう、しの様^^」
手のひらいっぱいのお菓子が、天使も宴を楽しんでいることの現われのようで嬉しかった。
しばし談笑していると、パートナーだった青年が戻ってくる。
肩にかけられたケープに、こちらまで暖かくなるようだった。
「素敵よ、しの様。私もドレスも千歳様が作ってくださったの。お揃いね」

■針水晶とおにいさん@千歳

悲劇の時間は少々、遡る。
天使と精霊と歓談していた頃、その青年の真横より突進してくる何かがあった。
それは天女の後輪のように突然で、父に会った娘のように嬉しげで、猪の勢いを殺すことも無く突っ込んできた。

「夏山様みっけたぁぁ♪」
「むひゃああああああっ」

見事に吹っ飛ばされた青年。
ヤベ、やっちまったという顔を隠して、しなを作る少女。
「る、るちる、嬢?」
見事な尻餅をついた青年に手を貸しながら謝るが、どこか気さくな様子だ。
彼らもまた旧知の仲だった。

「びっくりしました、すっかり大きくなられて千歳は嬉しゅうございます」
「るち、元々大きいのよぅ!?」
「見違えましたね、こうして女性はレディへと成長してゆくのだと感慨深くもございます」
「ちっちゃい子扱い!?ちっちゃい子扱いですか?!」
「でもヒールで突進は足を捻る危険もございますから、門限を守って気をつけて遊ぶのですよ」
「いやあぁぁん!夏山様、お話聞いてえええぇぇぇ!!」
ささやかな復讐である。

すると突然、流れるアナウンス。
場の空気が一瞬、ぴりりと硬いものになったが、何事も無かったかのように穏やかな騒がしさが戻ってくる。
「・・・あぁ、しの嬢、ユキ嬢。
千歳は少々旧交を深めて参りますゆえ、少々失礼致しますね」
マントを整え、手を振ってから歩き出した。

■ちっさいてんしと、おっきいおにいちゃま・1:しの 

「むー、むー?」

ナプキンで口元を拭われ、チョコレートの汚れは綺麗に落ち。
騒がしい天使の、少しぽってりとした、薄紅色の唇が露になった。
態度や言動の幼さで、あまり目立ちはしないが、
真白い肌にラインの濃い眼、小生意気にさえ映る尖った口元は、
わざわざの化粧を施さなくとも、その面立ちを派手目に彩っていた。

そんな天使に、似合う色といえばやはり、濃い深紅だろうか?

深緑の青年が持ち出して来たのは、それを見越したかのような、
気品のあるケープであった。
大量のリボンを結んだ、子供じみた佇まいが、ほんの一瞬にして、
ゴシックに変わる。

「わあああぁーっっ!!!」

天使は喜んでくるくると回った。
尤もデザイン的な部分より、『あたたかくてふわふわ』という、
感触的な特製が、その心を掴んでいたようだが。

頭に止まった綺麗な蝶も嬉しい。
しかしそうなると、肩口に巻いて胸元で留めている、
紗のリボンが少々邪魔になる。

「・・・そうだっ!!」

ケープの下からリボンを外し、しゃがんで貰った青年の髪の、
結び目に巻きつけた。
留め金の花も、耳元の簪の上に挿す。
小さく清楚な姿とは裏腹に、『聖夜の薔薇』の名を受けた、白い花。

「うふふぅ、とっかえっこなのですよぅ!!」

少々長過ぎるリボンを、ひらひらさせている青年に、
弾けるような笑顔で天使が言った。

■ちっさいてんしと、あおいおんなのこ・1:しの

涼しげな蒼と、時代がかった衣装を纏う少女の、一言に。
天使の頬がぱあっと朱に染まる。

「はいっ! おそろい、おそろい、なのですよぅ!!」

手に持ったお菓子を、撒き散らさんばかりの勢い。
と、ふと思いついたように、自分の頭をもそもそと触る。

「・・・うんっ!!」

手にしたのはやはり『聖夜の薔薇』。
今度は胸元ではなく、頭上のリボンに、結わえていた分だ。
蒼い少女の帽子に、ピンで留めると、満足げに頷いた。

「うふふ、これでユキさまも、お揃いですねー」

自分の髪飾りが地味になった?
大人びた上品なケープに、紗のリボンだけじゃ、劣ってしまわないか??

その心配はない。今はどんな花よりリボンより。
鮮やかな彩が宿っている。

『みつむし』と名の付いた、鮮やかに美しい蝶がいる。

星の宴。聖夜の薔薇を飾った3人。
何ら秘密のことではないのに、3人だけの秘密を持ったような、
ちょっとくすぐったい気分になった。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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