2009年11月04日

手紙 肆



..
窮屈さを訴えようにも罪悪感がそれを咎める。
時折、幼なじみの少年少女がたしなめるが彼らとて踏み込みきれる覚悟が、その当時は無かった。
飛ぶ事の叶わぬ兄はドーム型の植物園を手入れし、畑仕事をし、薬学を学んでいた。
不毛の地に安定を求めた両親が残したものだった。
一方、健やかに育つ翼、天才的な弓の腕を持つ少年は大人達から将来の狩猟頭として期待を受けながら、兄の嫌がる様子から満足に猟へ出る事が出来ずにいた。
強風にも負けず空を翔けると気持ちが良い。
針の穴を射抜くような正確なコントロールをみせた時、脊髄が冷たく燃え上がる。
その悦びを知っているのに、外は危ないからと兄の目が引き止める。
そんな生活に疲れきってしまった少年は自由を求めた。
誰も自分の罪を知らない場所へと逃げるように旅立った。

最後まで兄は賛成してくれなかった。
ただひっそりと幼なじみ・・・少年が旅立つより昔にフリーの傭兵として旅立った男だ・・・を少年の監視役に充てた。
結局、少年が自ら故郷に帰るまで一度たりとも直接の連絡を取る事は無かった。
互いに間にクッションを敷き、怯えるように距離を取っていた。

そうして長い間、空を飛び、地を歩き、海を渡り。
たどり着いたのは月の美しい国だった。
日照時間が極端に短く、何処よりも月が近くに見られる夜の地域。
何も知らぬまま、解らぬまま。
そこにいた人々の温かさを享受していた少年は、生まれて初めて憤りと憐れみを知った。
不条理から落城する怒り、言葉が意味を持たぬもどかしさ。
国の概念を持たなかった少年が初めて愛し生きた「祖国」を失う哀しみ。
そして疲れ果てた弱く美しい人への恋と同情。
そのどれをも真正面から受け止め過ぎて・・・少年は疲弊していった。
自暴自棄と淋しさに負けて肌の温もりだけを求める小鳥に成り果てていた。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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