2009年11月07日

手紙 漆



..
「さぁ右業、かの御方を探しにゆくのです」
青年の指先から光が飛び立つ。
蛍のように控えめなそれは幾つか生まれて天井に吸い込まれていった。
知覚の精霊は、およそ数日とかからず男の居所を探るだろう。
右業の存在に気付いた時点で自分の意図まで気付いてしまうだろう。
そして、それまでに書き上げた手紙を読んだ時、泣きそうな顔を押し殺して何事も無かったように自分の元へ訪れるだろう。
確定に近い未来を想う。
全てが終わる頃には、もう少年は自分の元から去っているのだ。
名目上は自分の庇護下にあるが、少年はもう独立した精霊だ。
だから恐らく、それが永遠の別れとなる。

「・・・淋しゅうございますねぇ」
少年の記憶にあったような身を焼くような淋しさではない。
終わらない慟哭でも無い、立ち上がれぬ程の絶望でもない。
ただ木枯らしのように、小さくて懐かしい淋しさが胸の底でけぶる。
「懐かしい・・・そう、でしたね。
千歳はこの感情を存じておりました」
これは喪失だ。
憧憬を失った時に味わった、大切な存在と自分の感情の喪失。
その全てを、この手紙が運んでくるのだ。
くしゃりと握り潰す。
知っている、少年は旅人で自分は仮宿でしかない事を。
箱にしまい込んで大切にしていた子鳥が成鳥となり出立するのを慶ばねばならないのに。
瞳に憎々しげな色が宿るのを自覚したから目をつむる。

『千歳、それはね悲しいって云うんだよ』
ちかちかと光を透かす瞼の裏で囁かれる。
憎悪では無い。
よく似ているから勘違いしそうになる。
いや、勘違いしたいのかもしれない。
『そんな顔、千歳には似合わないって右も云ってるよ』
相変わらずシャイなんだからと明るく続けられる。
生前から落ち着いた人間性だったと聞くから、この似合わない振る舞いは、恐らく自分を慰めるためのものなのだろう。
何時だって不調に気付くのは羽虫の精霊で、態度に表せられない彼をフォローするのは蔦蛇の精霊だった。
「・・・ふふ」
溜息とも苦笑ともわからぬものが零れる。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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