2009年11月12日

よるがおりてくる

ポストには紙が張られている

『出張の準備につき暫く留守がちになります
12月からは本格的に家を空けます
ご了承くださいませ』

煙突からは煙りがのぼり、シチューのいい匂いがしてくる


..
この大陸に戻ってから新しい癖が出来た。
胸の内ポケットをなぞる仕種がそれである。
「・・・ん」
鍋を掻き混ぜる片手間に、細い円の金細工がそこにあるのだと確かめる。
同時にそこに宿る精霊の所在の確認に繋がる。
何せ彼はこれが無いと存在できぬ程、弱い。
眠りの時間が殆どを占めていても、同郷・・・つまり出生の近い生物・・・の自分がいるからこそ目覚める事が出来るのだ。
かの青年の元でマナを蓄えた結果がこれである。
蓄えたとてここまでしか回復しなかった。
つまりそれは輪廻から存在を拒否されているに他ならない。

そう、彼は最早、現世の輪廻にあれる筈が無かった。
肉体を放棄した瞬間に消えてしまったとて不思議は無かったのだ。
彼を生かしていたのは彼の願い、未練、はたまた意思の強さだ。
「『あの人』に逢いたい、か」
会話が無くても良い、気付かれなくて良い、一目だけで良い、だなんて。
「お前さんは何がしたいんだ・・・?」
なぞる、布地の輪郭の先を。
一目見るだけで済ませられる事柄。
つまり『あの人』が元気でやっているのを確認したいのならば、この間の訪問でとっくに済ませていただろう。
それをしなかったという事は、それでは『納得出来ない』のだ。

彼は従順に見えて強欲である。
そして、かつてはそれを自覚していなかった。
「でも話せなくて良い・・・近付くのが怖いって所か、な?」
風化されつつある記憶は美しい思い出となるだろう。
良いか悪いかはさておき、それは事実を見詰めない事に繋がる。
「拒否されたくない、実は嫌われていたと知りたくない、まぁ理由は何であれ傷つきたくないんだろうな」
風前の灯なのだ、良い思い出で締め括りたいのは当たり前の思考だろう。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 火の鳥の手紙、又は手記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック