2016年11月11日

もう誰も居ないこの世界の中で

 何かの漂流の末に行き着いた全ての可能性、ましろがシェイクスピアを書き上げる程の奇跡、軌跡を以て、いずれそうならなければ良い、という祈りばかりが、この身を焦がす。つまり、そう、最早不要であるのだと。ならばようやく私は私の生に当たって一つの事実を記すことを赦そうと思いました。
 夏山千歳は、故人です。古の大陸崩壊時に自死致しました。

 それがこの生の結論です。

 歌を歌って欲しかった、愛の歌を。魔法をかけて欲しかった、愛の魔法を。私にとっての歌は、もう終わらせて良いとの許可。私にとっての魔法は、共に生きていこうと差し伸べてくださる御手。とても存じているのです。存じているのです。そんなものを両立さえようなどと、愚の骨董。恥を知れ。終わらない問いかけと怨嗟の念の中で、ようやく浮き彫りになりました。千歳をその手にかけようとしてくださって、ありがとう。手を刺し伸ばしてくださって、ありがとう、と。
 とても考えました。とてもとても考えました。自分のために生きること、誰かのために生きること。そのどちらも得難く尊いものなのだと、天秤にかけるのさえおこがましい。何故なら、誰かのために生きることなど、自分のために生きることに他ならないのだ。夏山千歳のゴーストは教えてくださいました。夏山千歳が穏やかに笑って生きていてほしいという他者の夢が、陽炎を産みました。あれは大多数の他者の子供と呼ぶにふさわしい存在なのです。だから消えました。自立する意思のない魂は、崩落する幻想に巻き込まれて圧死するだけなのです。ならばこそ自分のために生きてゆくこととは、何だろう、と、思いました。

 誰かのために生きてはならない、という枷こそが、その答えだとしたら。世界はこんなにもさみしい。

 ああ、夏山の地が、同族殺しの血で穢れてゆく。ですがもうそんなのはどうでもいいのです。至る呪いはいずれ決壊する。隔離した境界が結界と呼ばれるように。夏山は、もう、終わりです。それで良いのです。私の名は夏山千歳。ただの夏山千歳。もう夏山家当主白妙之千歳は、この世には存在していないのです。そして存じ上げております。どなたももうこの告解に辿り着かないと。だって、そうでしょう、死人に梔子。千歳と言う魂は、もう誰の中にも、残っていないのです。私がそう信じております。
 ……ごめんなさい、嘘です。私の魂の片割れ、私の永劫回帰の夢。ただただ優しいだけの、毎日。そういったものを知っております。識っております。千の幸いよ、星となれ。私の届かなかった白鳥の頂に、お行きなさい。
 だから、だから、千歳は終わりで、もう良いでしょう。いいえ、ごめんなさい。しかして届かないと知りながら、私は唯一残した約束に胸を痛めている。私はあなたの壁となる。その約束を、もう覚えていらっしゃらないであろう約束があるものと認識している。しかしていずれ風となり、消えてゆくのなら。
 未練が、あるのです。
 それでも夏山千歳は、もう故人です。こんなにべらべらと喋る故人だなんて、おかしいことですね。ですが真実です。私は私の手で私の生を終わらせました。誰にだって譲ってやるものか。一生涯、己を恨め。私を恨め。ですが真相は案外、優しいものですよ。目を瞑ると優しい暗闇が待っているのです。ようやくこの責務から解放されるのです。夏山千歳と言う名の責務。だから。
 誰にも見つからねば良いと思う気持ちと、誰かに見つかるだろうと言う矛盾を抱えて、私は瓶詰の地獄を放流することに致しました。これが四年目の真実。さようなら。私は再び瞼を閉じる。次に寝覚めるその時まで。
posted by 夏山千歳 at 01:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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