2009年11月02日

手紙 弐




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子鳥とは不健康にやせ細ったバードマンの少年を指していた。
長い麦色の髪はパサパサに乾き、白い翼も痩せている。
空色の瞳はうろんげで同色の振袖も着られている感があった。
特別、美しい容姿ではなかったが大きな瞳と年より幼い顔付きは愛嬌があった・・・と思われる。
痛々しく痩せ細り、沈痛な表情を浮かべる様は少年を子鳥という愛玩動物に仕立て上げていた。

彼を持て余していた理由はすぐに解った。
常は押し黙り、従順で貞淑な妻のように奉仕する大人しい子鳥。
かと思えば思い出したように、ひたすら泣きわめき自傷する。
心配と独占。
両方が成り立ち、初めて愛情を受けていると信じられるのだろう。
青年に心配や同情はあっても独占は無かった。
ただ郷里の義妹が時を失ったと知った時に、彼女がどれだけ強かったのかを改めて知り、思い馳せた。

義妹に接するように日々、子鳥の面倒を見ていた。
決して欲望の対象としない青年に絶望したが、少年は徐々に心を開いていった。
最初は彼にとって耐え切れぬ後悔と、短かったが存在した優しい蜜月の思い出を繰り返し繰り返し語った。
どれだけ幸せだったか、どれだけ自分が悪かったか、どれだけ淋しかったか。
定型文の嘆きは最後まで止める事を知らなかった。

次第に少年は終わらない大陸に渡った直後や、渡る以前の話をするようになった。
足を踏み入れて直ぐに猫族の友人が出来た事。
国境の無い通りで喫茶店を開いていた事。
月の美しい国が彼にとっての祖国だという事。

風吹き荒ぶ切り立った崖が彼の故郷だった。
終わらない大陸でも古の大陸でも失われた大陸でも無い場所にあるという。
独特の文化を育み、精霊信仰を支えとし生きている。
人間が暮らすには過酷な環境だが、ここのみが部族の発祥の地なのだと血潮が離れがたいのだと訴える。
家畜と少しの野菜を育て、狩猟を主とする。
外界との交流は積極的だったが外の人間がたどり着く事は稀で、部族が外に向かう他に交流の術は無かった。
生ける最中は短く死ぬ瞬間は如何であろうとも定めであり抗う事を知らぬ。
自然の流れに従順だったとは言え・・・狭いながらも優しい世界だった。
posted by 夏山千歳 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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