2008年12月18日

my little snow は終わりを告げる

それは私達の巣立ちでした。




..
■最後のオープニングダンス@千歳

さて、ダンスホールの中央で向かい合う一組の男女。

翡翠の法衣を纏った背高の青年が、胸の前で両手を組んで一礼する。
深緑のドレスで彩る結晶生物の少女が、答えるように手を差し伸べた。
それぞれの手が重ねられた瞬間。
合図の声も無くダンスは始まる。

密やかな管弦をBGMに二人はステップを踏む。
翡翠が鮮やかに翻ると、後を追うように深緑の裾が柔らかく花開いた。
金の炎と、星屑と、永寿の国の民が見守る中で。

それは冬のエージュに訪れた、小さな奇跡。

彼らの軌道はまるで、春の若草が足元を満たし、夏の光が葉を更に色濃くし、後に残る金の床は一面の麦畑となる。
草木の芽吹きのようなダンスだった。


■刹那のオープニングダンス:ユキ 

青年と少女の軌跡は緑風となり、音色を重ねてホールに広がる。
少女は若干たどたどしい。
視線が落ちる。
大舞台に緊張しているのかもしれない。
青年が優しく声を落とし、名を呼ぶ。

「ユキ嬢」

少女が顔をあげると、期待通りの微笑みが待っていた。
応えて微笑み返せば、気持ちも柔らぐ。


音楽が盛り上がるにつれて胸が高鳴る。
終わりが近づいて、握る手に力がこもる。
大丈夫と、握り返す手が微笑んでくれた気がした。


青年と少女が手と手を離し、一礼。
オープニングダンスは終わり、聖なる宴が始まる。


■マイ・リトル・スノウは終わりを告げる@千歳 

管弦の終わりと共に、それぞれが会場に向かって一礼する。
瞑った瞼の裏で、隣りに佇む彼女がなにを想っているのか、どんな表情をしているのか。
静かに思考した。

あまりに短い一時は、夢のように朧気だった。
触れた指先の冷たさだけが感覚を残している。
緊張はしなかった。
むしろ今の方が緊張している。
舞台裏へと手を引きながら。
とうとうこれを伝える日が来たのだと、唇を噛む。

「・・・ユキ嬢」

薄暗い通路で呼び掛ける声はかすれている。
振り替えれば無邪気な瞳があるのだろう。
その無垢を私は愛した。
遠い故郷にて待つ妹のように。
だが、気付いてしまった。
それを向ける相手は私であるべきではない。

「千歳がエスコートできるのは此処までです」
彼女の瞳が一点をさしている事は薄々ながら気付いていた。
「これからは貴女が一番想う方のお傍にいるべきなのですよ」
振り返り微笑う。
彼女の巣立ちは笑顔で飾りたかったから。

そして願う事が許されるのならば、どうかその人に優しくしてください。
私の分まで。


■しばし留める熱:ユキ

手を繋いだまま、優しい声を聞く。
いつもいつも降り注いでいた。

微笑みがそこにある。
いつもいつも見上げていた。

寂しさがこみ上げた。
この優しい手がじきに離されるからだろうか。
傍にあの人がいないからだろうか。
きっと両方だった。

幼い淑女はそれがわからず、たまらず、翡翠の紳士の首に縋りついた。
抱きとめる紳士の手は大きく、温かい。
この熱は、きっと忘れない。

−ありがとう、千歳様

触れれば融ける雪のような声で告げた。
posted by 夏山千歳 at 13:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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