2009年11月06日

手紙 陸


..
生前から魔法の扱いは不得手としていたためか、無理な方法と経緯で精神体になったためか。
少年は酷く不安定な存在になっていた。
穴のあいた袋から水が零れるように、少年を少年として存在させるためのマナを急速に失っていった。
それを防ぐために青年は少年を保護した。
深緑の石に少年の精神を閉じ込め、足輪を媒介にして、世界を流れるマナを注ぎ込んだ。
夏山の血肉は一滴も扱わず、ゆっくりとした治療を続けた。

しかし夏山自体の力を扱わずとも、マナを注ぐ作業とは精神の触れ合いである事に変わり無い。
次第に眠りの内にて少年の記憶が再生されるようになる。
それは蜜月と孤独の透写。
言葉として伝え聞いていたものを、夢とは言え一人分の人生を追体験し続けた。
そうして寝覚めた朝、ようやく全てを悟る。
彼が目覚める時が来た事を。


文机に向かうのは、どれだけぶりだろうか。
時折、思案の手遊びに使い込まれて飴色になった光沢を撫でながら、筆を走らせる。
「前略、ティル・ラー・ポット様・・・」
フリーの傭兵。
内密のメッセンジャー。
夜に生きる極彩色。
火の鳥。
様々な面を見せる少年と同郷の幼なじみである、ティーラと呼ばれる男。
この大陸を離れられない自分に代わり、少年の魂を運んでもらうのに、これ以上無いほど適任だった。
マナの扱いを得手とする事、事情を理解している事、どちらも必要であった。
何よりも、この旅が少年を消滅させるためと承知し、最後まで見守れる人物である事が必要だった。
根底は誰より・・・自分など遥かに及ばず・・・優しい男だが、生存のため、仕事のために必要なら非情に徹する事のできる男だった。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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