2009年11月13日

よるがおりてくる 弐



..
「でも、それを越えても『したいことがある』・・・だから『逢いたい』」
逢いたい。
口の中で繰り返していく度に言葉の意味を失って、ただの四音になっていく。
逢いたい、会いたい、あいたい。
・・・とうに失ったと思っていた人物と逢えるのならば、自分は何を望むだろうか。
「父さん・・・ヒヨリ」
心も体も摩耗して、薬も間に合わず病死した父。
ただ一時、目を離した隙に永劫の別れを強要された妻。
夜を渡る鳥としてではなく、斜に構えた傭兵としてではなく。
自分を一人の弱い男として認めてくれた二人に、もし逢えるとしたならば。
「・・・」
ただ礼を言いたかった。
もう恩を返す事も、甘える事も、連れ去る事も叶わないのなら、確かに自分が感じていた感謝の気持ちを伝えたかった。

「はは・・・違う、こんなの詭弁だ。
こんなのは自分がいい人間のフリをしたい、だけだ」
本当は赦しを請いたい。
どちらも自分さえしっかりしていれば失わずに済んだのだ。
二人を死なせたのは自分だ。

「・・・ぁ」
渇いた喉をさすり、浅い呼吸を整えていて気が付いた。
『あの人』の感じる罪は、これなのだろうか。
何もかもを背負い込んで罪を被る方が『楽』だから。
自分が悪いのだと言っていれば、これ以上は誰からも責められない。
そんな自分は可哀相だろう、と無意識の壁を作るから。
時折、その壁を乗り越えて差し延べられた手に期待して、それもまた上手くいかなくて。
何故、失ったのかという根本には思い至らないまま。
終わらない罪、終わらない罰。
彼は想いを向けた『理由=欲求』を見詰めなかった事を罪とした。
ならば『あの人』の罪とは何だろう。

「どちらにせよ・・・二人共、もう罰なんざ十分くらっているだろうに」
性癖なのだろうと片付けたくなるのを堪えて。
結局、纏まらなかった思考のせいで痛む眉間を解してから、シチューを掬い上げる。
黄ばんだ白は何食わぬ顔をして、とろり鍋に落ちていった。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 火の鳥の手紙、又は手記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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